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障がい者雇用を実践、働きやすい職場づくりと“幸せ”の気づき「有限会社エス・ケイ・フーズ」

2024年 1月 22日

エス・ケイ・フーズの中村こずえ相談役(中央)と長男の伸一郎氏(左)、次男の健太郎氏
エス・ケイ・フーズの中村こずえ相談役(中央)と長男の伸一郎氏(左)、次男の健太郎氏

長崎市内を中心にマクドナルドのフランチャイズ(FC)12店舗を運営する有限会社エス・ケイ・フーズは、障がい者雇用を実践する企業としても知られる。障がい者とともに働くことで得られるメリット、さらに働くことの幸せに改めて気づかされた中村こずえ相談役は、その思いを広く伝えようと講演活動などを展開。長崎県中小企業家同友会ではダイバーシティ推進にも取り組み、初の女性代表理事として精力的な活動を続けている。

夫婦二人三脚でマクドナルドFC店を運営

FC1号店の長崎家野町店
FC1号店の長崎家野町店

同社は1995年、日本マクドナルド社員だった夫の中村通伸氏と夫婦2人で設立した。マクドナルドは当時、直営店をFC店へ移行する方針を打ち出し、オーナーとして独立する社員を募っていた。これに応じた通伸氏は、かつて県内1号店の店長を務めたことがある長崎で創業することとし、まず長崎大学に近い長崎家野町店をFC店として譲り受けた。その後、直営店からの移行に加え新規開店もあって、長崎市内、隣接する時津町内で店舗網を拡大。2022年9月には西九州新幹線の開業に合わせ、12店舗目となるJR長崎駅店がオープンした。

「FC経営は夫婦で行うこと」というマクドナルド側の決まりで、こずえ氏は社長である通伸氏とともに二人三脚で経営にあたった。専業主婦だったこずえ氏には経営の経験がなかったが、持ち前の明るさとコミュニケーション力で社員やアルバイトなどスタッフとの間で厚い信頼関係を築いていった。2019年に2代目社長に就任した長男の伸一郎氏は「(こずえ氏は)まず相手を認めることから入り、信頼関係を築く。つらい時でも弱音を吐かず、常に明るく前向きにチャレンジしている」と述べ、先輩経営者であるこずえ氏に敬意を表した。

6年後の働きぶりに衝撃、覆された固定観念

JR長崎駅店は西九州新幹線開業に合わせてオープン
JR長崎駅店は西九州新幹線開業に合わせてオープン

同社は障がい者雇用を実践している。そのきっかけは2001年のこと。当時は直営店だった長崎市内の店舗を見学した際、こずえ氏は同店で働き始めた知的障がいを持つ20代の男性スタッフの様子を目にした。男性は掃除やゴミ出し、洗い物といった簡単な仕事だけを担当しており、その時は「障がいがあるから、できるのはこの程度だろう」と思ったという。

男性はその後、別の直営店に移って働き続けていたが、2007年に同店がFC店へ移行。6年ぶりに男性と再会したこずえ氏はその姿に衝撃を受けた。男性は努力を重ね、肉を焼いたりポテトを揚げたりと、他のスタッフと同じ業務をこなしていたのだ。その働きぶりを目の当たりにし、それまで障がい者に対して抱いていた固定観念が覆されたという。「覚えるのに時間はかかるが、一度覚えれば確実に仕事をこなしてくれる」とこずえ氏。と同時に、男性を根気よく指導してきた同店スタッフの努力にも敬服したという。

それを機に同社は障がい者の雇用を進め、現在13人がスタッフとして働いている。そして、一緒に仕事をすることで思わぬメリットがあったという。「指導するスタッフが相手に合わせ、じっくりと教えるようになり、店内全体がやさしさと余裕を持ったムードになっていった」(こずえ氏)。障がい者雇用がスタッフ全員にとって働きやすい職場づくりに一役買っていたのだ。

こんなこともあった。10年ほど前の冬、長崎市では珍しく雪が降った。坂が多い市内ではバスの運休など交通網の混乱が予想されたことから、坂の上にある長崎ミスターマックスS.C店では、当時店長だった伸一郎氏が前日から泊まり込んでいた。ところが出勤予定のスタッフからは「バスが走っていないので休みます」との連絡が相次いだ。「これでは店は開けられない」と諦めかけたところ、障がいを持つ20代の男性スタッフが出勤してきた。聞くと、雪が降りしきるなか坂道を歩いて上ってきたという。これで営業することができた。あいにく雪のため来客も少なく開店休業の状態だったが、外の寒さとは裏腹に、伸一郎氏は男性と2人で心温まる一日を過ごしたという。

「彼らは真面目で、遅刻はしないし仕事を休むこともほとんどない。会社にとっては長く働いてくれる貴重な人材だ」とこずえ氏は強調する。さらにこんな気づきも。「彼らは働くことで人の役に立ち必要とされていることを実感し、そこに幸せを感じている。実は、それは障がいの有無に関係なく、すべてに人に当てはまることだ」

長崎同友会に入会 行動力と求心力で初の女性代表理事に

代表理事としてダイバーシティ推進にも取り組む
代表理事としてダイバーシティ推進にも取り組む

こうした取り組みを受け、こずえ氏に対しては行政などから講演の依頼が数多く寄せられるようになった。こずえ氏も積極的に出向き、障がい者雇用の重要性やメリットを力説した。しかし、聴衆には社会福祉関係者や学校関係者が多く、肝心の企業経営者の参加は極めて少なった。「これでは雇用に結びつかない。どうしたら経営者に伝えられるだろうか」と思い悩んだという。

そんな折、2011年に沖縄県中小企業家同友会から講演の依頼を受けた。「中小企業家同友会という組織があることはそのとき初めて知った」とこずえ氏。同年9月に沖縄で講演を行うと、同友会の女性役員から「長崎県にも同友会があって会員は経営者ばかり。そこに入会して会員にアピールしてみれば」とアドバイスされたという。こずえ氏はすぐさま行動に移し、同年12月に長崎同友会に入会した。ただ、そこからはじっくりと時間をかけた。県内にある8支部で順次、障がい者雇用について報告するとともに、例会など同友会の行事には欠かさず出席した。「まずは会員の間で信頼を得ることが大事。そうでなければ自分の意見に耳を傾けてはくれない」。そして入会から3年たった2014年、障がい者問題担当委員会の設置が承認され、こずえ氏が委員長に就任した。その後、同委員会は、障がいの有無だけでなく性別や年齢、国籍など多様性に関する問題に取り組むとして、2017年にダイバーシティ委員会へと衣替えした。

こうした行動力と求心力が高く評価され、こずえ氏は2021年、長崎同友会初の女性代表理事に就任した。代表理事として重点的に取り組んでいる課題は二つ。まず県内の大学との連携。若者の県外流出に歯止めをかけようと、学生たちに県内中小企業の魅力をアピールしている。次に女性会員の獲得。同友会自身のダイバーシティを進め、女性比率を全国の同友会の中でトップに押し上げたいという。「私が同友会の出島支部に入ったとき、会合に参加する女性は私だけ。飲み会では私ひとりで男性会員にお酌して回っていたが、そのことを誰も疑問に感じなかった」という。そんな“男社会”では女性の声は届きにくい。「女性会員が増えることで、女性の意見に耳を傾けるようになり、ひいては会員各自が経営する会社内で女性が働きやすい職場づくりにつながるのでは」とこずえ氏は語る。

スタッフが笑顔で働けばお客さまや地域の方々にも伝わっていく

SKFでデザインしたロゴ
     SKFでデザインしたロゴ

同友会で精力的な活動を続ける一方で、伸一郎氏がエス・ケイ・フーズ社長に就任したのを機に、通伸氏は会長に、こずえ氏は取締役から相談役になり、同社の経営から一歩引いた形となった。また次男の健太郎氏はOC(オペレーション・コンサルタント)として兄をサポートする。実は、社名にあるSとKは伸一郎氏と健太郎氏のイニシャルだ。「本当は私たち夫婦のイニシャルにしたかったが、MKを使った社名がすでにあり、それなら子どもたちのイニシャルにしようか、ぐらいに考えただけ」(こずえ氏)というが、創業から四半世紀ほどの時を経て経営体制と社名とが図らずも一致した。

現在12店舗を運営し、アルバイトを含め約600人のスタッフを擁する企業のトップに立つ伸一郎氏は「人を大事にするという姿勢は引き継いでいく」とし、その方針をさらに発展させている。そのひとつが働く環境づくり。人材確保がますます厳しくなるなか、社員が長く働けるよう、各自のライフステージや家庭事情などに応じ、時短勤務や異動のない条件付き勤務などを導入した。「こうした働き方を提案することで無理せず働くことができる。スタッフが笑顔で働ける環境をつくれば、その笑顔はお客さまや地域の方々にも伝わっていく」と伸一郎氏は話す。人を大事にし、みんなを笑顔にしたいという経営理念は次の世代へも承継されている。

企業データ

企業名
有限会社エス・ケイ・フーズ
Webサイト
設立
1995年8月
資本金
1000万円
従業員数
社員20人
代表者
中村伸一郎 氏
所在地
長崎県長崎市家野町5-5
事業内容
ハンバーガーの製造及び販売