業種別開業ガイド
美容室
2023年 2月 17日
トレンド
美容室はコンビニエンスストアより多いとよく聞くが、全国で25万軒あり、美容師も52万人いるといわれている。厚生労働省の調査によれば、平成27年度の調査対象となった美容業の施設のうち88.7%が個人経営と圧倒的に高い。従業者も1人が32.4%で、2人が28.2%、3人が12.3%となっている。近年、美容室に雇われていたアシスタントがスタイリストへと成長し、その後に1〜2名で小規模の店舗をかまえる形で独立するというケースが増えている。
▼美容業の営業施設数の年次推移(単位:千施設)
過当競争のなか、淘汰も進む。廃業率は1年以内が6割、3年以内が9割で、年間2万軒が入れかわるともいわれる。厚労省の「生活衛生関係営業経営実態調査」によると、経営上の問題として8割が「客数の減少」を挙げているのだ。1〜3名のスタッフで売上1000〜2000万円規模という店舗が多く、まずは個人事業からの小規模での開業とし、拡大したら法人化を検討するという手順をすすめたい。
最近では、スタイリストに美容室のスペースを貸して働いてもらう、「シェアサロン」や「面貸し」と呼ばれるスタイルが拡大。店舗側では空きスペースを活用でき、美容師にとっても開業費を抑えることが可能となっている。
しかし、雇用のリスクを負わずにスタイリストを集めて数をこなしたい店舗側が、歩合制でスタイリストに支払いを行うというケースが増加。継続性・サービスの質の向上・美容室としての成長を真剣に考慮するなら「半独立」は短期間にとどめ、その間に開業資金を稼ぐと割り切って、「正式な独立」を志向したい。
一方、美容室業界にもサブスクリプション(定期・継続購入)のサービスが誕生している。たとえば、月額5830円からの支払いによって1200以上の美容室に通える『MEZON』、ビジターは3410円から・回数券は3回で9300円から・通い放題は月額2万5300円から利用できる『Jetset』、月額1万9800円からの支払いで300軒の掲載店舗に通える『Viday』などがある。美容室のサービス提供形態にも工夫の余地があるだろう。
他方、美容業界にも人手不足の流れはあり、公益財団法人理容師美容師試験研修センターによれば、平成27年度の美容師の新規免許登録者数は1万9,005人で、平成17年度の2万9,442人以降減少傾向にある。スタッフの確保を想定するなら、早期の対応がおすすめ。技術はもちろん、センス・接客・仕入れ・管理・サービスの開発などにも優れたスタッフを求めたい。
▼平成10年度からの美容師免許件数の推移
ターゲット設定の際には、世代・家族構成・趣味・悩みなどを想定したうえで、たとえば「自宅でのケアを楽にしたい女性」「カラーを頻繁にする女性」「乾燥性敏感肌の女性」「くせ毛に悩む女性」など、具体的にイメージしてみたい。そこから、ターゲットに沿い、繁華街なのかビジネス街かそれとも住宅街かなど、開業の立地を検討しよう。
近年の美容室事情
化粧品販売や和服の着付けだけでなく、エステ、ネイルアート、まつ毛エクステンション、アロマテラピーなどのサービスを展開する美容室も増加している。
厚労省の「衛生行政報告例の概況」によれば、美容所は平成28年度の24万3360施設から令和2年度の25万7890施設へと、いまだ増加傾向にある。令和元年度は25万4422施設のため、3468施設分増加、増減率は1.4%だ。
また、理容所は平成28年度の12万2539施設から令和2年度の11万5456施設へと減少傾向にある。令和元年度は11万7266施設のため、1810施設分減少、増減率はマイナス1.5%。理容所が減少するなか、美容所が増加し続けていることがわかる。総務省によると、令和4年12月1日現在の総人口の概算値は1億2484万人で、5歳以上が1億2061万人。令和2年度の美容所と理容所を足した37万3346施設で割ると、1施設につき323人の割合で出店されており、競争の激しさがうかがえるだろう。
ちなみに、平成26年と令和3年の1世帯あたりの年間支出金額を比較すると、パーマ代は59%にまで減少している。ただし、カット代にはほとんど変化がない。流行などの影響も考えられるが、現在の平均的な料金を目安に料金を設定することをおすすめしたい。総務省の「家計調査」によれば、令和3年では1世帯あたりの1カ月間の理美容サービス代は2745円。令和3年12月31日現在の世帯数は5976万世帯のため、理容室・美容室の市場規模は1兆9685億円と推定される。
一方、65歳以上の割合は3623万人と29%となり、すでに超高齢社会を迎えた。そこで、全日本美容業生活衛生同業組合連合会と一般社団法人シルバーサービス振興会では、高齢者や障害者にも十分なサービスを提供できる「ハートフル美容師」の養成研修をスタートさせている。厚労省も、訪問美容サービスや送迎など、高齢者向けのサービスやバリアフリー化に期待している。
そして、女性の9割、男性の3割が美容室を利用している。これらの動きも、コンセプト、ターゲットやサービスを考える時の参考となるだろう。
美容室開業の人気理由と課題
人気理由
1. おしゃれな業界でセンスを生かして開業できる。
- 手に職をもてる
- 長期間携われば技術を極めることもできる
2. 学業成績よりも、手先の器用さなどが役立つ。
- 大卒資格を必要としない
- アシスタントから経験できる
3. 顧客が幅広い。
- 全国どこでも需要がある
- 将来的には世界中で活躍できる可能性がある
課題
- ライバル店が無数に存在する。
- 差別化できないと、価格競争に巻き込まれる。
美容室開業の9ステップ
美容師免許・管理美容師の資格の取得
まず、美容師の免許をもっている人が自分を含めたスタッフに1名以上いなければ、開業することはできない。美容師免許は国家資格の1つで、厚生労働大臣指定の美容師養成施設で必要課程を修了したうえで、年2回開催されている実技・学科試験に合格することが必要。融資を受ける際にも通常、免許を提示する必要があるが、免許の申請から取得までは1か月前後かかるのでおぼえておきたい。
また、美容師が2名以上となる場合、1名以上には管理美容師の免許も必要。管理美容師免許取得のためには、「美容師免許取得後3年の実務経験があること」と「厚生労働大臣が定めている基準をもとに各都道府県で実施する3日・計18時間の講習受講を終了していること」という2つの条件を満たさなければならない。取得後には、美容室の衛生管理の責任者として、問題が生じたら対応することになる。管理美容師は経営者でなくてもよいため、免許取得者を雇用するという選択肢もあるのだ。
美容室開業時の費用
美容室開業においては、店舗の規模や内外装のデザインなどによって費用が異なる。設備投資効果、ターゲットやイメージと予算とを比較し、固定客の割合、居抜き物件や自宅の利用、フランチャイズやヘアサロンによる独立支援制度の利用、カット専門での開業なども考慮したうえで、よく検討したい。
開業資金は1人10坪で700万〜1000万円、3人30坪で1500万〜2000万円で、シャンプー台自体やその設置のための床の底上げにも多額の費用がかかるといわれる。美容機器・機材のリースには金利が発生するので、それを考慮のうえで判断しよう。開業費の25〜30%は自分で用意することを目安にするとよいが、不足する場合、日本政策金融公庫であれば自己資本比率10%以上でも融資を受けられる可能性がある。自治体の融資制度では受給までに時間がかかることが多いので、早めの相談を心がけよう。
以下は、日本政策金融公庫の「創業の手引+(プラス)」の平成27年8月に掲載されたデータをもとに、不動産を購入した企業を除く美容業全体の費用としてまとめている。また、開業場所・物件の検討を始めたのは3か月以内が29.3%、資金調達(借入)の準備を始めた時期も3か月以内が31.5%、従業員の募集・採用活動を始めた時期も3か月以内が70.7%にものぼった。さらに開業時、自己資金の不足、外観・看板の視認性に問題があったと考える人は、それぞれ32.9%だった。
売上イメージ
日本政策金融公庫「創業の手引+(プラス)」では、開業後軌道に乗り始めた時期は1年超2年以内が33.8%となっている。以下は、日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」の令和2年8月に掲載されたデータをもとに、美容業全体のイメージとしてまとめている。
※粗付加価値額とは売上高から原材料費や仕入原価などの変動費を差し引いたもの
※有形固定資産とは営業活動のために長期にわたり使用する目的で保有される財産で、土地、建物、器具、備品、機械装置などのこと
初期費用、売上イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)