業種別開業ガイド

広告代理店

2019年 12月 20日

トレンド

(1)インターネット広告の成長

「電通広告年鑑」によると、2018年の総広告費は6兆5,300億円、前年比102.2%となり7年連続のプラス成長となった。とりわけ、インターネット広告費は、5年連続の二桁成長となった。

近年は、新聞や雑誌、ラジオ、テレビ等のマスコミ4媒体を主戦場とするには、開業に際しての壁が高く、インターネット広告が欠くことのできない媒体となっている。また、インターネット広告が2018年に前年比116.5%となったのに対し、マスコミ4媒体広告費は、4年連続減少の前年比96.7%にとどまっている。

さらに、各媒体のシェアをみると、インターネット広告は26.9%を占めている。2008年当時は10.4%に過ぎなかったシェアが大幅に伸びている。

こうしたことから、今後もインターネット広告が、業界を引っ張っていくものと予想される。

【媒体別広告費の伸び率及び構成比】

【媒体別広告費の伸び率及び構成比】

(出典:「2018年日本の広告費」電通)

(2)コンサルティング型広告代理店

最近は、インターネット広告の伸びが著しいが、シェアはプロモーションメディア広告が大きい。つまり、従来のチラシ、パンフレットなどのSP媒体や交通広告などを活用した広告も、依然として有効な広告手法ということである。

しかし、従来型の広告でもその手法は時代に合わせ進化しており、各広告媒体のポテンシャルを十分に発揮できないケースが増えている。

こうした背景もあって、総合的に様々な広告メニューを扱うのではなく、独自の強みを活かして専門分野で強みを発揮する「コンサルティング型広告代理店」が注目されている。

コンサルティング型広告代理店は、機械学習の有効活用やテクノロジーを駆使した広告手法である。

(3)ビッグデータの活用

インターネットに代表される新たな広告メディアの登場や規制緩和による広告機会の拡大、ビッグデータの活用によるターゲットをより絞った効率化など、ビジネスチャンスは広がっていると言える。

ビジネスの特徴

メディアの広告枠を売り、手数料を得るというのが基本的な事業スキームであったが、最近ではその手法は広がっている。

例えば、あらゆるメディアをまたがるメディア・ミックスやクロスメディアなどの手法である。メディア・ミックスは様々な広告媒体に対してほぼ同じ広告を掲載するのに対し、クロスメディアは一人に対して媒体の特徴に合わせて見せ方・表現などを変えていることが特徴となっている。このように広告を効果的・効率的に制作指示するのも、広告代理店の業務の範疇にある。

開業タイプ

一般的に広告代理店は、総合広告代理店、専門広告代理店、ハウス・エージェンシーなどに分類されている。総合広告代理店は電通や博報堂などの大手代理店がこれに属し、ハウス・エージェンシーも、大企業の宣伝部が独立分社化するようなケースが多い。独立開業という観点から、これらの業態は本稿では扱わない。

以下に専門広告代理店のほか、広告媒体別の開業タイプを記載する。

(1)専門広告代理店

新聞広告専門や雑誌広告専門、交通広告専門などの特定のメディアに特化して扱う広告代理店で、担当するメディアの「枠」を売るための営業活動をしている。

ただし、特定のメディアの枠しか扱えないため、メディア・ミックスのような複数のメディアを連動させるような広告を扱うには不向きである。

(2)広告媒体別のタイプ

ア.インターネット広告

リスティング広告やディスプレイ広告、アドネットワーク、DSP、アフィリエイト広告、SNS広告などに特化した広告代理店である。広告主のデジタルマーケティングに関する工程を一貫して請け負う。クライアントの予算に合わせた広告戦略立案が求められる。

イ.マスコミ4媒体広告

新聞、雑誌、ラジオ、テレビの4媒体を主戦場とする代理店である。インターネット広告に押され気味ではあるが、現在もシェアは高く、大小を問わず先行する代理店も多い。また、大手ほど広告枠のルーティン営業で儲けているという構造がある。このため、小規模な事業者ほど、新しいプロモーションなどを生み出すことが求められるため参入障壁は高い。

ウ.SP広告

マスコミ4媒体以外の媒体を、活用する広告の俗称となるため範疇は広い。セールス・プロモーション、つまり売上を促進するための広告である。具体的にはDM、チラシ、屋外広告、交通広告、POP、展示・映像などの広告を含んでいる。

効果的なセールス・プロモーションのためには、マーケティングが欠かせない。マーケティングを行ったうえで、効果的な広告戦略を立てることが求められる。

開業ステップ

(1)開業までのステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

事業計画書の作成に際しては、DMや折込みをはじめとした広告を主に手掛ける開業者は、印刷機の導入やDTP(製版工程のデジタル化)関連投資費用なども検討する。

(2)必要な手続き

特に必要な届出はない。ただし、一般的に広告に関連して下記の法規等がある。

消費者保護法

商品または役務の品質、規格等の不当表示、価格・取引条件の不当表示を禁止する法規。

景品表示法

商品または役務の品質、規格等の不当表示、価格・取引条件の不当表示を禁止する法規。

屋外広告物法

景観の維持や危害防止を目的とした、屋外広告物に関する基準を定めた法規。

※その他関連法規制
独占禁止法、消費者保護法、放送法、屋外広告物法等がある。また、産業別にも、薬事法、食品衛生法、宅建業法等に誇大広告を禁止する規定がある。

必要なスキル

アドテクノロジーに代表されるように、広告手法の進歩は目覚ましいものがある。したがって、マーケティングやタグ・データフィードの構築、チューニング・データ分析・API活用などの業務知識を習得し、企画力などを向上させることが必要であろう。こうした知識の取得は業態や媒体を問わない。現在の広告手法は、そのバックヤードが複雑化、深層化しているためである。ただし、全ての業務知識をマスターするのは容易ではないため、優良な外部パートナーを探し、外注化することも考えるべきであろう。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

小資本で開業可能な業態であり、実際に自宅で、一人で開業しているケースも多くある。

また、従業者数が10人未満の小規模な事業所が多いことに鑑み、小規模での開業を前提としたモデル例を記載する。

【従業者数が10人未満規模の開業資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。

 売上計画例の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は広告業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

中小規模の場合は、設備面への投資負担はさほど大きくないケースがほとんどであるが、SP広告を手掛ける事業者では、印刷機の導入やDTP(製版工程のデジタル化)関連の投資を行うケースもある。このような投資により、他社と差別化を図る場合には、初期投資の負担がやや大きくなる。

運転資金については、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」をみると、受取債権回転率・日数が年6.4回・57日、棚卸資産回転率・日数が101.7回・4日に対し、支払債務回転率・日数が年7.0回・52日で、支払先行で多少の収支ズレが生じている。ただし、媒体スペース確保のための媒体企業への積立金の負担などがあるが、所要額はさほど大きくはない。

したがって、印刷機などへの投資負担をなるべく抑えたうえで、売上を増やす工夫をするなど、投資効率を重視した経営をすることが望ましい。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討すう際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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