「角膜移植は100年の歴史がある治療法だが、世界的にドナー(角膜の提供者)が不足している。iPS細胞を用いて再生医療の道を拓き、角膜の病気に苦しむ全世界の患者の治療に貢献したい」。羽藤氏は起業の理由をこう話した。
慶應義塾大学医学部を卒業後、眼科医として臨床の現場で角膜移植手術を専門的に手掛ける一方、大学院に進学。iPS細胞を用いた角膜の再生医療の研究を続けてきた。積み重ねてきた研究成果を早期に実用化させるため、2015年、当時の上司だった同大医学部眼科学教室の坪田一男教授(現名誉教授)と榛村重人准教授(現特任教授)とともにセルージョンを設立した。
羽藤氏によると、角膜移植手術を必要とする疾患の半数以上が水疱性角膜症なのだという。角膜内皮は角膜内の水分量を調整する役割を持っているが、機能しなくなると角膜内に水がたまり、水ぶくれを起こす。たまった水が混濁し、症状が進行すると失明してしまう。
セルージョンが実用化を目指すのは、iPS細胞から作り出した角膜内皮代替細胞を注射で角膜に移植し、角膜内にたまった水を排出させる治療法だ。「機能を持った角膜内皮代替細胞を移植すると、角膜内にたまった水を排出するようになり、濁った角膜が再び透明になる」と羽藤氏は語る。
濁った角膜をすべて切り取り、ドナーから提供を受けた角膜を移植する手術に比べて、羽藤氏らが開発した角膜内皮代替細胞移植は治療が容易で患者の身体的な負担も大幅に軽減することができる。細胞は凍結保存によってストックでき、必要な時に病院に届けられる。ドナーの提供を待つこともなくなる。
大学では角膜内皮代替細胞をiPS細胞から作り出す先端的な研究を進めていたが、実用化に名乗りを挙げる企業がなかなか現れなかったそうだ。「ならば、われわれが実用化をリードしよう」と眼科学教室の3人で話し合い、起業を決めた。