ビジネスQ&A

設備投資の可否を判断する基準について教えてください。

創業24年の金属加工業を営んでいます。以前より受注が少ない状況が続いていましたが、最近になって受注が戻ってきている状況です。
そこで設備が老朽化しているので、このタイミングで設備投資をしようと思いますが、踏ん切りがつきません。どのように判断すればよいのでしょうか。

回答

投資判断は、最終的には経営者の判断になりますが、その確度を上げるためにミクロの観点、マクロの観点からの情報収集は重要です。情報収集、分析を行い投資判断の確度を上げるのと同時に、各種施策を活用して投資リスクを下げることも考えてください。

【ミクロとマクロの判断が必要】

設備投資を判断するには、さまざまな手法があります。DCF(ディスカウント・キャッシュフロー法)などはよく使われる手法で、その設備を導入することにより、将来的に得られるキャッシュを現在のキャッシュの価値に換算し、その合計額が設備投資額を上回るかどうかを基準に判断するというものです。
しかし、どんな分析手法を駆使しても、その前提となる将来の見通しがわからないことにはシミュレーションは画に描いた餅になってしまいかねません。
そこでここでは分析手法ではなく、どうすれば将来の見通しを少しでも確度の高いものにできるのかという観点に焦点を当てて解説していきます。
将来を見通すために必要な観点は、「ミクロの観点」と「マクロの観点」に分けることができます。
ミクロの観点は、取引先や競合企業の事情など会社の身近にある観点のことです。一方、マクロの観点とは、経済状況や為替、国の施策など会社を取り巻く国や世界レベルでの観点です。
この2つの視点を整理することで、貴社の将来の見通しをより確度の高いものにすることが可能となります

【ミクロの観点】

ミクロの観点としては、まずは取引先の将来を考えることです。これは何も特別なことではなく、社内には多くの取引先に関する情報が存在しているはずです。取引先から直に得られる情報(人事、組織再編、設備投資、求人情報、最近の発注の傾向等)を整理して1枚の紙にまとめてみましょう。
また、銀行や他社から得られる情報もあるはずです。機会があるごとに積極的に情報収集をしてみましょう。
社内の情報は断片的に散在しているものです。お勧めは1枚の紙にまとめ、社内の人間にこれ以外の情報がないか確認していくことです。現場レベルでのやり取りに重要な情報が含まれていることもよくあることです。
取引先が上場企業の場合は、投資家向け情報にも必ず目を通しましょう。現在はホームページに投資家向け情報を掲載している企業がほとんどです。これには経営ビジョンや経営戦略が記載されています。複数年の資料を見比べ、変更点をピックアップすることで取引先の戦略の修正にも気が付くことができます。
主要取引先についてこれらを整理することで、将来の取引がどうなるか、確度の高い分析が可能となります。

【マクロの観点】

ミクロの観点での情報収集も重要ですが、同時にマクロの観点での情報収集も行いましょう。 誰でも入手でき、かつおおよその傾向をつかむために重宝するのが国が発表する各種景気動向に関する指数です。
景気動向指数は、さまざまなものがありますが、以下の3種類に分類することができます。

表1 景気動向指数の分類
系列名 内容 代表的な指数
先行系列 景気動向に先行して指数に変化が現れるもの
  • 新規求人数
  • 新設住宅着工床面積
  • 東証株価指数
一致系列 景気動向と指数の傾向がほぼ一致するもの
  • 鉱業生産指数
  • 大口電力使用量
  • 中小企業出荷指数(製造業)
遅行系列 景気動向に遅れて指数に変化が現れるもの
  • 常用雇用指数
  • 法人税収入
  • 完全失業率

これらの指数は発表されるつど、新聞などで報道されますし、ホームページ等でも公開されます。それぞれの指数の特徴を押さえておくことで、マクロ的な景気動向が上昇基調なのか下降基調なのか、ある程度判断することができます。

また、中小企業の場合は中小企業庁と(独)中小企業基盤整備機構が発表している「中小企業景況調査」も参考になります。これは中小企業を対象に4半期ごとに業況判断・売上高・経常利益等のDI値を、産業別・地域別等に算出しているものです。
貴社と同等規模の企業の景況感がどのように推移しているかを考慮することで、貴社の将来にフィードバックすることが可能になります

【情報収集を終えたら】

情報収集を終えたら、投資の可否を判断することになります。ここで注意していただきたいのは、「世間の景気が良い(悪い)≠自社の将来が明るい(暗い)」とはならないことです。得られた情報から、自社の置かれている状況からしてプラスに働くのかマイナスに働くのかを判断しなければなりません。そして、前提をある程度固めた上で、先述したような投資判断を実行するためのシミュレーションを行います。
最終的に投資の可否を判断するのは経営者です。正解がない世界ですので、どこまで精緻に分析しても明確な答えがでることはないでしょう。しかし、経営者が確信を持てないのであれば、投資の判断はできません。
情報収集や分析は、経営者が確信を持つためのツールという位置づけとするとよいでしょう。その確信の確度をどれだけ上げ、投資リスクを減らせるかが重要になります。
中小企業の設備投資には、各種助成金や税法上の優遇措置などもあります。これらの施策を有効に活用することで、投資リスクを極力減らしていくこともぜひお考えください。

回答者

中小企業診断士
遠藤 康浩

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