支援機関によるカーボンニュートラル支援事例

環境課題解決の活動を後押しする融資商品を提供 中小事業者の脱炭素化の取り組みを中長期的に支援:株式会社きらぼし銀行(東京都港区)

2024年 9月 9日


第三者評価業務を含めたCO2削減の取り組みを支援【株式会社きらぼし銀行】

株式会社きらぼし銀行

株式会社きらぼし銀行

機関分類:金融機関

所在地:東京都港区南青山3-10-43

電話:03-3352-2271(代表)

Webサイトhttps://www.kiraboshibank.co.jp/

株式会社きらぼし銀行

カーボンニュートラル社会の実現に繋がる野心的なCO2等の削減目標(SPTs:サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)を設定し、その達成状況に応じて金利条件が連動する中小事業者向け融資「きらぼしサステナビリティ・リンク・ローン」を、2022年12月から提供開始。連携するきらぼしコンサルティングが第三者評価業務を担当し、事業者のサステナビリティ戦略の強化や、削減目標に向けた取り組みを実施。また、サステナビリティの取り組みによる企業のブランド価値向上等も支援する。

支援事例

企業データ

企業名
太誠産業株式会社
Webサイト
設立
1974年(昭和49年)10月
従業員数
257名
所在地
東京都豊島区南池袋3-14-11 中町ビル4階
業種
廃棄物処理業

店舗から排出されたペットボトル、プラスチック、食品残渣、ビン・缶、古紙・段ボール等の廃品物運搬・中間処理を行う。リサイクルによる持続可能な社会の実現を目指し、資源の循環や環境分野でのイノベーション創出に取り組んでいる。

太誠産業株式会社

[経緯]
カーボンニュートラルの重要性を知り、自社での取り組みを意識

「CO2排出量削減の重要性に気付いてはいたものの、具体的にどこから進めればいいのかは分かりませんでした」(瀬戸氏)
「CO2排出量削減の重要性に気付いてはいたものの、具体的にどこから進めればいいのかは分かりませんでした」(瀬戸氏)

1968年、段ボール古紙回収業者として設立。1974年に組織を変更し、現在の太誠産業株式会社となった。創業当時は、主に百貨店から排出される段ボール古紙の回収を生業としていたが、その後、循環型社会形成推進基本法によるリサイクル法が施行され、時代の変化とともに廃品物収集運搬型のビジネスから廃品物中間処理業にシフトした。1996年には、ペットボトルのリサイクル工場と、都内で初となる食品リサイクル工場を設置。こうした環境に配慮する経営姿勢が認められ、2001年にリサイクル推進協議会(現在のリデュース・リユース・リサイクル推進協議会)から表彰。2003年にはISO14001認証を取得した。現在は、コンビニエンスストアチェーンや小売店、ビルなどから回収したペットボトルやプラスチック、食品残渣、ビンや缶等の廃棄物を、都内近郊にある9つの工場でリサイクル処理をしている。

以前から環境対策に力を入れているが、昨今、特にカーボンニュートラルの重要性が叫ばれてきたこともあり、自社での取り組みを強く意識するようになったと太誠産業株式会社 専務取締役 瀬戸宏幸氏は言う。

「東京都環境公社が評価・認定する制度である産廃エキスパート(収集運搬業・中間処理業)を、2015年に取得しました。同制度を2年ごとに更新する際、認定業者が取り組む項目の中に、前回更新時よりCO2排出量をどの程度削減したのかという確認事項がございます。それに対し、ここ数年は運搬車両の更新等によって対応していましたが、今後それでは追いつかなくなると思い、脱炭素化に向けた本格的な取り組みについて考えるようになりました」(瀬戸氏)

同社の工場では、スチール缶を選別する磁選機、缶類を圧縮するプレス機、廃プラスチックやペットボトル等を砕く破砕機、それらの資源を運搬するベルトコンベアなどの機器が多数稼動している。動力はすべて電力であるため、C02排出量を削減するためには、電力使用量を抑えることが不可欠となっていた。瀬戸氏は、将来のカーボンニュートラル経営に向けた取り組みについて相談するため、以前から付き合いのあるきらぼし銀行に連絡した。

[現状把握]
新たな金融サービスを提供し、中小事業者の脱炭素化を後押し

CO2排出量削減目標の設定や、削減に向けた具体的な対策など、太誠産業と話し合いが重ねられた
CO2排出量削減目標の設定や、削減に向けた具体的な対策など、太誠産業と話し合いが重ねられた

金融機関は、事業者のカーボンニュートラル対策についてどのように考えているのか。東京きらぼしフィナンシャルグループ 事業戦略部 サステナビリティ推進室長 北村陽一氏に聞いた。

「今までは財務要件を最重要視していましたが、社会がグローバル化したことによって、脱炭素が財務の次に求められる要件になってきたと感じます。脱炭素に取り組んでいない企業が、グローバル企業から外される、あるいはグローバル企業をお客様に持つ上場企業から取引解除を要請されてしまうと、金融機関は伴走することができません。そうならないためにも、脱炭素化の支援が必要だと思っています」(北村氏)

きらぼし銀行は、2022年12月から「きらぼしサステナビリティ・リンク・ローン(以下、きらぼしSLL)」の提供を開始した。これは、環境負荷の軽減に関わる野心的目標SPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)の設定を条件に、SPTsの達成状況に応じてインセンティブを付与、すなわち金利を引き下げるというもの。外部の評価機関を介さず、グループ関連企業であるきらぼしコンサルティングが第三者評価機関として評価業務を行うことで、評価取得のためのコストを抑え、より多くの中小事業者がサステナビリティ分野での目標達成を目指すことを目的としている。

「太誠産業様が環境に対して意識が高い事業者だということを存じ上げていたので、2023年2月にきらぼしSLLを提案させていただきました。一般的に金融機関は評価だけを行いますが、本サービスではレポートの作成や、さらに踏み込んだ形での支援も提供するため、瀬戸専務に非常に興味を持っていただきました」(きらぼし銀行 営業課 柴山 基氏)

後日、太誠産業と協議し、サステナビリティに関する最優先課題は脱炭素化であるという結論に至り、CO2排出量の削減という目標を共有した。

[解決策]
「2030年までに42%削減」を目指し、具体的な取り組みを支援

「電気のほかにも、水道や資材の使用量といったものも含めて、各工場の省エネ委員が削減量を可視化できるように整備しています。対価として従業員に還元することができれば、達成に向けたモチベーションに繋がると思います」(徐氏)
「電気のほかにも、水道や資材の使用量といったものも含めて、各工場の省エネ委員が削減量を可視化できるように整備しています。対価として従業員に還元することができれば、達成に向けたモチベーションに繋がると思います」(徐氏)

きらぼしSLLの実行に向けて、きらぼし銀行の脱炭素化の支援が始まった。

まずは、太誠産業に過去3年分の光熱費の領収書を提出してもらい、3年分のCO2排出量の推移を算出。その可視化された数値をもとに、今後数年でどこまでCO2排出量を削減していくか、目標設定について協議した。

「自社の脱炭素化の取り組みを対外的にアピールすることや、野心的な目標設定という原則もふまえた目標設定にしなければ意味がないと考えています。今回はその両方を満たすことができる形で、弊行から提示させていただきました」(北村氏)

太誠産業に提案した削減目標は、2020年度と比較して電力使用におけるCO2排出量を「2030年までに42%削減」というものだった。

「きらぼし銀行に相談させていただいたところ、着手可能な工場から照明をLEDに変えて電力消費を抑えようということになりました。また、工場内の機械については、きらぼしSLLが実行されるのに合わせて、2030年、あるいは2025年の目標を見据えて、機種を選定して前倒しで取り替えていきたいと考えています」(瀬戸氏)

「目標数値が大きかったので、最初は抵抗感があったと思います。そこで、対話を繰り返しながら、どうすればこの目標を達成できるのかを考えました。工場の照明のLED化の話を提案した際、太誠産業様の工場は賃貸物件という事情がございましたが、家主に交渉をして賛同していただくことで、きらぼし銀行と太誠産業様だけでなく、第三者を巻き込んだ脱炭素化としての取り組みができたので、やはり対話を重ねて解決策を一緒に考えていくことが大事だと思いました」(北村氏)

CO2排出量を可視化し、2030年に向けた削減目標を設定。さらに削減に向けた具体的な取り組みをきらぼし銀行が支援する形で、2023年10月、太誠産業に対してきらぼしSLLの実行が決まった。

さらに、こうした脱炭素化の取り組みが、従業員の意識に変化をもたらした。

「各工場に省エネ委員を設け、月単位で電力使用量を管理し、節電効果を調べるようにしました。その結果、休憩中は不要な電気は消し、機械を止めるといった省エネの意識が高まっているのを感じます。今後は電力使用量を可視化するワットチェッカーを導入して、さらに検証していきたいと考えています」(太誠産業株式会社 取締役 徐 賢善氏)

CO2排出量の削減に向けて今何ができるか。従業員一人一人が省エネについて考えるようになったのは、大きな収穫といえる。

[伴走支援・今後の取り組み]
事業者の脱炭素化は、周辺地域の脱炭素活動の促進に繋がる

太誠産業とCO2排出量の削減目標の設定や、削減の取り組みについて約半年間の時間かけて話し合いを重ねた結果、きらぼしSLLの実行に至ったと話す北村氏
太誠産業とCO2排出量の削減目標の設定や、削減の取り組みについて約半年間の時間かけて話し合いを重ねた結果、きらぼしSLLの実行に至ったと話す北村氏

きらぼしSLLの実行が決まり、今後、太誠産業はどのような脱炭素の取り組みを検討しているのか、瀬戸氏に聞いた。

「階段を一段一段上るように節電と節約をしながら、CO2排出量の削減に努めていきますが、いつか踊り場に来てしまうことがあると思います。そういった時のために、今から再エネに関していろいろな情報を入手し、どういう形で取り組むのがいいのかを考えています。脱炭素化の取り組みは、早めに行動するに越したことはありません。取引先は大手企業が多く、現在どういった脱炭素化の取り組みをしているのか、具体的な目標や効果などを聞かれるケースがあります。そうしたことからも、早い段階で結果を出しておくことが大切だと思っています」(瀬戸氏)

太誠産業の脱炭素化に向けて、きらぼし銀行は今後どのような支援を考えているのか。

「きらぼしSLLで設定した目標達成に向けて、太誠産業様の脱炭素化を伴走して支援していきます。支援を通じて事業者に脱炭素化を進めていただくことが、地域や世の中の脱炭素活動の促進にも繋がると思いますので、金融機関としてしっかり支援していけたらと考えています。」(北村氏)

カーボンニュートラル社会実現のために、脱炭素化について正しく知る、CO2排出量を測って現状を把握する、そして、目標を設定して削減する方法を一緒に考える。きらぼし銀行は既存の金融機関の枠を超え、脱炭素化を目指す事業者に寄り添った支援体制を整備し、今後も中小事業者に脱炭素経営の大切さを啓発していく。

担当支援機関からのひと言

東京きらぼしフィナンシャルグループ
事業戦略部 サステナビリティ推進室長
北村陽一氏

太誠産業様は、もともと省エネ活動に取り組んでいる事業者でしたので、さらなる削減方法を考えることが最大の課題でした。すでに取り組みが進んでおられましたので、私たちから一歩踏み込んだ提案をしてしまうと、やらされ感が出てしまいます。そこで、できるだけ気づきを与えられるように、さまざまな可能性を模索しながらお話をさせていただきました。そうすることで、お客様には能動的に取り組んでいただけますし、目標設定も前向きにご検討いただけるようになりました。支援側としては、お客様が自発的な削減に取り組めるようサポートすることが大切だと感じております。

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