中小企業応援士に聞く

形状記憶加工技術で自社製品を開発、地元との連携をさらに強化へ【中島プレス工業有限会社(埼玉県越谷市)代表取締役・小松崎いずみ氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2023年 11月 20日

形状記憶加工技術で開発した「おくり鳩」を手にする中島プレス工業代表取締役の小松崎いずみ氏
形状記憶加工技術で開発した「おくり鳩」を手にする中島プレス工業代表取締役の小松崎いずみ氏

1.事業内容をおしえてください

柔らかい素材の裁断・型抜きを得意とする
柔らかい素材の裁断・型抜きを得意とする

1971年に父(中島敷香氏)が創業して以来、電子部品パッキン材の加工を主軸として事業を展開してきた(会社設立は1974年)。工場には大型プレス機や連続裁断機、熱プレス機を備え、とくにフェルト系や不織布系、フィルム系など柔らかい素材の裁断・型抜きを得意としている。また2014年にプリント事業部を立ち上げ、インクジェット出力のプリンターを軸に、屋外看板の印刷から複合材へのラミネート加工やカッティングプロッターでの切り文字、各種イベントPOP・ポスターなどの制作を行っている。

社員には女性が多く、とくに子育て世代が中心。私も入社したときは長男(現在の専務・晃氏)を妊娠中で、出産後は子育てをしながら仕事を続けてきた。それだけに仕事と育児を両立させていく苦労はよくわかる。2003年に父の跡を継いで代表取締役に就任してからは、女性が働きやすい職場環境づくりにいっそう取り組み、2009年には埼玉県子育て応援宣言企業として登録された。その後も働き方改革を継続し、県の多様な働き方実践企業やシニア活躍推進宣言企業の認定を受けている。

2.強みは何でしょう

「おくり鳩」の使い方。(左から)開く→メッセージを書く→元の形に戻す

創業以来、長年にわたり培ってきた柔らかい素材(機能性材料)の加工技術とノウハウが強み。とくに2009年から当社初の自社商品として開発した「おくり鳩」は各方面から注目されている。

「おくり鳩」は、葬儀の出棺の際に白い鳩を放つ「放鳥の儀」をヒントに考案した商品。リーマンショックで下請けとしての仕事が激減した際、なにか自社商品を製造したいと考えた。そのときに頭に浮かんだのが、祖父が生前に「放鳥の儀は費用が高いから自分の葬儀ではやらなくていいよ」と話していたことだった。不織布で鳩を折り、本物の鳩の代わりとするのはどうかと考え、開発に着手した。プレス機で不織布に折り目をつけ、さらに形状記憶加工を施しているので、一度ほどいても簡単に元の鳩の形に折ることができる。この技術で2012年に特許を取得し、2015年度の渋沢栄一ビジネス大賞テクノロジー部門で特別賞を受賞した。販売先は主に葬儀社だが、中小機構から販路開拓の支援を受け、現在は10カ所以上の神社・寺院にも販売している。

この形状記憶加工技術を活かして「ORU-KOTO(折ること)」を開発した。和紙を折って贈り物を包むという日本の伝統文化「折形(おりがた)」を伝えていこうと、形状記憶の折り目がついた不織布製の「折形見本帳」で折り方を確認しながらポチ袋を作り上げるものだ。こうした商品開発などが高く評価され、2021年には中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定された。

3.課題はありますか

「ORU-KOTO」で様々な形のポチ袋ができる
「ORU-KOTO」で様々な形のポチ袋ができる

DXが一番の課題。生産管理システムや受注管理システム、在庫管理システムなどITを活用して工場の全工程の見える化を進めており、そのおかげで働きやすさ、とりわけ女性社員の働きやすさを実現でき、業務の効率化で生まれた時間を新規商品の開発に充てることができている。とくに長男が入社してからはデジタル化のスピードアップが図られた。

しかし、最近はシステムのバージョンアップのサイクルがどんどん短くなっている。新しいシステムの導入には当然、多額の費用がかかるが、その一方で、時代の変化に取り残されるのが怖い。いかに私たち中小企業が大手の動きについていけるのか、知恵を絞っていきたい。

4.将来をどう展望しますか

鎌倉で開催したワークショップ
鎌倉で開催したワークショップ

創業以来の既存事業を主軸としつつ、社員のアイデアを積極的に取り上げるなどして、プラスアルファを作り上げていきたい。そのひとつがデジタル魚拓アプリ「魚拓の綿屋」。コロナ禍で密が避けられるレジャーとして釣り人気が高まるなか、釣った魚をスマートフォンで撮影して魚拓を製作するもので、長男が中心になって開発した。デジタル魚拓については既にいろいろなサービスが出ているが、腕利きの画像修正で最高の思い出となる魚拓を作ることができる。来年1月に開催されるマッチングイベント「彩の国ビジネスアリーナ2024」(埼玉県など主催、中小機構関東本部など後援)に出展する予定だ。

「おくり鳩」などの形状記憶加工技術はさらに拡大させていきたい。このうち「ORU-KOTO」は、昨年9月の東京インターナショナル・ギフトショーに出展したところ、「北鎌倉ギャラリーえにし」(神奈川県鎌倉市)から声がかかり、今年6月にワークショップを開催した。日本の伝統文化を次世代につなげていくものとして評価された。

5.経営者として大切にしていることは何ですか

炊き出し訓練ではドラム缶の窯でピザを焼いた
炊き出し訓練ではドラム缶の窯でピザを焼いた

地元との連携を強化していきたい。当社は2007年に事務所が全焼する火事に見舞われた。火事は金曜の夜に発生し、週末に復旧作業を進め、週明けの月曜から稼働を再開した。工程表や顧客データは無事だったが、ファクスが焼失したため顧客からの発注連絡を受けられなくなった。すると近くの工場の社長が当社宛てのファクスを代わりに受信して届けてくれた。また再開後も社員は会社のトイレが使えなかったが、近所のコンビニで借りることができた。こうした経験から地域の連携が大切であると痛感した。

最近は大きな自然災害の危険性がいっそう高まっている。火事と違って自然災害の場合は地域一帯が被災する。とくに越谷市内には五つの一級河川があり、水害のリスクが高い。そこで火事の際にファクスを貸してくれた町工場と自然災害発生時にも協力し合えるよう連携事業継続力強化計画を策定した。

また今年10月には、災害発生時を想定し、ドラム缶で窯を作りピザを焼くという炊き出し訓練を行った。燃料には廃材パレットを使った。訓練には当社の社員と家族、そして連携先企業の社員と家族が参加した。社員の家族間の交流は新たな発見も多く、多角的な視点を持つことができた。翌日は全従業員へ「まかない」を提供し、ドラム缶窯の特徴や調理時間について共有した。当社には女性社員が多く、各家庭での食事を作っているが、被災時に男女問わず誰もが自分で食事を作ることができれば、社員は事業活動の復旧により注力できる。

6.応援士としての抱負は

今年8月に中小機構関東本部が応援士を集めて「援友会」を開いた。そこでは経営者の先輩方から直接話を聞くことができ、いい刺激を受けた。経営者として、そして応援士として、やるべきことが確認できた。私は応援士のほかに、越谷商工会議所工業部会の議員をつとめており、これからは、当社としてできること、そして中小機構の支援策の紹介などで、地域にいっそう貢献していきたい。

企業データ

企業名
中島プレス工業有限会社
Webサイト
設立
1974年4月
代表者
小松崎いずみ 氏
所在地
埼玉県越谷市増森2544
Tel
048-964-9924

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