業種別開業ガイド
AI 開発
2020年 12月 1日
トレンド
(1)右肩上がりの国内市場
株式会社アイ・ティ・アールが2019年12月に発行した「ITR Market View」によると、国内AI主要6市場(翻訳、検索・探索、言語解析、音声合成、音声認識、画像認識)の市場規模(売上金額)は、2018年度に199億5,000万円となり、2017年度と比べて53.5%増となった。
同調査の予測値としては、この上昇傾向は2019年以降も続き、2023年度には640億円に達する見込みである。
(2)画像認識技術の急成長
AIと一口にいっても、その活用方法には、翻訳や言語解析などさまざまな技術がある。中でも2018年度に大きな成長を遂げたのが画像認識である。2017年度に比べ、市場規模は2.25倍と急上昇した。
その要因となったのは、画像認識技術の適用範囲が広がったことにある。これまでは工場などにおける製品検査等での導入が主だったが、徐々に社会インフラや各種建造物の保全などへと利用が拡大している。今後も技術の発展に伴い、顔認証など新たな活用方法が増えていくと見込まれている。
(3)AI-OCR、カンバセーションAIなどの新興ビジネス台頭
AI開発において重要になるのは、AIをどのようにビジネスに役立てるかという視点である。ここでは近年で注目されているふたつのビジネスについてふれる。
AI-OCRとは、文書に記載されている文字情報をAIに読み取らせ、テキストデータに自動変換する技術である。従来は手入力していたような作業を自動化でき、業務の効率化が図れるなどのメリットがある。
カンバセーションAIは、ユーザーの質問等に自動回答するAIシステムである。顧客からの問い合わせへの対応業務を軽減できる点にメリットがあり、現状はテキスト対応が主であるが、今後は音声対応へと広がる可能性がある。
ビジネスの特徴
AI開発での開業にあたっては、ターゲットとする分野の明確化が必要となる。画像認識技術ひとつをみても、製品の検品や顔認証など多様な活用方法がある。
自分の得意とする分野を見極め、AI技術をどのようにビジネス化するか具体的に考えることが重要である。そのため、専門分野での開業、あるいは、すでにある程度市場が形成された業界(上述したAI-OCRやカンバセーションAI等)への参入などが推奨される。
開業タイプ
(1)専門特化型
なんらかの業界に特化したAI開発をサービスとして提供する業態。上述したAI-OCRやカンバセーションAIなどが例として挙げられる。
ビジネスモデルが確立していない分野である場合は、ビジネス化のためのアイデアが必要となる。一方、市場がある程度形成されていればビジネス化は比較的容易であり、顧客にサービスの価値を理解してもらいやすいというメリットがあるが、競合が多くなるというデメリットもある。
(2)先端技術型
先端的な技術の開発に特化した業態。専門特化型と近いが、先端技術をビジネスにする場合は、資金や設備、人材の確保などが大きな参入障壁となる点で性質が異なる点に留意が必要である。
(3)ベンダー型
AIの開発や販売を幅広く行う業態。AIサービス以外のサービスも幅広く取り扱うITベンダーとしての開業も考えられる。顧客が抱える問題がAIで解決できるかどうか判断する能力も必要となる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。ただし、個人で自宅にて開業するケースなどのように、業態によってはオフィスが不要になる場合もある。
(2)必要な手続き
AI開発事業を開業する際に、公的機関等への許認可は特に必要ない。
ビジネスモデルの確立という課題
AI技術の市場規模は拡大傾向にあるが、その応用範囲やビジネスモデルが確立していない部分も大きい。チャンスの大きな分野であるともいえるが、一方で、技術力だけでなくビジネス化のアイデアや営業力も重要となる点には留意しておきたい。
必要なスキル
- AI開発に適したスキル
機械学習などに利用されるプログラミング言語「Python」や機械学習ライブラリ、データエンジニアリングに関するスキルなどが必要となる。
- ビジネス化能力
AIは新興技術のため、ビジネスモデルが確立していないケースが多い。売上をどのように立てるか事業計画立案の段階で検討しておくことが大切である。ビジネス化のためのアイデアだけでなく、契約知識なども必要である。
- 提案型の営業力
AI導入に関する知識はまだ一般的には知られていない状況である。例えば、基本的にはAIはデータを学習させる必要があるが、適切なデータでなければ効果は出ない。そうしたAI導入の前段階の作業にも関わっていくことが求められる可能性がある。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
ここでは初期投資負担の軽いプログラミング等のソフトウェア開発型の開業を想定してモデルを示す。
【参考】都内レンタルオフィス(定員3~4名ほど想定)開業の場合に必要な資金例
(2)損益モデル
a.売上計画
売上については、価格設定や営業の成否、また、上述してきた通りビジネスモデルによって大きく変動する。
例えば、以下の3つの行程で支払いを受けるモデルが考えられる。
・AI開発の可否の判断
・開発(運用開始まで)
・開発後の運用
b.損益イメージ
※標準財務比率は「受託開発ソフトウェア業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
ソフトウェア開発型の開業で考えた場合、経営状況は経営者やスタッフの技術力により左右されるところが大きく、極めて労働集約的といった特徴を備えている。
そのため、技術面で明確な差別化が果たせないと単価面での苦戦を強いられる可能性がある。ただ、それでも黒字さえ確保できれば、開業時に目立った資金投下を要さないため、短期間での投資回収が可能である。
また、AIについては、再三触れている通り新興技術であることから、営業にあたってはその有効性を的確に顧客に伝えることが重要となる。加えて、AIを活用するにはもととなるデータの整備が重要であり、データの品質によってはサービスの提供自体が難しいケースもある。具体的な業務として、こうしたデータ整備の作業も発生し得ることを考慮に入れた上で、事業計画を立てていく必要があるだろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)