それから15年の間、克服すべき数々の課題に直面した。課題は主に①安全性の高いiPS細胞を作る②効率よく大量にiPS細胞を作る③iPS細胞から心筋細胞を作る④心筋細胞を大量に増やす⑤心筋細胞だけが残るよう純化精製する⑥心筋細胞を移植する—の6つだった。
このうち最も重要な課題が純化精製だ。iPS細胞から心筋細胞に分化する際、心筋細胞にならず未分化のままのiPS細胞が残り、そのまま移植すると腫瘍ができる恐れがある。そこで心筋細胞だけを残す純化精製の方法が必要になった。福田氏は、同じ慶大医学部の末松誠教授と共同研究を進め、それぞれの細胞のエネルギー源の違いに着目した。iPS細胞やES細胞はブドウ糖を取り込んで増殖するのに対し、心筋細胞は乳酸をエネルギー源として利用することができる。培地(細胞や微生物が成長しやすいよう人工的に作られた環境のこと)からブドウ糖やグルタミンを除き、乳酸を入れたところ、未分化のiPS細胞は死滅し、心筋細胞だけが生き残った。これにより純化が可能になり腫瘍ができる危険性はなくなった。
最後の課題である移植では注射針の開発がポイントになった。心臓に注射して心筋細胞を移植する際、通常の注射針を使用すると血管を傷つけてしまう。試行錯誤の末、いくら刺しても出血することがない鍼灸用の針を参考にした。ただ鍼灸用の針は、先端に穴が開いておらず、そのままでは心筋細胞を注入できない。そこで、太さ0.5mmの針の横に穴を開けるという特殊な形状になった。この特殊な注射針を製造してくれるメーカーを探すため、福田氏は全国各地の中小企業を巡り、その結果、微細な金属加工を得意とする株式会社スズキプレシオン(栃木県鹿沼市)が製造を引き受けた。日本の中小企業のモノづくり技術が課題克服に大いに役立った格好だ。