業種別開業ガイド
幼児教育
トレンド
(1)多岐にわたる幼児教育業界とその変化
幼児教育の範囲は、在宅型の通信教材に始まり、通学型のスイミング、体操、サッカーなどを教えるスポーツクラブ、英会話やダンス、楽器演奏などを教える教室、そして小学校受験のための英才教育塾などまで多岐にわたる。また、当業界の最近の変化としては、以下のような点をあげることができる。
- キッズタブレットの登場
キッズタブレット(子ども用タブレット)の登場により、幼児教育の教材にも変化が出てきた。文字や言語、計算の学習は、紙媒体からタブレットに移行しつつあり、プログラミング学習も自宅で可能になっている。 - プログラミング教室の出現
2020年度から実施される新小学校学習指導要領において、プログラミング教育が必修化されることとなった。これを受けて、プログラミングを教える幼児向け教材(プログラミングで動く絵本・ロボットなど)や、教室(ゲームなどを取り入れてプログラミングを学ぶコースなど)が登場している。 - 自国の文化に配慮した英会話教室
英語教育の低年齢化が進む中でも、子どもたちが自国の文化への理解を疎かにしないよう、日本文化や礼儀作法に精通した外国人講師を採用したり、日本文化を英語で学ぶ授業を行ったりする教室も出てきている。 - 幼児教室の増加
0歳から6歳の乳幼児を対象に、知能教育や情操教育を目的とした多彩な授業を行う教室が増加している。内容は、音楽や体操、ゲームや体験を通してコミュニケーション能力や身体能力など幅広い能力を育成するものであり、フランチャイズチェーンの登場もあり、近年普及してきている。
(2)国の子どもの教育費への援助
子どもの教育費は「6ポケット(6人の財布)」から出ると言われている。子どもから見た父と母、そして、父方・母方、両方の祖父母たちが、子どもの教育費を支えているという意味である。そして、国も子どもへの教育費を支える政策を行っている。両親や直系尊属である祖父母から子どもや孫に教育資金を一括して贈与する場合、子・孫ごとに1,500万円までを非課税とする措置が創設されている。
幼児教育事業の特徴
幼児の習い事の内容は、成長年齢に応じて異なってくる。一般に、乳児期には、家庭内で教材を使い教育を行うケースが多い。教室に通わせる場合は、知能育成や情操教育を目的とした幼児教室へ通わせるケースが多い。
乳児期を過ぎると、体操教室や英会話教室にも通わせるようになり、その後、体力や自主性が身に付いてくるに従い、スポーツクラブや楽器・音楽教室などへ通わせる。また、小学校受験を考える家庭では、早ければ4歳を過ぎたころから受験対応型塾へ通わせ始める。
幼児教育事業業態 開業タイプ
以下では、比較的利用されることの多い幼児教育事業をいくつか紹介する。
(1)教材による通信教育
毎月、成長期に応じた教材が送られてくる。保護者の指導の下において、幼児の教育が行われる。通常の教室と比較して広い商圏設定が可能であり、教室賃料なども抑えられる。
(2)幼児教室
教室によって、体育重視、コミュニケーション能力重視、音楽重視など、特徴を持った運営がなされている。とはいえ、スポーツクラブや英会話教室のように専門特化したものではなく、授業料も月額1万円未満のところが多い。
(3)スポーツクラブ・体操教室
学童や成人向けのスポーツクラブなどが設けている幼児向けコースで教育指導が行われるケースが多い。内容としては、水泳、バレエ、空手、新体操などが人気である。また、地域の野球チームやサッカーチームが主催する幼児体験コースに参加させるケースもある。講師1人当たりに多数の参加者の指導も可能であることから、効率的な運営も可能である。
(4)英会話教室
各種英会話学校や学習塾、カルチャーセンターなどが幼児向けクラスを設けて教育指導しているケースが多い。講師は、ネイティブな英語を話す外国人のほか、主婦や海外在住経験のある日本人などをホームティーチャーとして採用する教室も増えてきている。ホームティーチャーは採用もしやすく、人件費も低く抑えられる。
(5)楽器・音楽教室
子どもの情操教育を目的としたものと、ピアノやなどの個人レッスンなど、英才教育を目的としたものがある。一般的に、初級・中級・上級のグレードごとに月謝は上がっていくため、受講生をレベルアップさせる技術と継続率の高さが収益性に大きく貢献する。また、祖父母も鑑賞可能な発表会などのイベントを企画すれば、別途参加費を徴収する機会も得られる。
(6)絵画・造形教室
カルチャーセンターなどが幼児向けクラスを設けて教育指導しているケースが多いが、個人の芸術家が技能を指導する教室もある。 絵画・造形教室は、幼児向けの場合、体験または入門コースとして設定されているところがほとんどである。料金は教材費・材料費込みで1万円前後(入会金5,000円前後)のところが多い。
(7)プリント教材教室
計算・書き取りなどを中心とする教室。塾や家庭教師に比べると幼児の自主性が尊重されていると言える。教室とは言え、従業員は、定型のシステムに則って子どもたちを指導するため事業運営はしやすく、アルバイト中心でコストも低く抑えられる。
(8)受験対応型塾・家庭教師
小学校受験対策に特化した幼児向け塾、家庭教師である。受験合格が必須の命題とされる。指導内容は高度であり、また、少数精鋭型の運営をしているところが多いため、月謝は2万円以上など高めに設定しているところが多い。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。
(2)必要な手続き
事業内容に応じて、必要な許認可などを取得する。また、公的な許認可が不要な場合であっても、例えば、スイミングスクールの指導員のように、協会が認定資格を付与しているケースもある。該当する業界の団体や協会に確認し、技能の証明を受けることが望ましい。
商品・サービスづくり
(1)商品・サービスづくり
幼児教育事業は、幼児の健全な発達を実現・サポートする事業だと言える。この幼児の健全な発達について、文部科学省は、幼児教育者向けに、その具体的な方向性(イメージ)を提言している。それぞれの幼児教育事業において手法は異なるが、この方向性に留意して、商品・サービスづくりをすることが大切だと言える。
参考
- <幼児期の終わりまでに育ってほしい幼児の姿(参考例)> 文部科学省「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について」(平成22年11月11日)
(2)顧客づくり
現代の幼児教育事業にとっての課題は、少子化による潜在顧客数の減少である。そのため、幼児教育の延長として、小学校低学年から高学年くらいまでが参加可能なプログラムを設けるなどして、顧客層の拡大や長期にわたる顧客の囲い込みを図る必要がある。このほか、子どもだけでなく、保護者などを対象としたサービス(大人向けコースの開設、子育てに関するカウンセリングなど)を加えることも顧客の囲い込みに有効である。
必要なスキル
いずれの幼児教育事業においても、経営者自らが、幼児の性質を発達心理学および生理学的に知っておくことが大切である。親と幼児双方の気持ちもうまく捉えることが、事業成功の秘訣である。
幼児の性質を心理学的、生理学的に体系的に学びたいという方には、独学で勉強することも可能だが、幼児教育関連の大学や専門学校で学ぶという選択肢もある。今は大学などで社会人向けのコースなども提供されている。
教室で専門的な知識や技能を教える場合は、専門の人材を雇う必要があるが、未経験者であってもフランチャイズチェーン(以下FC)に加盟して、本部の教育研修に参加することで知識や技能を身に付けるという道もある。FCに加盟すれば、専門知識・技能のほかに、事業運営に関する事項についても指導を受けることができるので、初めて事業経営者になる人には適している方法と言える。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
以下は、知能・情操教育を目的とした幼児教室の必要資金例である。
(2)損益モデル
■売上計画(参考例)
■損益イメージ(参考例)
- ※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況などにより異なる。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)
掲載日:2018年9月