新生児の100人に1人の割合で先天性心疾患が発症する。その中には手術が必要で、さらには極めて難しい手術になる症例もある。患者の心臓そっくりのオーダーメイドで、実際に切ったり縫ったりできる柔らかい心臓モデルがあれば、術前に詳細なシミュレーションや診断ができ、手術を成功に導ける。社会的意義が大きな取り組みであることは間違いない。しかし、既存の事業で手いっぱいだった社員の反応は微妙で、「当初、社員の間には“仕事をやらされている”という意識があった」と竹田氏は話す。
転機はしばらくして訪れた。医師からの急ぎの依頼で、しかも難しい症例の心臓モデルを作ることになり、担当の技術者は困惑しながらも夜遅くまで製作に取り掛かった。そして、ミカンほどの小さな心臓モデルが完成すると、担当者はこう言った。「これを使ってシミュレーションをすれば、この子は助かる。そう思いながら作った。だから、この子は絶対に助かる」。その思いが通じたのか、手術は成功し、幼い命は救われた。それ以来、圧倒的な当事者意識を持って仕事に取り組み、現在では多くの賞を受賞するなど随一の技術者になっているという。
心臓シミュレータープロジェクトは各方面から高く評価され、数々の賞を獲得。2013年9月には第5回ものづくり日本大賞で最高賞となる内閣総理大臣賞に輝いた。総理官邸で行われた表彰式・祝賀会で心臓モデルを手にした安倍晋三首相(当時)は大いに気に入り、その後、安倍氏が2018年に中東諸国を訪問した際には竹田氏も同行メンバーに加わり、イスラエルなど訪問先で心臓シミュレーターを紹介した。