製鉄所でコークスを造るため石炭を蒸し焼き(乾留)にする工程で発生するガスに55%ほど水素が含まれています。この水素は所内の熱源や自家発電用の燃料として使用されています。2)
苛性ソーダを製造するための食塩の電解工程からは極めて純度の高い水素が発生します。これは自社工場内で消費されるほか一部外販されています。3)
これら副生ガスとしての水素は、自家消費が優先され、外販されたとしても、安価ではありますが、目的とする製品の生産量によって水素の発生量が変動し供給安定性に欠けます。
(3) 未利用エネルギーの活用ー褐炭の例
褐炭は石炭の一種ですが、水分が多いこと、炭素含有量が少ないため発熱量が小さいことにより、大規模な利用はされていません。オーストラリアの一部には褐炭が大量に存在するが利用されていません。そこで、わが国は、この未利用エネルギーであるオーストラリアの褐炭から水素を製造することと、それを液化し、日本へ輸送することの実証事業を国のプロジェクトとして行っています。
具体的には、(1)褐炭から水素を含むガスをつくる「褐炭ガス化技術」、(2)液化した水素を長距離、大量に輸送する技術、(3)液化した水素を荷役する技術の実証です。国際的な水素サプライチェーン構築の実証事業といえます。
褐炭から水素を製造するには、まず、褐炭を、操作温度1,300℃、圧力5.8MPaのガス化炉に酸素とともに導入すると、水素、一酸化炭素が主成分の高温粗合成ガスが生成します。次にCO とH2O の比が2 になるようにスチームが加えられて、水素を生成します。4)
図2が褐炭から水素を製造する設備、図3が液化水素の輸送船です。
(4) 水の電気分解
従来の火力発電による電気を使用し、水素を製造するのでは、火力発電所でCO2が発生します。CO2を発生しない方法で製造した水素を「CO2フリー水素」といいます。再生可能エネルギーにより発電した電力で水を電気分解して得られた水素は、CO2フリー水素の一つです。水を電気分解することにより電気を水素に変換し、貯蔵・利用することを「 Power to gas 」と(略してP2Gとも)いわれます。
Power to gasは電力需要の調整弁としての機能もあり、その点からも水の電気分解は注目されています。
(1)電力需要の調整機能
電気については、発電量と消費量が常に同じでなければならないという制約条件があります。両者のバランスがくずれると最悪の場合、停電になります。そのため、電力会社は常時、両者のバランスをとるために発電量などを調整しています。近年、太陽光発電や風力発電など再生エネルギーによる電気が、電力会社の系統電力網に供給される量が増えています。再生エネルギーによる発電を加えたトータルの発電量が、一時的に、電気の消費量を上回りかねない状況になることもあります。その時、電力会社は、再生エネルギーによる電気の供給の中止を要請せざるを得ない、ということが起こっています。
一方、水の電解によって得られた水素は貯めることができ、図4のように、その容量(kW)と蓄電時間は小から大まで大きな幅を有しています。そこで、電気の需要を供給が上回ると予想されるときには、水の電解装置を運転し、電力の需要を増やし、製造された水素は貯めておく、ということができます。
(2)アルカリ水電解
図5のように、水酸化カリウム(KOH)を水に溶かした強アルカリの液に直流電流を流します。これにより、図中に示した式の反応が起き、陰極で水素、陽極で酸素が発生します。図6はNEDO(注)の技術開発事業として福島県浪江町に設置され、2020年3月より運転開始した世界最大級のアルカリ水電解システムです。毎時1,200Nm3(定格運転時)の水素を製造供給することができます。
(注)NEDO: 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
(3)固体高分子膜形水電解
アルカリ水電解の電解効率は70~80%ですが、電解効率90%程度の方式として固体高分子膜形水電解(PEM)があります。3)
図7は固体高分子膜形水電解の原理を示したものです。イオン交換膜の両面に電極が接合されており、水は純水を使用します。電解の効率は良いのですが、陰極の触媒として白金を使うため設備費が高くなります。
図8は固体高分子膜方式のオンサイト型水電解水素発生装置です。
山梨県では、天候により変動する太陽光発電による電力の振れを、固体高分子膜形水電解で吸収する試験が計画されています。