業種別開業ガイド

ラーメン店

2023年 1月 20日

トレンド

いまや"日本の国民食"とも言われるラーメンだが、提供するラーメン店は平成28年現在で全国に18,041店、その市場規模はおよそ6019億円と言われている(「令和3年経済センサス」総務省統計局)。全国各地に「ご当地ラーメン」として地域色豊かなラーメンが存在しており、近年ではアジアをはじめ欧米などの海外へも出店が目立っている。ちなみに観光庁が令和元年度に実施した訪日外国人消費動向調査では、「最も満足した飲食」で肉料理(26.7%)に次いでラーメン(19.3%)が第2位にランクインしている。

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食材を活かした組合せのバリエーションには無限の可能性が

ラーメンといえば、醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメンという3分類が有名だが、現在はもっと多様化しており複雑だ。こうしたタレ(かえし)を互いに混ぜたり、ほかの調味料を加えたりしてそれぞれの店独自の個性を出している。麺にしても細麺、中細麺、中太麺、太麺といった違いに、縮れ麺とストレート麺という違いもある。スープにしても、鶏ガラ、豚骨、牛骨、魚介(煮干し、鰹節、鯖節、貝類など)、さらに香味野菜(タマネギ、ナガネギ、ニンジン、ニンニク、ショウガ、サンショ、干しシイタケなど)や海藻(コンブなど)が使われ、そのうえにトッピングの具材となればまさに千差万別だ。その組合せのヴァリエーションは無限に近い。

異業種参入で、消費者のこだわりやライフスタイルの変化に応える

最近の傾向としては、和食やフレンチなどから発想を得た独自のラーメンが多く出てきたということがまずあげられる。ラーメン専門店ではない異業種の店が、コロナ禍で通常営業ができない代わりに、ラーメンを始めるという図式がある。和食の店が鴨ラーメンを出したり、イタリアンの店でトマトベースのラーメンを出すといった具合だ。

外食ビッグデータ分析サービス「Food Data Bank」の調査によると、2021年後半くらいから「スタミナラーメン」の人気が高まっているという。モチモチの太麺にとろみのついた甘辛いあんを載せたもので、ニンニクのきいたパンチのある味が特徴だ。コロナ禍以降の消費者は外食にストレス発散や気分転換を求める傾向があるとも言われるが、今後しばらくはそうした傾向が続いていくのだろうか。こちらは若い男性層を中心に人気があるという。

一方で「シェルラー」と呼ばれるファンを生んでいるのが、アサリやハマグリ、シジミといった貝類から取ったスープを使用した「貝ラーメン」だ。鶏や豚といった動物系のスープと違って、こちらはあっさりしているのに貝類の旨みたっぷりな出汁が特徴で、上品でやさしい味が女性にも人気という。

また、コロナ禍の影響で、家でラーメンを食べることが増えたのも最近の傾向といえる。まず通販のラーメンが非常に増えた。そしてデリバリーやテイクアウトもスマホから手軽に注文できるようになって一気に増えた。店側でも専用の使い捨て容器を開発したり冷めない工夫をしたりする店が出てきている。

ラーメン店開業の人気理由と課題

人気理由

1. 飲食店全体でみても、比較的低資金で始められること。

  • 10坪以下の小規模店でも開業できる
  • 居抜き物件を活用することで初期費用を抑えることができる

2. 専門的な資格が不要であること

  • 専門的な資格や有資格者を雇用する必要がない
  • フランチャイズ店では研修制度が整っている

3. 店ごとのこだわりを反映させやすいこと

  • スープや麺、具にこだわりを持たせやすく、メニューも差別化しやすい

課題

  1. 競合する店の数が多い
  2. 原材料費の負担が大きい

開業の10ステップ

開業の10ステップ

飲食店営業許可と食品衛生責任者

ラーメン店に限らず飲食店を開業するためには「飲食店営業許可」を取得する必要があり、無許可営業の場合は2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられることになる。

この許可を受けるためには、管轄の保健所に申請して検査に合格することが必要だが、その前にやっておくのが「事前相談」と「食品衛生責任者の設置」だ。また、深夜営業をして酒類を提供する場合は「深夜酒類提供飲食店営業開始届」の提出も必要になる。

「食品衛生責任者」には、以下の資格取得者が選任される。ただ資格を持っていない場合でも、それぞれの都道府県にある食品衛生協会が実施する「食品衛生責任者養成講習会」を受講することで食品衛生責任者となることができる。

  • 調理師
  • 製菓衛生士
  • 栄養士
  • 船舶料理士
  • と畜場法に規定する衛生管理責任者
  • と畜場法に規定する作業衛生責任者
  • 食鳥処理衛生管理者
  • 食品衛生管理者又は食品衛生監視員の資格要件を満たす者

また、店の収容人数が30人以上の場合は「防火管理者」も必要で、延べ床面積300平方メートル以上なら「甲種防火管理者」、300平方メートル未満なら「乙種防火管理者」が必要になる。取得までに時間を要する場合もあるので、早めに対応しておくことが必要だ。

ラーメン店イメージ02

開業資金

新規に店舗を取得する場合には、壁紙の張り替え、電気工事・照明設備の設置、水回りの工事など様々な内装工事が必要だが、居抜き物件を取得することで費用を抑えることができる。またこのほかに、地域によっては油を直接排水管に流さないための「グリストラップ」の設置が義務づけられることもある。

また、フランチャイズで開業する場合は、こうした費用のほかに加盟金や保証金、研修費などを本部に支払う必要がある。

初期費用の例

損益イメージ

以下は、黒字ラーメン店60社(「期末純資産がプラス」かつ「当期損益がプラス」の企業)のデータである。複数店舗展開をしている事業者も多く、その全体の合計数値となっている。

損益イメージ

従業員の採用

開業当初はどれだけの売り上げが見込めるか予測が立たないので、できるだけ人件費は抑えたいところだ。しかし家族の協力が得られない場合、営業中は必ず誰か一人は店にいないといけないので、店長が一人で店を回していくのは不可能だと考えたほうがよい。

人件費の割合は、売上全体の3割以内で収めたいところだが、注意しなければならないのは「地域別最低賃金」というもので、これを下回ると罰則が科せられることになる。

▼地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省 令和4年度)

従業員を採用する場合、正社員、パート(主婦層が多い)、アルバイト(若年層が多い)といった雇用形態がある。アルバイト・パートの募集は研修期間を考えて、開店日の1か月前くらいが目安となる。正社員の場合は在職中である場合も考えて2〜3か月前から募集を開始したほうがよい。

従業員の募集に関しては、一般的になかなか厳しい状況にある。求人広告等を出す際には働き手の目線に立って考えていくことが大切だろう。

フランチャイズ店

ラーメン店を開業するためには、他店での「修行」が必要だと考える人は多い。それは次のような理由による。

  1. ラーメンの作り方を学べる
  2. ラーメン店の仕事を学べる
  3. 接客で重視していることを学べる
  4. スタッフの選定・育成方法を学べる
  5. ラーメン繋がりのコネクションができる

こうしたことがフランチャイズ店では「修行」という形ではなく「研修」として行われている。その期間は概して「修行」に比べれば短期間であり、内容は合理的で体系的になっているようだ。

フランチャイズ店に加盟した場合、こうした研修を受けてから開業するわけで、すでに世間が認めた味であり、店舗の内装も統一されたもので、失敗する要素の極めて少ない経営ができることになる。仕込みも楽であろう。

加盟金や保証金などのほか、月々のロイヤリティを支払う場合が多いものの、安定した商売ができると言えるのかもしれない。ただ、オリジナルの味を追究するような人にとっては別次元の話なのかもしれない。

ラーメン店イメージ03

※開業資金、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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