「サクラマスは、北は北海道、南は九州まで全国幅広く生息している。ところが、地域によって、そのライフスタイルが大きく変わってくる。北海道ではほとんどの個体が海に行くが、東北ではメスしか海に行かない。南に行けば行くほど、海に行かずに河川に残留するヤマメとして生きていく個体差のバリエーションが大きいところは、生産者にとっては厄介だが、研究者としては非常に面白いと感じた」。こう語るのは、Smolt代表取締役CEOの上野賢氏だ。
サクラマスは海を回遊し、産卵のため川を遡上(そじょう)するサーモン(サケ・マス)の仲間だ。だが、川でふ化した稚魚がみな海に行くわけではない。一部は一生を川で過ごすものもいる。川に残った魚は渓流の女王と呼ばれるヤマメと呼ばれる。実はサクラマスとヤマメは同じ種類の魚だ。川で過ごすか、海で過ごすかで全く異なった魚になる。
宮崎大学がある九州に生息する個体はサクラマスにならず、みなヤマメとして一生を終える。上野氏が所属する研究室では、内水面で養殖したヤマメの中からサクラマスになる素質を持った個体を選び出し、サクラマスに育て上げる循環型養殖システムを開発。さらに、6世代にもわたって選抜と交配を重ね、九州のような高水温の海でも養殖できる個体を作り出した。
通常、サクラマスをはじめとしたサーモンの仲間は、海水温18度以下の冷たい環境に生息する。ところが、高水温でも耐えられるよう品種改良されたサクラマスは、20度以上の海水温でも元気に泳ぎ回る。「今では22度の水温でも大丈夫。われわれも驚いているが、23度でも元気だった。通常のトラウトサーモンやギンザケだったらとても生きていけない温度だ」と上野氏は胸を張る。
現在は、宮崎県延岡市と五ヶ瀬町の漁協や水産業者から借りた養殖施設で採卵からふ化させ、ふ化した種苗を養殖。大分や長崎、香川などの養殖業者がSmoltの種苗を導入してサクラマスの養殖事業を展開している。一部の養殖業者は養殖したサクラマスをブランド化して販売している。2024年には実証育成を含め、種苗を導入する養殖業者は10社まで広がっている。