起業マニュアル

雇用契約の期間

有期労働契約と無期労働契約

パート、アルバイト等の非正規社員を雇用することは、会社としては業務の繁閑に柔軟に対応することができ、効率的な企業経営を可能にしてくれます。また、労働者にとっても、育児等で時間に制約がある中でも働き続けたい等の要望を叶えられる等、非正規社員という働き方は、多様化する現代社会のニーズに合った雇用形態であるといえます。

しかしながら一方で、正規社員(いわゆる正社員)は、雇用契約期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結しているのに対し、非正規社員は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という)を締結している場合が一般的です。そのため、終身雇用が一般的な正規社員と比較し、非正規社員は、雇用に対する漠然とした不安を抱いている場合が多いのも事実です。

今回は、有期労働契約を中心に、雇用契約の期間に関するポイントをご説明します

有期労働契約とは

労働基準法 第14条では、労働契約の期間について次のように上限を定めています(無期労働契約である場合を除く)。ただし、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復更新することのないよう、配慮する必要があります。

有期労働契約を締結する際の原則と上限年数を説明した表

これに加えて、労働契約法の改正(2013年4月1日施行)により、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換させる仕組みを導入することが定められました。

【注意点】

  • 原則として、6カ月以上の空白期間があるときは、前の契約期間は通算しません。
  • 別段の定めがない限り、申し込み時点の有期労働契約と同一の労働条件とされます。

契約締結時の注意点

有期労働契約を締結する際、会社は労働者に対して、次の事項を明示する必要があります。
また、できる限り書面によるものとし、内容を変更する場合は速やかに伝達することが大切です。

有期労働契約を締結する際に明示が必要な項目と例を記載した表

契約更新の有無や判断の基準は、契約満了時のトラブル回避のためにも、契約締結時に誤解の無いようにしておきましょう。

契約期間中のルール

一般的に、有期労働契約を結んでいるのは、パート、アルバイト等の非正規社員である場合が多いため、会社としては「臨時的、一時的な従業員だからすぐにクビにできる」等と考えている場合が多いのも事実です。しかしながら、次に述べるように、契約期間中は、安易に解雇等、契約の解除はできないこととなっています。

労働契約について定めた労働契約法 第17条では「使用者は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と定めています。やむを得ない事由があり、労働者を解雇する場合であっても、30日前の解雇予告やそれに代わる解雇予告手当の支払いが必要となります。

一方、やむを得ない事由がないにもかかわらず、労働契約を途中で解約することはできないため、そのような解雇は無効となり、解雇することはできません。つまり、使用者には、原則として契約期間中は雇用の義務があると言えます。

また、契約に関する一般的なルールを定めた民法についてもご説明すると、民法 第628条では「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約を解除することができる」と定められています。

しかしながら「この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」としており、仮に会社側の過失によって労働契約の途中に契約を解除(解雇)する場合は、損害賠償をする必要があると定められています。

ここでいう「損害賠償」とは、残りの契約期間に発生したであろう賃金を補償する(支払う)、自社の就業規則に則って休業手当と同等の額を支払う等、労働者にとっての損害を補填することを指します。

このように、有期労働契約については、様々な法律が関係するため、最終的に、やむを得ない事由として認められるか、労働者に対してどのような補填や手当を支払うかは、個別の事案により異なってきます。

有期労働契約の雇い止め

雇い止めとは、有期労働契約において契約満了時に契約更新を行なわず、契約を終了させることを言います。契約を更新しない場合は、契約期間等にもよりますが、少なくとも契約期間満了日の30日前までに、その予告をする必要があります。

契約の満了や更新は、契約締結時に明示したルールに沿って、手続を進めることが大切ですが、前述した更新時の判断基準等が不明確である場合は、その雇い止めが有効か否かが争われる場合もあります。

業務の客観的内容や、契約上の地位、更新手続きの実態、更新状況等から判断して、下記のいずれかに該当する場合は、雇い止めが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は、有期労働契約は更新(締結)されたとみなされ、雇い止めが有効と認められない場合がありますので、注意が必要です。

有期労働契約の雇い止めが認められない可能性があるケースを説明した表

上記のルールを守って、労働者が安心して働くことのできる体制を整えていきましょう。非正規社員であっても、限られた時間の中で質の高い仕事をし、多くの成果を出すことのできる人もいます。人材をうまく活用して、企業経営の効率化も目指していってください。

(執筆・監修:特定社会保険労務士 岩野 麻子)
最終内容確認 2018年2月

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