業種別開業ガイド

ファッションスタイリスト

2020年 10月 30日

トレンド

(1)市場は横ばい基調

一般的にファッションスタイリストの主な仕事の場は、雑誌や広告用の写真、テレビ番組や映画など、撮影の現場となる。これらに携わる企業が多く含まれる業種である映像・音声・文字情報制作業の2017年度の売上高は、2兆9,041億円(前年度比2.2%減)となっており、ここ数年間は横ばいとなっている(出典:令和元年度「情報通信白書」)。

(2)パーソナルスタイリスト

パーソナルスタイリストは、上記のようなメディア業界で仕事をするファッションスタイリストとは異なり、一般個人を顧客としてファッションコーディネイトを提案する仕事である。洋服選びについての顧客の悩みや要望に応じながら、その人に似合うファッションをコーディネイトし、アドバイスを行うほか、洋服の買い物にも同行する。

(3)サブスクファッション

若い女性を中心に、ファッションレンタルの定額制(サブスクリプション)サービス「サブスクファッション」が注目を集めている。ネットで会員登録すれば、多くの人気ブランドの中から気に入った服を月額制で複数レンタルできる。また、プロのパーソナルスタイリストがユーザーに似合うファッションを毎回コーディネイトしてくれるというサービスもある。こうしたオンラインでの一般個人向けスタイリングも、ファッションスタイリストの新しい活躍の場となりつつある。

ビジネスの特徴

ファッションスタイリングとアパレル業界に関する専門知識を生かして、顧客の求めるファッションを提案して対価を得るビジネスだが、顧客により業務の内容はかなり異なる。

撮影の現場では、出版社、テレビ局、広告代理店、芸能事務所などの企業が顧客となる。ファッションスタイリストは、依頼内容に合わせてモデルや出演者の衣装や小物のコーディネイトを担当し、撮影の打ち合わせ、使用する衣装や小物の調達や管理、現場立ち合いなどが主な業務となる。一方、パーソナルスタイリストでは一般個人が顧客であり、その人の専属スタイリストとなって悩みやニーズを聞き取り、予算内で似合う服をコーディネイトすることが求められる。

いずれも単発での依頼がほとんどであるため、リピート率を高めるとともに新規依頼を呼び込むことが事業拡大のポイントとなる。

開業タイプ

企業か個人のどちらを顧客とするかで、必要とされる経験や仕事内容が違ってくるため、開業する前に見極めておくことが必要である。

(1)企業を顧客として開業する場合

スタイリスト事務所での就業経験、または有名スタイリストのアシスタント経験が必要である。また、開業当初は前職で培った業界の人脈を通しての仕事が主となることが多く、現場経験ゼロからのスタートはハードルが高いとされる。

(2)パーソナルスタイリストとして開業する場合

特に業界経験は必要なく、ファッションの知識と接客スキルを身につけていれば開業は可能であり、最近ではパーソナルスタイリストに特化したスクールもある。

パーソナルスタイリストの開業タイプは次の2つに分かれる。事務所を持つ必要がないショッピング同行型が主流である。

  1. ショッピング同行型
    要望や予算をカウンセリングした後、顧客と一緒にショッピングしながら、試着や提案をし、予算の範囲内で洋服を選ぶ。カウンセリングはカフェ等で行うことが多い。サロンがなくても開業可能。
  2. サロン型
    事務所または個室に顧客に来店してもらい、カウンセリング、採寸を行い、必要な服を決める。数日後スタイリストが選んだ服の中から気に入ったものを購入してもらう。マンションの一室で開業可能。

開業ステップ

(1)開業のステップ

(2)必要な手続き

ファッションスタイリストとして開業するにあたり、法的には資格や手続きは必要としない。個人事業主の一般的な開業手続きとして税務署への開業申請を行う。また「色彩検定」や「カラーコーディネーター検定」など仕事関連の民間資格は、スキル向上のためにも取得しておくとよいだろう。

パーソナルスタイリングサービスについて

(1)メニュー

「カウンセリング+コーディネイト提案」が基本となるが、以下のメニューなどを組み合わせることも可能。

  • お試しメニュー
  • パーソナルカラー診断(髪や肌の色から似合う色を診断)
  • 骨格診断(骨、筋肉、脂肪のつき方などの特徴から似合う服を診断)
  • ワードロープチェック(顧客の手持ち服をチェックし、不要な服をプロの目で仕分け)
  • ヘア、メイクアドバイス(似合う髪型やメイクのアドバイス)

(2)料金設定

同行ショッピング型のパーソナルスタイリストの場合、カウンセリングやショッピングについて1時間ごとの料金を設定しているところがほとんどである。洋服代は顧客が店に支払う。

(3)SNSの活用

パーソナルスタイリストの場合、ホームページ、ブログ、SNS、メルマガを上手く活用して、自分の得意とするコーディネイトを積極的に発信し、ターゲットとなる顧客層を絞り込んで訴求することが重要である。掲載するコーディネイト事例は豊富にあった方が、実績の裏付けになり、信頼度も高まると期待できる。顧客基盤のないところから始める場合は、クラウドソーシングへの登録も1つの手段である。

必要なスキル

顧客に最適な提案をするために、自身のファッションセンスを磨くのはもちろんのこと、最新のファッショントレンドや商品知識、ショップ情報などは常にリサーチし、アップデートを心がけたい。パーソナルスタイリストの場合、顧客に同行ショッピングを楽しんでもらい、買い物に満足してもらうことが次回以降のリピート利用につながるため、コミュニケーションスキルが重要である。また、Webでの集客にITスキルは必須であり、今後はオンラインチャットを使った買い物アドバイスなど新しいサービスも導入できるよう、ツールやソフトの扱いに習熟しておくことも必要と思われる。

開業資金と損益モデル

ここでは初期投資を低く抑えるため、パーソナルスタイリストとして自宅開業する際のモデルを取り上げる。

(1)開業資金

【同行ショッピング型のパーソナルスタイリストとして自宅開業する際の資金例】

同行ショッピング型のパーソナルスタイリストとして自宅開業する際の資金例

(2)損益モデル

a.売上計画

年間延べ客数、1人1回当たりの利用料金を以下の通りとして、売上高を算出した。
1人1回当たりの利用料金は、カウンセリング1万円(1時間)×1.5時間、ショッピング1万2千円(1時間)×4時間としている。

売上計画例の表

b.損益イメージ

上記a.売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表
※標準財務比率は「その他の事業サービス業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

収益化の視点として第一に挙げられるのはいかに集客を増加させるかであり、そのためには固定客を掴みリピート率を上げることと、新規顧客の開拓の2つが必要となる。

第二に、客単価の向上が挙げられる。経済的に余裕のある顧客に対し、基本メニューの「カウンセリング+同行ショッピング」以外にも、オプションメニューの利用を促進することが単価向上につながる。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)