業種別開業ガイド
システム開発業
2020年 7月 10日
トレンド
(1)IT市場全体は引き続き伸張傾向
システム開発業が一端を占める、国内民間企業のハード・ソフト・サービスを含めたIT市場規模は2018年度で前年度比2.8%増となる12兆4,930億円(矢野経済研究所調べ)であり、以後もインフラ増強への投資意欲は高く、ほぼ同水準の割合で伸張すると見込まれている。
(2)多重下請け構造からの脱却
大手システムインテグレータなどが元請けとなって案件を受注。その下請けの中堅企業、孫請けの中小企業がマージンを順次抜かれ、中下層でプログラム作成などを担う実働部隊には薄利しか残らない。このような「多重下請け構造」問題がIT業界では長年指摘されている。
こうした「多重下請け構造」から脱却するには、中小、零細規模事業者は独自の専門性や技術力を強みとし、パッケージ開発への進出やコンサルティング能力の向上により、上流工程を含めた総合サービスを展開することが重要である。また、近時はクラウドソーシングサービスを通じて顧客企業と直接繋がることも可能となっており、機動的で小回りの利く中小、零細業者の強みを生かせるケースもみられている。
(3)開発技法の変遷
近年のシステム開発は、短納期が求められているが、従来のあらかじめ決められた手順に沿って進めるウォーターフォール型開発では対応できないケースが増えている。
そこで近年では実装とテスト実行を繰り返して手戻りを極力減らす「アジャイル型開発」が主流となっている、この手法は、市場投入までの期間短縮が可能であり、競争の激しい分野において採用例が増えている。
(4)AI技術への対応
今後の拡大が見込まれるAI産業市場であるが、AI技術を導入している日本企業の割合は、米国や欧州と比較すると大きな開きがあるのが実情である。しかし、言い換えれば市場参入余地もあるといえる。いわゆるビッグデータ解析や機械学習などにとどまらず、あらゆる産業でのAI活用が見込まれるなか、AI技術へいかに対応するかがカギといえる。
ビジネスの特徴
(1)システム開発とは
システム開発業は、どのような環境下で作動させるかによって「汎用系」と「オープン系」に大別される。「汎用系」は汎用機と呼ばれるホストコンピュータを使って開発したシステムを指す。「オープン系」はパソコンベースで開発するものであり、開発コストが抑えられる特徴もあって今日では主流になっている。
(2)受注形態
受注形態は「受託開発」と「パッケージ開発」に区分される。「受託開発」は、オーダーメイドによるシステムを開発である。「パッケージ開発」は不特定多数の顧客向けのソフトウェア開発である。
(3)受託開発の積算方法
「受託開発」は、顧客とのミーティングのもとシステムの企画、開発、運用を請負うことになるが、要件定義のもと開発に要する期間を算出し、従事するIT技術者の月間報酬にあたる工数単位「一人月単位」を掛け合わせ、開発料金を算出し請求する流れが一般的である。
開業タイプ
(1)新規独立型
専門学校などで専門知識を得たIT技術者がそのまま独立。開発実績に乏しい上、簡易な案件が中心となるであろう開業当初は、知人からの紹介やクラウドソーシングサービス経由の小案件をこなしていくことになる。
(2)同業者、社内SEからの独立型
同業のソフトハウスなどで一定の斯業経験を積んだIT技術者が独立するケース。前職などでの開発実績、顧客、人的ネットワークなどを擁している点が強みとなる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
特別な資格も必要とせず、自宅での開業も可能なため、開業ステップはさほど煩雑ではない。ただし、パッケージソフト等の自社開発などを行う場合には、製品開発に伴う先行支払資金負担が大きくなりがちで、資金調達計画を練る必要に迫られることもある。
(2)必要な手続き
システム開発業を開業するにあたって法的には資格、手続きなどは必要としない。
ただし、受託開発の際、顧客企業より大量の個人情報を預かる場合、「個人情報の保護に関する法律」に則り、届出を行う必要も生じてくる。同様に情報漏えい防止に取り組んでいることを示すべく、ISMSやプライバシーマークの認定を受ける業者も多い。
メニュー、商品の品揃えなど
ITコンサルティングから企画、開発実務、システム運用、アフターフォローといった工程のうち、自社の強みや特色を明確にし、それを反映したコンセプトを対外的に提示することが同業他社と差別化を図るにあたって重要になる。また、受託開発で培った技術をベースとし、自社でのパッケージソフト開発に乗り出せれば、それは単なる「下請け」に留まらない第一歩になるといえよう。
必要なスキル
システム開発業を運営するにあたり、経営者個人として資格はとくに必要ない。
開業当初は経営者自身がIT技術者として開発の中心に位置する以上、プログラミングなどに関する知識やスキルはより高いことが好ましい。また、顧客企業や元請け、中間業者との折衝、自社の技術スタッフや連携する同業者との調整などが必要であり、コミュニケーション能力は開発能力と同じ程度に重要な能力になるといえる。
また、近年ではAI技術が注目されていることもあり、pythonの必要性が高まっている。日本ではまだメジャーな言語とはいえないが、海外では広く利用されている。また、Googleが開発に用いる3大言語(c++、Java、python)の1つとなっている。
加えて、自社パッケージ開発などにあたっては、複製権や私的使用に関わる問題、または引用などの制約事項に精通している必要もある。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【同業者からの独立型、都市近隣に33平米の事務所、経営者1名と技術スタッフ1名で開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
経営者前職の人脈より一定顧客を備えて開業。
b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は、受託開発ソフトウェア業に分類される企業の財務データの平均値を掲載(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
※経営者への役員報酬360万円に関しては、売上原価に240万円、販売管理費に120万円をそれぞれ計上している。
c.収益化の視点
売上原価に算入した外注費を除き、技術スタッフの給与、経営者への報酬といった人件費が支払いの主であり、極めて労働集約的といった特徴を備えている。
開業当初、独自性を示せず、同業他社との差別化が果たせないままに下請け業者として受発注フローにのった場合、「多重下請け構造」の厳しい現実に直面し、単価面での苦戦を強いられる可能性はある。ただ、それでも黒字さえ確保できれば、開業時に目立った資金投下を要さないため、短期間での投資回収が可能である。脱下請けを目指してパッケージソフトの自社開発に取り組む場合でも開発期間から製品をリリースし、販売に至るまでの期間は資金が先行する難しさがあるが、その期間さえ過ぎれば自社製品は一つの強みとなり、将来的に売上を生み出すリソースになる。総じて、得意分野の開発スキルを伸ばすことで大手を含めた多くのライバルから抜け出し、高単価での受注を得ることも夢ではなく、開発スキル次第では業界内で目立った存在になることも可能といえよう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)