社会課題を解決する

水推進機で宇宙の環境を守りながら開発を実現「株式会社Pale Blue」

2023年 6月 12日

代表取締役の浅川純氏
代表取締役の浅川純氏

本格的な宇宙開発時代が到来する中で、課題となっているのが宇宙環境の悪化。株式会社Pale Blueは、衛星の推進剤として人や宇宙環境にとっても安全な水を利用する技術を開発した。すでに複数の衛星に搭載され、宇宙での運用を始めている。こうした功績が認められ、「第22回Japan Venture Awards」(中小機構主催)の中小機構理事長賞を受賞した。

安全で低コストな推進機を開発

ラボでの実験
ラボでの実験

地球上空には無数の衛星が周回し、GPSや通信、気象情報、防衛などさまざまな分野での利用が進んでいる。近い将来には、月基地建設や有人火星探査も計画され、衛星利用はますます拡大の一途をたどることになる。衛星の軌道を変更するには、エンジン(推進機)が必要だ。しかし、従来の衛星の推進機にはヒドラジンのような毒性の強い推進剤が用いられたものも多い。また、キセノンなど安全な物質だが、高価で調達が難しい推進剤も少なくない。今後衛星利用を進めるには、安全で低コストの推進機と推進剤が不可欠となっている。

Pale Blueは東京大学大学院航空宇宙工学専攻の小泉研究室にいたメンバー4人で2020年4月に創業した。小泉研究室は人工衛星用エンジンの開発に関する基礎研究を行っていた。浅川純社長は、研究室でプラズマ技術の研究をする中で、宇宙開発にとって大きな課題になる安全で安価な推進剤の将来性に気づき、事業化を決意した。

独自技術で事業をけん引

水を推進剤とすると言ってもさまざまな手法がある。水蒸気式と水プラズマ式、水蒸気とプラズマを併用するハイブリッド式などだ。水蒸気式は、水を蒸発させる時に発生する力を推進力とするもので、推進力は大きいが燃費効率は比較的劣る。プラズマ式はマイクロ波と強力な磁石で水からプラズマを生成し推進力を得るもので、高効率だが推進力は比較的小さいという特徴がある。ハイブリッド式はプラズマ式の燃費性能と水蒸気式の強い推進力を組み合わせたもの。Pale Blueは水蒸気式、水プラズマ式、ハイブリッド式の3種類を採用している。特にハイブリッド式は世界でも同社だけが取り組んでいる。プラズマ生成に関する電子サイクロトロン共鳴(ECR)に関する特許は東大の小泉教授が取得し、それをPale Blueが独占的に使用している。これらの独自技術は事業化において強力な武器になっている。

大学発のスタートアップ企業が多数輩出されているが、研究室での研究成果を事業化するには、乗り越えなければならない課題、いわゆる"死の谷"が存在する。浅川社長も「研究室では、一つの研究課題を究めることが重要だったが、事業化には性能、寿命、コスト、納期などあらゆることに対応していかなければならず、最初はとてもとまどった。何度もテストをして失敗しては修正するといった作業を繰り返すことで、乗り越えていった」と創業時を振り返る。

水プラズマ式推進機作動時
水プラズマ式推進機作動時

宇宙での運用はじまる

水蒸気式推進機
水蒸気式推進機

ソニーグループ株式会社が1月に米・フロリダ州から打ち上げた超小型人工衛星「EYE」は、衛星軌道に放出後、地上局との通信確立に成功した。EYEはカメラを搭載し宇宙空間からの撮影を実現した。このEYEにはPale Blueの水推進機が搭載されており、軌道制御に貢献している。また、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が米国航空宇宙局(NASA)のアルテミス計画初号機(Artemis I)で打ち上げた超小型探査機EQUULEUS(エクレウス)にも水推進機が用いられており、これは浅川社長が東大研究室に在籍していた時の開発成果が使われている。

これら実際に宇宙で水推進機が運用されている実績は、事業を進めるうえでも大きな後押しとなっている。同社には「非公表だが、多くの共同開発案件が持ち込まれている」(浅川社長)という。水推進機は今後衛星推進機の主流となる可能性を高めている。

衛星用推進機で世界有数に

創業メンバー
創業メンバー

浅川社長は「まずは世界を代表する推進機メーカーになりたい。今は小型衛星が中心だが、大きな衛星にも対応できる推進機の開発も進めている。小型推進機の開発で得られた知見を大型化にうまく応用していく」とさらに領域を拡大させていく考えだ。

人類は繁栄を享受する中で、地球環境を汚染する問題を引き起こした。宇宙開発において同じ轍を踏むわけにはいかない。Pale Blueという社名の由来は、NASAの無人惑星探査機ボイジャー1号が、約60億キロメートル離れた宇宙から撮影した地球が「Pale Blue Dot(淡い青の点)」に見えたことに由来する。地球近傍だけでなく、はるかかなたの宇宙規模で新たな研究や産業構造を生み出すという同社の思いが込められている。大きな視野で事業に取り組む同社の成長に期待したい。

企業データ

企業名
株式会社Pale Blue
Webサイト
設立
2020年4月
資本金
1億円
従業員数
45人
代表者
浅川純氏
所在地
千葉県柏市柏の葉5丁目4−6東葛テクノプラザ610号室
Tel
04-7115-1148