業種別開業ガイド
学習塾
2020年 2月 27日
トレンド
(1)市場はほぼ横ばい
少子化が叫ばれる中にあっても、ゆとり教育の見直しや、子ども手当拡充の寄与などによって家計の教育関連への資金投下は持ち直しをみせており、近時、学習塾・予備校の市場規模は2017年度で9,690億円、前年比100.7%(矢野経済研究所調べ)とほぼ横ばいで推移している。
(2)大都市圏は有名進学塾による寡占化進む
得意分野や地域を補完するために有名進学塾によってM&A、FC化が進められており、学習塾は大都市圏を中心に大手寡占といった様相をみせている。一方で、郊外や地方都市などでは昔ながらの寺子屋的で、「補修塾」といった意味合いの強い個人塾も未だ数多く存在し、独自の存在感をみせている。
(3)提供サービスの多様化
授業形式としては業界大手が得意とする「集団授業型」、個人塾を中心に展開されてきた「個別指導型」が主となるが、近時はeラーニングシステムを用いて授業動画を提供し塾講師がフォローに回る手法なども登場。加えて、教育改革によって小学校にて必修化される予定の「英語教育」、「プログラミング」に対応する必要性も生じている。
ビジネスの特徴
学習塾とは、主に小学4~6年生、中学1~3年生を対象とした学校外教育サービスである。進学を目的とした「進学塾」、学校の授業進展に合わせて予習や補修などを行いつつ、受験時には進学指導も行う「補習塾」、双方の特色を持つ「総合塾」に大別される。
大手の学習塾は「総合塾」が大半を占めるのに対し、個人や小規模の学習塾は「補習塾」が多く、定期テスト対策に特化した塾が主流で、地元の学校への進学を考える学生等が主に通っている。
そのため、開業予定地の学校情報を入手し、きめ細かな指導ができるかどうかが重要となる。
開業タイプ
(1)新規独立型
競合の多い大都市圏を避け、郊外エリアに開業することが望ましい。通常は半径3km、広くても10kmが限界とされる学習塾の商圏に充分な対象年齢人口があるかについての事前調査が重要である。
(2)FC加盟型
大手学習塾チェーンの傘下に入り、その指導のもと開業。FC本部よりカリキュラム、テキストなどが提供される他、時には塾講師の派遣も得られる点は強み。また、大手ゆえの地名度から開業初期の塾生募集にも有利である。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
法的には学習塾を運営するにあたって資格、手続きは必要としない。
ただし、「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」により、誇大広告やクーリングオフに関して規定されている。
メニュー、商品の品揃えなど
地域に密着する個人塾にとっては「口コミ」や、地元校への「進学実績」が塾生募集の拠り所となる。しかし、新規開業にあたってはそのいずれもないことが多い以上、他の既存学習塾と差別化できる特徴を備えていることが好ましい。具体的には対象年齢を小学校低学年や高校生に広げ、IT技術を駆使したタブレットでの授業、英語教育やプログラミングをいち早くカリキュラムに取り入れることなどである。
必要なスキル
学習塾を運営するにあたり経営者個人として資格はとくに必要がない。
個人塾の開業であれば、基本的に経営者自身が講師として授業を担当することになる以上、中学課程までの主要科目の知識は不可欠となる。加えて、進路指導を行うだけの近隣校の知識も必要ではあるが、小規模であればあるほど最終的には経営者自身の「教育者」としての評価、評判が最も重要であると云え、学習塾の将来を左右することになろう。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【新規独立型、郊外エリアに33平米の教室兼事務所を構え、1名+塾講師アルバイト2名で開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
地元人脈により塾生40名を抱えて開業、以下の月謝、講習代などをもとに売上高を算出。
b.損益イメージ
※標準財務比率は、学習塾に分類される企業の財務データの平均値を掲載
(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
c.収益化の視点
TSR中小企業経営指標の標準財務比率によれば、売上総利益率は52.8%に及ぶが、労働集約型ビジネスであり、売上原価のおよそ半分を占めることになる塾講師への人件費、販売管理費の過半となる経営者への報酬が主な支出となる。個人塾として開業する場合は、教室施設にも特段の資金投下は要さず、初期投資が抑えられる特徴があるため、採算さえ確保できれば短期での投資回収も可能である。よって、進学実績や口コミも基本的にない開業当初に損益分岐点を上回る塾生を集めることができるかが鍵であり、それには既存の学習塾と差別化されたコンセプトをいかに近隣住民に提示できるかにかかっていると云えよう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)