これからの訪日外国人旅行者ビジネス

「美ら地球(ちゅらぼし)」 田舎だからこその体験を提供する

飛騨古川のサイクリングツアーに年間1500人近い外国人がやってくる。このツアーを主催するのがインバウンド・ベンチャーの美ら地球(ちゅらぼし)。2007年に山田拓社長が外国人旅行者ビジネスを目的に起業した。

美ら地球の店舗前からサイクリングツアーに出発する

最初は自転車を貸すだけのサービスだった

2004年、山田社長は外資系経営コンサルティング企業を退職して夫婦で2年間、バックパッカーとして世界中を旅した。旅の半分はテントで寝起き、アフリカでは小さな集落の生活を体験するなど、そこでなければ得られない価値を経験する旅だった。

帰国後は岐阜・飛騨市古川町で起業。出身は奈良県だが、飛騨の地域性に惚れこみ、定住を決意した。起業時に地元の観光協会のアドバイザーに就き、外国人旅行者を対象としたサイクリングツアーを企画したが、事業を運営できる人材がなかったため自ら事業を起こすことになった。2009年秋のことだった。

現在のガイドツアー「飛騨里山サイクリング」も始めた当初は自転車だけを貸し、簡易な地域観光マップを旅行者(日本人)に手渡して「いってらっしゃい!」と送り出すだけのサービスだった。いわば「放任状態」、好きなように観光してね、というスタンスだった。しかし、京都のように名所旧跡がいたるとことにある観光地とは違い、飛騨古川ではそのビジネスモデルは通用しなかった。

もっと付加価値のあるレンタサイクルにしなければ。その結果、山田社長が発案したのがガイドしながら飛騨古川をめぐるツアーだった。

里山のライフルタイルが垣間見えるツアーにした

飛騨里山サイクリングには3つのメニューがある。時間と距離に応じて組まれた3種類のツアーメニューだが、いずれも自転車で飛騨地域をめぐり、ガイドが田畑や神社、古民家などの文化、歴史を英語で説明する。

「この地域の1つひとつをガイドしていくと、外国人のお客さまにも飛騨古川のライフスタイルが垣間見えるようになります。それは、ここならではの人情や日常に触れられるからです」(山田社長)

飛騨里山サイクリングに参加する外国人の95%は欧・米・オセアニアから訪れた旅行者だ。彼らの旅行スタイルは個人単位で長期間を費やすことにあり、だからサイクリングも半日、一日とじっくり時間をかけて楽しむ。

そしてガイドの説明を聞きながら風景や歴史を知り、時に地元の人から気安く声をかけられ、また時には自宅に招かれてお茶をごちそうになる。そんな体験を通して自然のみならず人ともふれあうことで飛騨古川のライフスタイルを実感できる。それが山田社長の生み出した付加価値のあるツアーだった。

飛騨古川のライフスタイルが実感できるとガイドツアーは外国人旅行者から好評

外国人旅行者の満足度はほぼ100%

飛騨里山サイクリングを経験した外国人旅行者は異口同音に賛辞を示し、彼らのクチコミにより、世界屈指の旅行クチコミ・サイト「トリップアドバイザー」から外国人旅行者の満足度99%と高評価を得ている。

同社も英語のWebサイトで丁寧に情報発信をすることで顧客の獲得に努めている。個人で長期間の旅を楽しむ欧米の旅行観に対し、美ら地球は、日本の原風景である里山や民家、そして純朴な人々とのふれあいを提供する。そんな地域の資源を活かしたインバウンド・ビジネスが外国人旅行者を魅了してやまない。

日本酒づくりなど飛騨の文化を体験できる外国人向けサービスも拡充している

美ら地球は役員を含めてわずか9人のちいさな会社だが、外国人旅行者に飛騨古川を楽しんでもらうための工夫を絶え間なく続けている。これまでのサイクリングで地域の自然や人に触れるツアーのほかに、地元の木工や食(日本酒、牛肉など地元食材が豊富)など飛騨文化を体験するサービス、また古民家で長期滞在するサービスなど新たなメニューも開発・提供している。

日本の里山でなければ得られない経験を外国人旅行者に提供する。そんな美ら地球の価値観が今日も外国人旅行者を飛騨古川に引き寄せている。

企業データ

企業名
株式会社美ら地球
Webサイト
代表者
取締役社長 山田拓
所在地
岐阜県飛騨市古川町弐之町8番8号
事業内容
旅行業、コンサルティング

掲載日:2015年3月16日