業種別開業ガイド

古紙回収業

2020年 6月 1日

トレンド

(1)世界トップクラスの回収率

日本製紙連合会によると、2018年の紙・板紙合計の古紙利用率は64.3%、回収率は81.5%。日本は古紙の利用率・回収率が世界でもトップクラスであり、その背景として古紙の回収システムが整備されていることなどが挙げられる。

(2)環境産業関連事業としての追い風

近年、世界的な気候変動などに対して環境産業が国内外で広く振興されている。2019年6月、環境省により発表された「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」によると、2017年に日本の環境産業の市場規模は全体で105.4兆円と過去最大を記録している。

古紙は生産品ではなく発生品であるため需給予測は難しいが、環境産業全体の伸びとともに成長していく可能性はある。また、自治体によっては支援を行っている場合もあるため、起業にあたっては、自身の属する自治体の支援状況について確認しておきたい。

(3)輸出産業として拡大基調

中国を中心としたアジア地域において、日本の古紙に対する需要は高い。古紙回収業というと“ちり紙交換”のイメージが強いが、現代では環境ビジネスの一分野として地方自治体やNPO、企業などとの関わりを深めながらのリサイクル業へと転換。古紙業界の中には、各地域から古紙を回収する業者と、それをまとめて買い上げる卸業者とが存在しているが、この仕組みは他の再生資源物にも応用が効くものである。2018年の古紙輸出は前年比1.2%増の378万トンとなった。輸出シェアの7割超が中国向けとなっている。

ビジネスの特徴

古紙回収業は、一般家庭から発生する一般古紙と、廃棄物処理法に則って産業廃棄物として処理される産業古紙があり、それぞれ異なるルートを通り製紙会社に送られる。

また、再生資源回収業という視点から見ると、古紙回収業は、近年の中国やアジア諸国の経済発展の影響を受け、価格相場が高騰するケースも多い。また、近年の人手不足もある。こうした問題に対応し、安定的な回収体制を整えることが重要である。

開業タイプ

(1)一般家庭の古紙回収

主に新聞・雑誌類を取り扱う。基本的には町内会等の集団回収や地方自治体による行政回収が行われており、個人に仕事が回ってくることはない。そのため同業者組合に加入するなどの手続きが必要となる。

また、インターネット等を通し、一般家庭の回収依頼を直接受けるという方法もある。

(2)産業古紙

小売業のダンボール古紙や印刷・製本工場の返本古紙など、事業者から大規模に発生する産業古紙を扱う業態。

古紙は種類や状態によって用途が変わるため、仕入れ先と納品先に合わせて、大量の古紙を処理する施設や流通経路を整備しておく必要がある。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)必要な手続き

一般廃棄物にしろ、産業廃棄物にしろ「業」として行う場合は営業許可が必要になる。
一般廃棄物の場合は「収集運搬業」で市町村長の許可が必要となる。産業廃棄物の場合は都道府県知事または保健所設置市の市長の許可が必要である。その他、ある程度の規模の事業を行なう場合は移動式クレーンやフォークリフトが必要であり、当然これらを取り扱う免許は必要となる。また、古紙その他の廃品を回収する活動のなかで、中古のバイクなどの売買が発生する場合は古物営業法に基づく許可も必要になり、産業廃棄物などまでを取り扱う場合はそれに関連する許可が必要となる。古物商免許証の取得は容易であり、営業所を管轄する警察署を経由して都道府県の公安委員会に対して許可申請する。

必要なスキル(仕入先、販売先の確保)

処分に困っている「不要となった物」を必要とする者へ再販するというビジネスであり、仕入ルートと販売ルートの確立が最優先である。古紙相場は変動しやすく、市場動向にも注目する必要がある。上手くマッチングさせれば大きなビジネスに結びつくチャンスも多い。

開業資金と損益モデル

取引の仕組みは下記のとおりである。

  • 家庭より回収する古紙は無料で引き取る。企業の産業廃棄物として排出される古紙は一定額の処分費用を請求する。
  • 回収した古紙は、種類別に仕分けをして問屋に持ち込み、買い取ってもらう。価格は常に変動する。
  • 地方自治体の委託を受けて回収した古紙は、自治体からの補助が出る(1キログラムあたり約2円~5円程度)。
  • 1人で営業する場合で、1日あたり3~4トンの取引が必要である。チェーン加盟の場合の損益モデルについては、各フランチャイズ本部から説明会などで説明されるため、ここでは独自ブランドでの新規開業をモデルとして取り上げる。

(1)開業資金

【2トンの中古トラック1台を購入、仕切り場を賃借し、開業する際の必要資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

 売上:20,000円/日
営業日:年間 300日

売上計画例の表

b.損益イメージ

上記、売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は他に分類されない廃棄物処理業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
※出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」

c.収益化の視点

収益化の視点としては、まずは回収先をどれだけ確保できるかという点が重要になる。家庭から出る古紙は地方自治体からの委託や、町内会、学校などが集めたものを回収する方法が多いが、どちらも組合を通じて委託される場合が多い。印刷会社をはじめとした一般企業からの回収の場合は量的にはまとまるが、移動式クレーンやパッカー車(プレス機能を備えた回収車)などの初期投資が必要となる。いずれも既存企業が地盤を構築していることが多く、取引先の開拓は容易ではない。

まずは古紙回収業に就職をし、その後に独立するような流れで進めるなど、ある程度回収先を確保できる見通しをつけてから開業する必要がある。古紙だけでは経営が難しい場合は、他のリサイクル用品(鉄、非鉄、びん、古繊維)の回収を兼業することも検討する必要が出てくるだろう。

一方、経費の面からみると、まず、開業資金は比較的安価に抑えられる事業だ。小規模であれば2トンのトラック1台と10~15平米程度の仕分け場があれば可能であり、賃借せずに自宅の空き部屋か倉庫なども活用できる。運転資金としては人件費などが必要となるが、個人で始める場合には大きな額にはならないと思われる。

このように初期投資負担が軽く、キャッシュサイクルは比較的早いことから、資金運営は比較的容易である。ただし、取引先が地方公共団体など行政機関からの委託となると委託費支払いが年度末になるケースが多ため、注意が必要である。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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