社会課題を解決する

町工場の連携でモノづくりの新価値創造を「株式会社浜野製作所」

2020年 9月 23日

浜野製作所第3工場
浜野製作所第3工場

町工場が集積する東京都墨田区に本社を構える浜野製作所は精密板金・金型・プレス・機械加工といった金属加工の技術基盤を持ち、試作開発から量産まで対応できる装置開発・設計開発・金属加工を手掛ける会社だ。3Dプリンター、レザーカッターなど最新デジタル工作機器を備えたモノづくり実験施設「ガレージスミダ」を運営し、多様な業種・業界の製品開発や加工を支援している。激減する日本の町工場に「待った」をかけ、モノづくりの楽しさや価値を次世代に伝えたいと考えているからだ。

先代からの「強み」を活かして

事業承継後の経緯を語る浜野慶一CEO
事業承継後の経緯を語る浜野慶一CEO

代表取締役CEOは浜野慶一氏、57歳。1993年に亡くなった父・浜野嘉彦氏が興した金型プレス部品の大量生産を手掛ける会社を引き継いだ2代目である。父が「お前の代になったら量産品はどんどん海外に移っていく。これからは金型レスの多品種少量生産だ」と話していたため、社長就任後、99年から精密板金の新工場建設に着手した。

「部品加工だけで食べていくのは厳しいかもしれない」と請負のビジネスモデルだけで事業を続けていくことの難しさを痛感する。しかし、自社の最大の強みはモノづくりの技術だ。「モノが作れること、素形材加工の技術・経験を活かした事業展開ができるはず」と、モノづくりの価値を高めることで生き残る方法はないかと模索した。

今までやってきた事をそのまま続けていくだけでは、時代の変化に対応できない。「モノづくりの核になる部品加工、素形材加工をやりながら、その周りに付随する設計などの前工程、部品組み立てなどの後ろ工程も取り込みたい。部品加工以外に事業の枠を広げていきたい」と考えた。

産学官連携を機に事業構造転換

公道を走る電気自動車「HOKUSAI
公道を走る電気自動車「HOKUSAI」

こうした中で、産学官連携で電気自動車を開発するプロジェクトが立ち上がった。2012年の東京スカイツリー開業に合わせ、墨田区内の中小企業、早稲田大学、墨田区の産学官連携で環境に配慮した次世代モビリティを開発する話である。クルマの製作には、部品加工だけでなくて設計から組立てまでモノづくりの工程すべてが入っている。これを会社の事業構造を変えるための機会とし、開発にチャレンジしようと思った。

区内の10社を超える企業が共同開発したこの電気自動車は地元ゆかりの浮世絵師、葛飾北斎にちなんで「HOKUSAI」と命名され、大きな話題を呼んだ。「HOKUSAI」プロジェクト(09~12年)のほかにも、同社が参画した異業種交流・産学官連携事業は、深海7800メートルの3D画像撮影に成功した深海探査艇「江戸っ子1号」(09~13年)など多岐に及ぶ。

連携プロジェクトは新しい技術を勉強できるだけではない。人脈が広がり、ネットワークができて様々な情報が入ってくる。会社には溶接や板金など専門分野の従業員しかいなかったのに、設計や組付けなど広範な人材が集まるようになった。各プロジェクト単位での収益確保はもちろん、従業員教育や採用、従業員の満足度やモチベーション向上、メディアによる企業PR、新規取引先の開拓など得られるメリットは多い。

浜野氏は「父の代は部品加工が100%だったが、いま部品加工業務は全体の約6割。残りは設計・開発とかものづくり周辺のマネジメントやコンサルティング、製品製作など。あと3~5年後には業務の約8割を開発品や設計品にして約2割を付加価値のある難易度の高い加工品にもっていきたい」と話す。

町工場の連携を密に

中小企業応援士の委嘱状を手に
中小企業応援士の委嘱状を手に

経産省などの調べによると、日本の従業員数4~299人までの工場数は、1995年から2012年までの間に69.4%に落ち込んでいる。従業員数4~9人までの中小・零細企業は、実に44.9%だ。およそ20年で半分以下になっている。新興国の台頭、国内産業の空洞化、赤字経営、後継者不足などが重なり、この30年で町工場の50%以上が廃業に追い込まれ、現在でも75%が赤字経営だ。

浜野氏は、「これから町工場が生き残っていくためには、まず連携を密にすることが大事。今まではライバルだった企業とも情報交換し技術を合わせていくことで、より新しいものが生まれてくる」と考えている。

このため浜野製作所は連携プロジェクトのほかにも、地域の工場資源を活用した環境・社会貢献活動や、将来を担うこどもたちへの体験学習、デザイナーとの異業種コラボレーションなど、下請け仕事だけでない町工場の可能性を広げる様々な事業を展開している。

「小さな枠のなかで回っていたことを縦横斜め下から上と、多くのネットワークで繋げていくことで日本の中小製造業はもっと活躍できる」と言う浜野氏は、今年8月、中小機構から「中小企業応援士」を委嘱された。

モノづくりの楽しさ発信

胸を張れる中小企業を意図した「ストロングポーズ」で
胸を張れる中小企業を意図した「ストロングポーズ」で

同社の売上はこの10年、年率20%増の勢いで伸びていたが、今春に顕在化した新型コロナウイルス感染症拡大で顧客との商談や進行中案件が中止になるなど、少なからぬ影響を受けている。

ウィズコロナは長期戦になりそうだが、もっと高い価値を提供するために更なる基礎固めとして、整理、整頓・清掃の3S活動をしっかりやるなど生産性向上につながる基本の取り組みを推進している。浜野氏は2000年6月、近隣からのもらい火で本社・工場が全焼した経験を持つ。ドン底から這い上ってきたという自負はコロナ禍にもびくともしない。

「電気自動車のアクセルを初めて踏んだらスーっと動き出したとか、モノを創っている人はそういう瞬間が好き」と表情をほころばせる。「モノが出来上がっていく姿をみるのは楽しい。製造業に携わっている人はみんな同じ想いだと思う。モノづくりの楽しさと価値を発信していきたい」と、町工場復活の旗手は力を込めた。

企業データ

企業名
株式会社浜野製作所
Webサイト
設立
1978年
資本金
2000万円
従業員数
54人
代表者
浜野慶一氏
所在地
東京都墨田区八広4-39-7
Tel
03(5631)9111