業種別開業ガイド
ベビーシッター・サービス
2020年 1月 16日
トレンド
(1)堅調推移の模様
ベビーシッター・サービスの市場規模に関して、近年の詳細な統計データは確認されないが、2009年度当時で既に250億円ほど(矢野経済研究所調べ)と算出されていた。一方、保育所・託児所の市場規模は、少子高齢化時代にあっても核家族化、共働き世帯の増加などを背景として年々増大している。2009年度の市場規模は1兆9,100億円だったが、2017年度には3兆1,600億円(同調べ)まで拡大している。保育所・託児所と補完的な関係にあるベビーシッター・サービスも、堅調な推移をみている公算が大きい。
(2)地域密着の中小零細業者にも存在感
国内においては、もともと家政婦、子守、お手伝いさんといったサービスに端を発してきた。このような経緯もあり、地元に密着した中小零細業者、個人シッターが口コミや紹介ベースで、今なお安定して利用客を確保している。一方、大都市圏を中心に展開する業界大手はネット予約による利便性、保育士・幼稚園教諭免許などの資格保有者を多く抱える信頼感、リーズナブルな価格設定などを前面に打ち出しシェア拡大を図っている。
(3)自治体施策への対応
2016年以後、公的保育施設の絶対数不足を背景とした待機児童問題の解消に向け、官公庁や自治体によって様々な対応策が講じられている。ベビーシッター・サービスも「保育所」ほどではないにしろ、その恩恵を一部受けている。この恩恵を活かし、各種助成金を得て価格面のハードルが下がった利用者を取り込み、固定客にすることが重要である。
ビジネスの特徴
ベビーシッター・サービスは、保護者が不在の際、1~2名の個別保育を請負うもので利用者宅に訪問して行うケースが多い。複数の保育士のもと集団保育がなされる「保育所」と異なり、マンツーマンゆえにキメ細かい対応が可能である分、料金としてはやや割高に設定される。
アルバイト、パートが主となるベビーシッターに対する時給は、経験や技能、資格保有有無などに応じて1,000~1,400円にて変動する。一方、利用客には支払時給の20%程度を手数料として上乗せして請求する仕組み。したがって、案件多寡が手数料収入の増減にほぼ直結するビジネスモデルであり、いかに効率よく安定して案件をこなすかが、最も重要である。
開業タイプ
(1)派遣型
いわゆる従来型で、既存客の紹介やチラシ広告などで集客。指名なども考慮しつつ調整の上で個別にベビーシッターを派遣する。地元ネットワークに強み。
(2)マッチング型
専用サイト、アプリなどを通じて利用客とベビーシッターを紐づけ。当日利用にも対応するなど利用客のニーズをつかんでいる。
(3)他のサービス業者の参入型
家事代行サービス、介護サービスなどを運営する業者による参入。既存サービスの顧客基盤を擁している点に強み。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
ベビーシッター・サービスを行う際は、2015年以後、全業者に対して都道府県に認可外の居宅訪問型保育事業として届出することが義務づけられている。その際、提出する資料は以下のとおり。
従業員等保育従事者が複数いる事業者の場合
ア.認可外保育施設設置届
イ.事業調書
ウ.保育従事者に有資格者がいる場合は保育士証等の写し
エ.損害賠償責任保険に加入している場合は保険会社との契約書類
オ.事業パンフレット、しおり等
なお、万が一の事故に備え、ベビーシッター専門保険、業界団体(公社)全国保育サービス協会による総合保障制度といった賠償責任保険への法人加盟が望ましい。
メニュー、商品の品揃えなど
通常業務に加え、近時は付加価値を与える様々なサービスが展開されている。具体的には、シッティングサービスに並行し家事代行も行うケースなどである。ほかにも、ベビーシッターが家庭教師的な側面を備え、英語にてサービスを行う業者もある。また、託児する部屋にWebカメラを設置し、利用者が外からスマホでリアルタイムに状況確認ができるサービスなども人気を集めている。
必要なスキル
ベビーシッター・サービスを行うにあたり、特別な資格保有は必要としない。ただし、保育士、幼稚園教諭、看護師、助産婦などの資格を保有するベビーシッターは利用者から人気が高く、信頼感も高い。
また、(公社)全国保育サービス協会が付与する「認定ベビーシッター資格」は民間資格ではあるが、一定の技能、知識を裏付けるものであり、抱えるベビーシッターにその取得を勧める業者も多い。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【派遣型、都市郊外に27平米の事務所を構えて開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
利用会員40名を有していることを前提に、以下の利用料金などをもとに売上高を算出。
b.損益イメージ
※標準財務比率は、家事サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載
(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
c.収益化の視点
ベビーシッター・サービスは労働集約型の業種となるため、収益率はさほど高くない。TSR中小企業経営指標に於ける売上総利益率は22.1%であり、これは利用者からの手数料率20%とほぼ同位になる。この粗利より経営者給与、事務所経費、保険負担、教育費用などを賄っていくことになるが、システム投資が嵩むマッチング型の開業でない限り、初期投下資本は比較的抑えられるため、黒字さえ維持できれば短期間での資金回収も可能といえよう。
増収が粗利増に直結する手数料ビジネスである以上、売上拡大がまず求められるところであり、人脈、ネットワークなどを駆使し、いかに効率的に集客できるか、が鍵となってくるといえよう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)