21年から重点的に取り組んでいるのは、治療用アプリの認知と普及だ。ニコチン依存症治療用アプリが数百の病院で導入されているといっても、医療機関全体からみればまだほんの一部にすぎない。薬と同じくらい効果があって、薬の副作用を気にしなくていい治療があるということを患者に知ってもらいたい。治療用アプリに対する医師の理解も広がる必要がある。患者の役に立つだけでなく、保険診療ができるから医療従事者や病院の収益も上がる。メリットは少なくないはずだ。
治療用アプリは、高い医療費や医療間格差の是正にも良い影響を及ぼす。日本の医療費は年間約45兆円で、近い将来50兆、60兆円にも増大すると試算されている。高齢化の影響もあるが、値段が数千万円する新薬や億単位の手術ロボットなど先端医療が登場しているのも医療費高騰の一端だ。ひとつの新薬を出すのに最低で平均1000億円要る。アプリの開発コストは治験費用を含めてもその数十分の1、数億から数十億円だ。新薬より圧倒的にコストが安く、費用対効果が高い治療用アプリは、医療費適正化に貢献できるのではないか。
海外ではアメリカ、ドイツ、イギリス、フランスで治療用アプリの治験成功や薬事承認事例が複数出てきている。日本でも、2014年に同社だけだった治療用アプリ開発をベンチャー企業や医薬品メーカーなど約10社が手掛けるようになっており、今後も増えるだろう。「ソフトウエアを使った新しい治療法を育成し、10年後は日本経済を支えるひとつの大きな産業として確立させたい。治療用アプリを活用することで、一人でも多くの患者さんの病気を良くして健康に資するような価値を作れるように」と話す。
佐竹さんは毎週木曜日の午後、東京都渋谷区の日本赤十字社医療センター呼吸器内科で医師として勤務している。起業したばかりのころ、医師の仕事から離れていた時期があり、困っている患者さんを助けたいという思いが少しずつ薄れていくのを感じたからだ。週に一度でも病院に来て診察することで、自分はなんのためにこの事業をやっているのかという原点に立ち返ることができる。治療用アプリの旗手は初心を忘れていない。