激変する時代を乗り越える中小企業

「お困りのお客さまのお役に立つ」との理念に立ち返り納期遵守率100%達成【東海バネ工業株式会社(大阪府大阪市)】

2023年 7月 20日

自律性がある社員が一体となって難局を乗り越えた
自律性がある社員が一体となって難局を乗り越えた

1. 事業内容をおしえてください

夏目直一代表取締役
夏目直一代表取締役

1934年の創業、そして1944年の会社設立以来、「単品のばねでお困りの方々のお役に立つ」という経営理念のもと、金属ばね一筋で事業を続けている。「完全受注・単品生産」をコア・コンピタンス(競合他社に真似できない核となる能力)としており、業界では珍しい「多品種微量」生産に特化したメーカーである。たった1本のばねで困っている顧客がいれば、他社がやりたがらない仕事でも喜んで引き受ける。そうした挑戦を続けてきた結果、現在はロケットや人工衛星から潜水調査船、高層ビルから工作機械まで、5分野26業種の約4700社と取引実績を有している。

当社の付加価値の源泉は「人」である。これを創業時より変わることなく重視してきた。人件費は、費用ではなく投資という考え方のもと、労働環境の改善に留まらず、個人の成長にフォーカスした人事評価や社内技能認定、資格取得の報奨制度など徹底した人材育成環境を整えている。その結果、「金属ばね製造技能士」の国家資格を持つ職人が多く、さらに社内で独自の技能検定制度を制定しており、手作りでなければできない完全受注の高品質ばねを日々生産し続けている。その一方で、職人の匠の技を伝承していくために、高度な手作業の技術を機械へと落とし込み、高品質を保ったまま匠の技を再現するスーパーコイリングマシン「YUKI」を開発した。

自律性がある社員が多いことこそが当社の強み。2022年には、「人を大切にする経営学会」主催の「日本でいちばん大切にしたい会社」で中小企業庁長官賞を受賞した。また、IT投資・データベース管理、ISO9001・ISO14001やISO9100の取得などマネジメント高度化に取り組み、2008年には、イノベーションによって高い収益性を達成・維持している企業を表彰するポーター賞を受賞した。

2. 昨今の外部環境の変化でどのような影響を受けましたか

まず新型コロナの影響。リーマンショック以後、売上・利益とも右肩上がりで推移していたが、コロナ禍の影響で売上は減少し、2020年は対前年比で7.2%減となった。また原材料高では、ばねの熱処理に必要な動力燃料費(電気・ガス)が高騰し、2021年1月に比べて翌年12月には約1.9倍となった。

一方、円安は好影響をもたらした。ちょうど海外展開を進めている時期で、ウェブを通じて海外からの問い合わせが高まってきたところだった。円安は当社にとって成約率を高めるフォロー要因となった。

3. どのような対策を講じましたか

本社は大阪市西区に所在
本社は大阪市西区に所在

コロナ禍については、世の中の不安が広がるなかでも「単品のばねでお困りの方々のお役に立つ」との理念に立ち返った。物流機能の停止やロックダウンで顧客はそれまで以上に困っているはず。そうした顧客のためにも当社は生産を続けねばならないし、それによって社員の生活も支えることができる。こうした思いを全社員に向けて発信するとともに、社内のひとづくり委員会で対策を検討した。

具体的には、感染防止のため本社(大阪市西区)ではテレワークを実施した。兵庫県西宮市内にサブオフィスも借り、ピーク時には本社勤務者の9割がテレワークを行い、出社する人数を極力抑えた。一方、豊岡神美台工場(兵庫県豊岡市)ではテレワークができないので、感染拡大を防ぐため、敷地内を3つに区分し、互いに往来しないよう取り決めた。また、社員に感染者が出て作業できる人数が減った場合に備え、納期を通常より4日前倒しにして設定した。その分、社員には負担をかけることになったが、社員の理解と協力があり、納期遵守率100%を達成することができた。

「世界最強の手作り工場」がコンセプトの豊岡神美台工場
「世界最強の手作り工場」がコンセプトの豊岡神美台工場

新規顧客も増えた。従来の発注先がコロナ禍などで操業を停止・縮小し、発注できずに困っている企業や事業者を助けようと、ウェブで呼び掛けたところ、新規の顧客獲得につながった。こうした取り組みによって、売上の落ち込みを抑えることができ、2021年にはコロナ前の水準に回復し、生産性や利益率も向上した。

原材料高については、隔週で金曜日に工場の稼働をストップさせることで動力燃料費を削減した。コロナ禍の対応で生産性が向上したことを受け、2020年5月から工場の一部稼働停止を行っていた。また、コロナ禍ではあったが2020年に太陽光発電と蓄電池システムを工場に導入しており、工場で使用する電力の1割程度を太陽光発電でまかなっていた。おかげでエネルギー価格高騰によるダメージを抑えることができた。

4. 今後はどのように展開していきますか

オンライン工場見学は好評
オンライン工場見学は好評

「世界から相談される会社になる」との中期ビジョンを掲げており、とくにコロナ禍の対応で進展したデジタル技術を活用して海外展開をさらに推進していきたい。たとえば、テレワーク中に社内で頻繁に使用していたオンライン会議システムを活用し、国内の顧客向けにオンライン工場見学を実施したところ大変評判が良かったので、これからは海外向けにも積極的に活用していきたい。このほか、これまで海外向けのサイト開設やオンライン見本市への参加を行ってきたが、アフターコロナとなり、これからはリアルでも海外を訪問し、先のデジタル技術活用との相乗効果を発揮していきたい。

今年に入ってからは、海外からも頻繫に相談いただけるようにと「グローバルサポートグループ」を新たに立ち上げた。DXだけでなく研究開発への投資も進めており、研究開発棟(R&Dセンター)を工場敷地内に建設中で、来年6月をめどに稼働を開始する予定だ。こうした取り組みで新たなビジネスチャンスを生み出していき、国内だけでなく海外からも引き合いを受けるニッチトップ企業(ニッチ分野で高い競争力を持ち高いシェアを誇る企業)を目指したい。

海外で活動するグローバルサポートグループ
海外で活動するグローバルサポートグループ

昨今の難局では、迷ったときには理念に立ち返り、見つめ直したことがよかった。それと同時に、なによりも大事なのは社員であることをあらためて感じた。テレワークや工場の稼働などで知恵を出し合い、自律的に黙々と自分のやるべき仕事を行ってくれた。社員が一体となって立ち向かえば越えられない壁はないと思える。

企業データ

企業名
東海バネ工業株式会社
Webサイト
設立
1944年3月
資本金
9645万5000円
従業員数
90人
代表者
夏目直一 氏
所在地
大阪府大阪市西区西本町2-3-10 西本町インテス12階
Tel
06-6541-3591
事業内容
金属ばねの製造