新工場を稼働させ、堅実な経営を続けていたが、関社長は「現状のままでは今後の成長は見込めない。どうしていくべきか」と思案していた。マルチブレードは主力製品に育ち、受注量は順調に増えていたものの、生産現場の意識は町工場にいた時のままだった。部品や工具は床に乱雑に置かれており、ロボットを導入しても稼働率は20%以下にとどまり、うまく活用できなかった。不良品比率はじわじわと上昇していった。一方で、新本社への移転で借入金も増えるなど先々に不安もあった。また、マルチブレードのようないわゆる雪寒商品は、冬に備えて9月から11月が出荷のピークになる。その時期は残業が極端に増加するため、従業員の働き方に大きな負荷を与えていた。「生産や出荷を平準化させ、新しい技術開発にリソースを振り向けたい。人材育成にも時間を使いたい。そのために何らかの手を打ちたい」と考えるようになっていた。
そんな時、最大の取引先企業から、「今後の取引継続のために、ISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際規格)の認証取得もしくはTQM奨励賞の受賞を考えてほしい」と告げられた。どちらも品質マネジメントに関するフレームワーク。関社長はその時、「どうせとるならTQM奨励賞に挑戦してみよう」と考えた。当時、ISO9001は中小企業でも取得する例が見られたが、TQMは大企業が取り組むものと見られていた。そこにあえて挑戦することで、会社としても一段飛躍させたいとの思いがあった。
TQMは「総合的品質管理」とも呼ばれるもので、日本では日本科学技術連盟が普及の役割を担っている。顧客の要求に合った商品(製品・サービス)を経済的に提供するための活動の体系で、顧客指向、継続的改善、全員参加により展開されるものとされている。具体的な活動として、小集団によるQCサークル活動、PDCAサイクルによる業務プロセスの見直し、データ分析などを行う。部門の垣根を越えて全社で品質の改善に取り組むとともに、組織のあらゆる業務の質を向上させることで、従業員満足度の向上と、顧客価値の創造を実現させる。ISO9001が品質を継続的に管理し、顧客の要求を満たすための仕組みを整える文書化やプロセスを重視した最低限の品質管理レベルであるのに対し、TQMは、企業文化を作り上げ、そこから品質を高めていくという、より高いレベルの取り組みと言える。TQMの基本的な考え方は米国発祥だが、日本流の活動にアレンジして実践し成果を上げたのは日本だと言われている。