業種別開業ガイド

美容師

2025年 8月 27日

美容師のイメージ01

トレンド

美容業界は、コロナ禍からの回復を経て再び成長軌道に乗り始めている。民間の調査によると、2023年度の美容サロン市場規模は1兆4,976億円となり、コロナ禍前(2019年度)の水準を上回った。

理美容サロン市場規模推移・予測

また別の調査では、美容消費係数(*)が2024年1~3月期に2.93%を記録し、過去10年間の平均(約2.6%)を上回る水準に推移している。これは、物価高が続く中でも美容への自己投資を優先する消費者が多いことを示しており、美容支出が「準必需」として定着してきたことがうかがえる。

(*)美容消費係数:家計の消費支出に占める理美容サービスおよび化粧品など美容用品の支出割合

さらに美容業界のトレンドを見ていくと、以下のような変化がある。

(1)デジタルシフトとSNSの影響

予約プラットフォームやAIによるヘア診断ツールが普及し、消費者は「予約のしやすさ」や「事前提案力」を重視し始めている。そのため、サロン側が開業時に導入できるローコストなシステムも増加している。さらに、InstagramやTikTokで発信される「#○○カラー」「#ヘアアレンジ」といったトレンドが来店動機に直結している。サロン側も、SNSでのビフォー・アフター投稿やライブコマースを活用し、顧客獲得へとつながる事例が増加傾向にある。

(2)サステナビリティ(持続可能性)やエシカル(倫理的な)志向の高まり

SDGs(持続可能な開発目標)やエシカル消費(*)の浸透により、「オーガニック薬剤」や「リサイクル容器」を採用するサロンへの共感が拡大している。2021年には、環境・社会的配慮につながる独自認証の普及や教育機会を提供する「一般社団法人日本サステナブルサロン協会」が設立された。環境負荷低減と働き手の健康配慮を両立したサロンモデルの構築を目指している。

(*)エシカル消費:人や社会、環境に配慮した消費行動のこと

(3)パーソナライズ&高付加価値サービスへのシフト

メニューが多様化し、従来のカットやカラーに加え、炭酸泉スパやスカルプマッサージ、ヘアエステなど高単価サービスの利用が増加傾向にある。個室空間や完全予約制を売りにした小規模ラグジュアリーサロンが都市部で急増し、「贅沢な時間」を求める顧客ニーズに応えている。

(4)メンズ美容市場の急拡大

20~30代男性の美容サロン利用率は年々上昇し、メイクアイテム購入率も20代男性で25.9%に達するなど、男性の「身だしなみ投資」が明確なトレンドとなっている。これに伴い、男性専用サロンやメンズ向けヘッドスパ、眉デザインなどを打ち出すサロンが全国に広がっている。

(5)インバウンド需要の回復

2025年春以降、訪日外国人観光客の増加に伴い、日本ならではのヘアカラー体験やドライヘッドスパを目的にサロンを訪れるケースが増加中である。民間の調査研究機関(ホットペッパービューティーアカデミー)の試算では、2024年は197億円規模のインバウンド美容市場が、2030年には445億円に拡大する見込みで、将来的な成長ポテンシャルは非常に高くなっている。

近年の美容師事情

厚生労働省の資料によれば、令和4年度の美容師数は57万1,810人(前年度比1.8%増)と過去最多を更新している。

美容師数および美容師国家試験合格者の推移

美容師法により、美容行為(ヘアカット、カラー、パーマ、メイク、まつ毛エクステンション、ウェットヘッドスパなど)は、国家資格を持つ美容師だけが行える独占業務である。美容師免許を生かせる仕事はたくさんあり、汎用性のある資格のため、美容師の新規免許登録人数は毎年2万人近くに上る。

しかし、免許を取得しても美容師にならない人の割合は増えている。民間の調査によると、2024年は5人に1人が免許のみを保有し、美容師として勤務したことがないという。さらに近年、業界の大きな課題となっているのが、美容師の離職率の高さだ。同調査では、美容師の離職率は48.0%(前年比1.5ポイント増)で、休眠美容師率(下表参照)においては58.3%(同1.3ポイント増)という結果が出ている。

美容師に関する各指標の推移

離職の原因としては、待遇や職場環境、人間関係の不満などが挙げられる。従業員の離職を防ぎ定着を図るため、労働環境改革やキャリアパス整備を進めるサロンが増えている。

一方で、美容師側の働き方にも変化が見られる。コロナ禍の営業自粛をきっかけに、雇用されていたサロンから独立し、フリーランスで活躍する美容師が増加した。厚生労働省のデータでは、美容師の就業形態は「自営、フリーランス」の割合が最も高く、53.1%を占めている。

就業形態の割合

「自営、フリーランス」の美容師が増えた要因としては、独立開業するためのハードルが下がったことが挙げられる。コロナ禍の感染対策として、完全予約制のプライベートサロンが求められたことなどが、従業員を雇用しない小規模での個人開業を後押しした。

また、時間貸しや売上歩合制で利用できるシェアサロンや、サブスクリプション(定額制)型サロンなど、初期費用や運営費が抑えられる仕組みが登場したことも一因と考えられる。さらに、先述のようなローコストなデジタルツールやSNSの普及により、店舗運営やPRがしやすくなったことも追い風となった。

近年では、介護施設や病院での出張カットなど、美容師に対する社会的ニーズが高まっている。技術の提供だけでなく、顧客に寄り添った存在となることも重要である。他にはないサービスで信頼を獲得し、顧客に選ばれる美容師を目指していきたい。

美容師の仕事

美容師の仕事には、主に以下のようなものがある。

  • フロント:受付、会計、案内、電話対応、予約管理など
  • 接客・施術:カウンセリング、施術、フォローアップなど
  • 衛生管理:店内の清潔保持、消毒・換気の徹底、器具のメンテナンスなど
  • 運営管理:収支管理、顧客管理、店販品や消耗品の在庫管理など
  • 企画開発:サービス企画、メニュー開発、店舗インテリアなど
  • 広告宣伝:SNS配信、ホームページ更新など
美容師のイメージ02

美容師の人気理由と課題

人気理由

  1. 安定した需要が見込める
  2. 多様な就業形態でライフスタイルに合わせた働き方ができる
  3. クリエイティブ性を生かせる

課題

  1. 集客競争の激化、競合との差別化
  2. 長時間労働による心身の負担
  3. 新技術やトレンドのキャッチアップ

開業のステップ

美容師の就業形態は、「雇用される」か「個人事業主となる」かの2つに大別される。ここでは、個人事業主としての開業ステップ(例)を紹介する。

開業のステップ

美容師に役立つ資格

美容師になるためには「美容師免許」の取得が必須である。

  • 美容師免許(国家資格)
    都道府県知事指定の美容師養成施設(昼間課程2年以上、夜間課程2年以上、通信課程3年以上)を修了し、筆記・実技試験に合格後、所定の登録申請書類を提出。名簿登録を経て免許証が交付される。

また、必須ではないが、役立つ資格には以下のようなものがある。美容師としての強みを広げ、競合との差別化につなげたい。

  • 日本メイクアップ技術検定試験:ヘアとメイクを組み合わせたトータルビューティ提案に役立つ。
  • カラーコーディネーター検定試験:色彩理論を学び、顧客への提案力を高める。
  • ヘアケアマイスター認定試験:正しい毛髪診断と処置で顧客の悩みを解消し、信頼獲得を狙う。
  • 着付け技能検定:冠婚葬祭需要を取り込み、サービスの幅を広げる。
  • 訪問福祉理美容師:高齢者・障害者施設向けサービスを提供する際に有利。
美容師のイメージ03

開業資金と運転資金の例

ここでは、個人事業主としてシェアサロンで開業した場合の例を紹介する。開業するための必要な費用としては、以下のようなものが想定される。

  • シェアサロン月額利用料:初回分
    ※契約先によっては、保証金が必要なケースもある。
  • 備品・消耗品費:シャンプー、カラー・パーマ剤、タオル、ドライヤーなど
    ※シェアサロンによっては、備品・消耗品が使い放題のところもある。
  • 広告宣伝費、システム導入費:SNS運用代行費、決済端末契約料など

以下、開業資金と運転資金の例をまとめた(参考)。

開業資金例
運転資金例

売上計画と損益イメージ

前項と同じく、シェアサロンで開業した場合の1か月の収支をシミュレーションしてみよう。

まず、売上イメージを以下のように設定する(例)。

売上計画

売上見込みから支出見込み(前項、運転資金例)を引いた損益イメージは次のようになる。

損益イメージ

ライフスタイルに合わせた働き方が選べる美容師は、生涯にわたってキャリアを続けられる可能性が高い職業だ。SNSを活用して自身のスタイルを世界に発信できる時代でもあり、自分の強みを生かしたブランディングができれば、長年の付き合いになる顧客の獲得も可能だろう。クリエイティビティを発揮して、安定したキャリアと高い満足感を獲得していきたい。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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