業種別開業ガイド

ネイルサロン

2024年 11月 6日

ネイルサロンのイメージ01

トレンド

ネイルサロンは、手や足の爪を美しく整える専門店である。施術するネイリストが、爪の状態やアレルギーの有無などカウンセリングをしながら、希望のネイルデザインに仕上げていく。主なサービスには、次のようなものがある。

  • ネイルケア:爪を切る、表面を磨く、甘皮の処理をするなど、爪と爪周りの状態を整える
  • カラーリング、イクステンション:ネイルポリッシュとも呼ばれる「マニキュア」や、ジェル状の合成樹脂をLEDライトで硬化させる「ジェルネイル」、アクリル樹脂で造形的に人工爪を作る「スカルプチュア」などがある
  • ネイルアート:爪に装飾やデザインを施す
  • リペア:傷んだ爪の補修や修復をする
  • ネイルオフ:ジェルネイルやスカルプチュアを落とす

NPO法人日本ネイリスト協会が行った調査によると、ネイル産業市場は2005年から2010年の5年間で1,114億円から2,033億円へと急成長している。特にネイルサロンを含むネイルサービス市場は3倍以上に拡大した。2015年以降は前年比1%前後の増加を続けていたが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大による影響を受け、2021年には1,868億円となった。

ネイル産業市場規模の推移

近年では韓国男性アイドルの影響もあってか、ネイルデザインを楽しむ美容意識の高い男性が増えている。また、コロナ禍が落ち着き対面で人と会う機会が増え、男女ともに身だしなみとして爪を整えるようになりネイルサロンの利用率が上がった。民間の調査によると、1回あたり利用金額の平均は、女性5,837円、男性3,858円で、特に女性は40~50代、男性は15~19歳、20~40代の利用金額が前年から大きく上昇している。

一方、ネイルサロンに興味はあるが行っていない「意向者」は9.2%、爪に悩みがある「潜在層」は26.8%いることが分かった。

ネイルサロン利用者・意向者・潜在層

ネイルサロンへ行くのをためらう理由としては、1位:価格が高そうだから(79.4%)、2位:ネイリストとの会話が苦手だから・緊張するから(33.0%)という結果となっている。お得感のあるクーポンや、施術中は会話しなくても良いサービス(例えばDVDの視聴ができるなど)といった工夫で、潜在層にアプローチできる可能性がある。

近年のネイルサロン事情

ネイル=爪に負担がかかるというイメージだが、ネイルを楽しみつつも健やかな自爪をキープしたいと考える人は多い。ニーズを捉え、自爪に負担の少ない施術が増えている。ネイルをする人の中には「爪が割れやすいからネイルをする」など、ネイルは単におしゃれを楽しむためだけのものではなく「守る」ための役目も担っている。

前述の民間調査によると、女性は46.7%、男性は28.3%の人が手足の爪に悩みがあると言う。「爪が割れやすい、欠けやすい」「さかむけやささくれがある」「巻き爪、深爪」という悩みがあっても、約半数の人が特に何も対策をしていない。ネイルサロンでケアできることを知らない人は7割以上おり、このような層へ届く有効なPRが求められる。

爪・指先の悩みの対処方法

近年では、ケアを重視したネイルサロンが登場している。自爪に負担の少ない施術として、サンディング(爪やすり)をしなくて良い「パラジェル」や、ベースジェルを一層残してデザインチェンジができる「フィルイン」といったメニューがある。他にも、巻き爪や変形爪、角質ケアなど専門知識が必要なフットケアメニューを設けている。丁寧な施術で高単価だが利用する人は多く、1回あたり利用金額の上昇にも寄与していると考えられる。

また、ネイルサロンのCSR(Corporate Social Responsibility)活動として、病気治療中に利用できる刺激の少ないメニューやケア商品を提供しているサロンもある。例えばネイルポリッシュ(マニキュア)は、爪に厚さを出すため補強効果があることや、爪の変色をカモフラージュして顧客の精神的な支えとなり、医療従事者からも推奨されている。

男女ともにケア用品をネイルサロンで購入する人は多く、ネイルクリームやオイル、ハンドクリームなど、各店こだわりの商品を取りそろえて客単価アップにつなげている。

ネイルサロンの仕事

ネイルサロンの仕事は「フロント」「施術」「メンテナンス」「店舗管理」「広告宣伝」に分けられる。それぞれの具体的な仕事は以下の通り。

  • フロント:受付、会計、案内、電話対応、予約の確認など
  • 施術:ネイルケア、カラーリング、イクステンション、ネイルアート、リペアなど
  • メンテナンス:施術の準備や片付け、機材のメンテナンス、清掃など
  • 店舗管理:売上管理、店販品や備品の在庫管理、シフト管理など
  • 広告宣伝:SNSの配信やホームページの更新など
ネイルサロンのイメージ02

ネイルサロンの人気理由と課題

人気理由

  1. 少ない初期費用で開業できる
  2. 資格がなくても施術ができる、技術を生かせる
  3. 自宅開業の場合、時間の融通が利く

課題

  1. 競合が多いため、他店との差別化を図る(新規顧客の獲得、固定客化の工夫)
  2. 人材確保と育成を行う(競合店が多いため、施術者確保が課題となる)
  3. 収益性を高める(回転率や顧客単価を上げるなど)

開業のステップ

ネイルサロンの開業には主に2つのパターンがあり、個人で独立して開業するか、フランチャイズに加盟して開業するかに分けられる。それぞれの開業ステップは以下の通り。

開業のステップ

自身は経営に徹し、施術や店舗運営をスタッフに任せることも可能だ。サポートが整っているフランチャイズを活用すれば、1年~1年半で投資回収できる事例もある。

ネイルサロンに役立つ資格

施術をするネイリストに必須の国家資格はない。いくつかの民間資格があり、保持していると信用につながり、強みになる。また施術には、爪に関する知識やデザインネイルといった技術が必須となるため、独学や通信講座ではなくスクールで学ぶ方が良いだろう。

ネイルの民間資格には、NPO法人日本ネイリスト協会(JNA)が実施する「JNAジェルネイル技能検定試験(初級・中級・上級)」や、公益財団法人日本ネイリスト検定試験センター(JNEC)主催の「ネイリスト技能検定試験(3級・2級・1級)」があり、ネイルに関する基礎から総合的なものまで順に学ぶことができる。

また、ネイルサロンは人の肌や皮膚の健康に関わるため、徹底した衛生管理が必須だ。厚生労働省の「ネイルサロンにおける衛生管理に関する指針」を確認し、衛生管理について十分に理解を深めたい。「JNA認定ネイルサロン衛生管理士」の資格を持つことでサロンへの信頼や他店との差別化につなげられる。

JNAでは国際的なネイル技能の平準化や正しい技術、知識の向上のため、海外の団体に委託して「JNAネイリスト技能検定国際試験」も実施している。今後さらに高まるであろうインバウンド美容のニーズに向け、国際的なネイルの知識や技術を身に付けておけば、トラブル防止や顧客満足につながるだろう。

開業資金と運転資金の例

前述の通り、ネイルサロン開業には個人開業とフランチャイズ開業の2つのパターンがある。個人開業の場合は、事業計画の規模により店舗を借りるか自宅を改装するか自身で選べる。フランチャイズ開業の場合は、3人程度の小規模サロン型とネイリストを多数抱える大規模サロン型がある。ここでは、自宅を改装した個人開業と、3人程度の小規模フランチャイズ開業の比較で紹介する。

開業するための必要な費用としては、以下のようなものが考えられる。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 内外装費:壁床リフォーム、照明設置、換気設備、空調設備、看板設置など
  • 備品・消耗品費・原材料費:施術テーブル、チェア、UV・LEDライト、パソコン、電話、ネイル用品など
  • 広告宣伝費:SNS広告、検索・予約サイト掲載費など

※フランチャイズの場合には、別途加盟金や研修費などがかかる。

以下、開業資金と運転資金の例をまとめた(参考)。

開業資金例
運転資金例

売上計画と損益イメージ

ネイルサロンを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

売上計画

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

競合が多い中で生き残るためには、他店との差別化や客単価アップに向けた戦略を立てることが重要だ。一人ひとりの要望や悩みに寄り添い、顧客ごとにカスタマイズしたサービスの提供や、セルフケア商品など他では買えない店販品でファン化につなげたい。

備品や装飾品にこだわり高級サロンとして打ち出したり、逆に低単価で回転率を高めたりするなど、コンセプトの決定はサロン運営を大きく左右する。開業のステップの1つ目である「事業計画書の作成」で、まずはどんなサロン作りをするのかを明確にしてから開業準備を進めていこう。

ネイルサロンのイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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