業種別開業ガイド
エステティックサロン
2019年 11月 26日
トレンド
(1)市場規模
エステティックサロン市場は、2000年をピークに漸減傾向にあったが、近年は横ばいで推移している。矢野経済研究所の調査によると、2018年度のエステティックサロン市場規模は事業者売上高ベースで、前年度比100.2%の3,587億円、2019年度も前年比100.3%の3,599億円の計上が見込まれている。一時の勢いはないものの、今後も一定規模の維持が見込まれる。
(2)SNS等による情報発信の活発化と法令の厳格化
近年、SNSでの情報発信が積極的に実施されており、WEBマーケティングは不可欠な広告宣伝ツールとなっている。
一方で、エステティックサロンの広告内容については「薬機法」(従来の薬事法)や「景品表示法」などの法律が厳格化されていることに注意する必要がある。業種柄、施術内容の効能をうたうこととなるが、これらの効能を宣伝する際には、エビデンスに基づいて行うなど、法令遵守を徹底する必要がある。
(3)エステティシャンの不足
エステサロンは、マンツーマンによるサービス提供が主体であるが、現在、そのサービスの担い手であるエステティシャンが不足している。このような人材不足が人件費の高騰を招き、経営に影響を及ぼす可能性も懸念されている。
(4)サロン及びセルフケア製品市場における専門店化の進展
業界的には人手不足の状況にあるが、こうした状況を逆手にとって、様々なニーズへの対応を図るべく専門化するサロンも増えている。脱毛サロンやフェイシャルエステ、ボディエステなどがこの典型例である。
また、エステサロンとは競合となるセルフケア製品市場では、シャネルから男性向けメイクアップ製品が発売されるなど、男性の美意識にも変化が起きている。
男性の美意識の変化は、一服感のあった男性向けエステサロンの市場に拡大をもたらす可能性もある。
ビジネスの特徴
化粧品や栄養補助食品、フェイシャル機器や痩身機器などの業務用エステ機器などを補助的に用いることはあるが、基本的には、エステティシャンの手技による施術が主な提供サービスとなる業態である。
したがって、サービスの提供には、施術者の高い技術が欠かせない。また、肌の構造やからだの仕組みのほか、生理学などの専門知識を身につける必要があり、継続的に人材育成を図っていくことが重要である。
開業タイプ
(1)小規模なサロンからスタート
自宅や賃貸マンションで開業し、オーナーのみ、または数名のスタッフで開業するタイプである。大手チェーンのように様々なサービスを提供するのは難しいため、フェイシャルエステやボディエステ・痩身エステなど専門分野に特化する事業者が多い。
(2)大規模店舗型でのスタート
複数の従業員を雇用し、多くの顧客に対して総合的なサービスを提供するタイプである。商業ビルや商業施設のテナントとして開業するケースが多い。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
法に基づく業種ではないため、特別な許認可を得る必要ない。ただし、利用者の信頼を得るための、エステティックサロン認証(NPO法人日本エステティック機構「JEO」)などは検討の余地がある。
メニュー、商品の品揃えなど
主なサービス内容は、フェイシャルエステやボディエステ、痩身エステ、ウェディングのための痩身コースなどのメニューである。施術時間の長短、オプション、美白のための施術、使用する化粧品等とその質に応じたメニューなどを検討する。また、自宅用の化粧品や健康食品など付加的・付属的な商品を揃えておくことも検討の余地がある。
さらに、事前予約をサロン側が、主導となって管理することが重要である。顧客の来店時に次回の予約を入れてもらうことで、集客コストを抑制し利益率を向上させることができる。また、事前予約を主導で管理することは、リピーターの確保につながり、経営の安定にもつながる。
必要なスキル
施術は手技を基本とすることから技術を身につけることが不可欠である。専門学校等で学び、既存のエステティックサロンでの実務を経た後に開業するケースが多い。また、実務経験を通して知識を深め、資格を取得することも可能である。資格には、認定フェイシャルエステティシャン、認定トータルエステティックアドバイザーなどが挙げられる。両者とも、一般社団法人日本エステティック協会の認定資格である。この他に、化粧品や栄養補助食品についての知識、機器並びに用具等の知識や利用技術なども身につけることが必要となる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
什器・備品としては、施術用のベッド、椅子に加え、備品や消耗品などが主に必要となる。開業タイプや店舗の大きさなどによっても必要資金額は異なるが、賃貸を前提に初期投資モデルを例として示す。賃貸の場合は、敷金あるいは保証金、不動産事業者に対する仲介手数料などが必要となる。保証金は家賃の6か月から1年分が必要とされる。
また、ランニングコストとして家賃、通信費、広告宣伝費、水道光熱費、消耗品費、人件費などが必要となる。収益が安定するまで運転資金は準備しておくと安心である。
【面積66平米程度の賃貸店舗で開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。
b.損益イメージ(参考イメージ)
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率はエステティック業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
売上高総利益率は72.5%と高い水準にある。しかしながら、エステサロンは、マンツーマンによるサービス提供が主体で、経費に占める人件費の割合が高い。したがって、固定経費を賄えるだけの売上を確保するために、一定の利用者を確保することが、収益安定のポイントとなる。
また、利用者の維持や増加のためには、主たる提供サービスとなる施術の質の向上が欠かせないため、人材確保と並んで育成も重要な要素となる。
その他、施術以外にも美容商材の販売などにより収益を確保していくことも、収益の安定化を図るうえでは、一つの有効な手段となろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)