事業承継・引継ぎはいま

第4回:承継した元従業員が事業をさらに拡大「株式会社MASAYA」

新潟県内で学校指定の学生服専門店「学生専門SHOPマサヤ」を展開しているMASAYAは、同店の従業員であった山田拓也氏(43)が、前オーナーで4代目の樋口代志枝氏から事業を譲り受けるために2016年7月に設立した株式会社だ。親族に跡継ぎがいない病身の前オーナーに経営を託された山田氏は、着実に事業を拡大。樋口家代々の家業を新たな領域に導いている。

MASAYAは、同社の現イオン白根店付近で代志枝氏の夫の祖父・樋口作二郎氏が大正年間に創業した履物店を起源とする。社名は下駄の材料となる木材のまさめ柾目に由来している。時代の移り変わりとともに下駄の需要が減少するにつれ2代目の作一氏が呉服を扱い始めた。

衣料品メーカーに従事していた正美氏が3代目を継ぎ、次第に洋品店に移行。1960年代で学生服専門店に衣替えした樋口家直系の個人経営店だったが05年、正美氏は59歳で不幸にも病死する。

4代目が亡夫の遺志を継いだ夫人の代志枝氏。夫妻に子供は男女1人ずついるものの、長男には障がいがあることから経営は重荷、長女は跡継ぎを望まなかったため、5代目の親族内承継は不可能だった。

元従業員の山田氏と先代の樋口氏
5代目を承継した元従業員の山田氏(右)と先代の樋口氏

運命的な入店

代表の山田拓也氏
代表者:山田拓也氏

一方の山田氏は、94年から三条市内の紳士服専門店で学生服部門に約8年勤務し、同店の業績を市域のトップに押し上げた実績を持つ。同氏は自身のさらなる成長を期して転職を決意する。この時に取引先が後継者不在のマサヤを紹介したことが、MASAYA設立に至る運命の扉を開けた。

従業員の転職あっ旋につながる稀なケースを実現した取引先に導かれる形で山田氏が正美氏と巡り合ったのは、現在は休業している白根の創業店舗があるだけだった03年。当時唯一の従業員として入店した。

山田氏は「前職で三条店を市域のトップにしたことから学生服販売には自信があった。顧客を1軒ずつ回る地道な営業方法などで多くの共通項も見出した。上司と部下というより、競い合える関係になれると思った」と転職理由を語る。

代志枝氏も「もとから病弱な夫が、代々の店を閉めたくなくて後継者を探していた時に紹介された人材だった。夫が山田さんの商才や人間性を高く評価したことが採用の決め手」と話す。山田氏が、5代目を継ぐのは織り込み済みも同然の入店だった。

山田氏の入店とほぼ時を同じくして、同氏の前職である紳士服専門店が三条店を閉店することになり、同店の顧客を引き継ぐ形でマサヤが三条店を開店するという幸運が重なった。

正美氏の逝去は、学生服販売で意気投合した2人が三条店という2号店を構えて事業を拡大しようとしていた矢先の悲劇だった。「一緒に仕事をしたのは1年半ぐらい。もっと多くのことを学びたかった。正美さんの遺志を継ぐためにも2店舗展開に挑んだ」と振り返る。

当時、代志枝氏も心臓に持病があり、山田氏の入店と入れ替わるように病状が悪化していったことから、次代に引き渡すタイミングを見計らうようになっていた。「山田さんが『自分は店を継がないと言ったらどうするか?』と聞いてきたことがある。『本当にそうなったら、人を見る目がなかったと諦めて廃業する』と即答したが、必ず継いでくれると確信していた」と同氏への承継に迷いがなかったことを明かす。

法人化で従業員を社会保険に

学生専門SHOPマサヤ イオン白根店
学生専門SHOPマサヤ イオン白根店

次代を担うことが決まった山田氏は、にいがた産業創造機構の専門家派遣制度を活用して事業承継計画書を作成。代志枝氏から事業を譲り受けるために立ち上げた新会社の経営計画書も作成した。8人に増えていた従業員のうち、退職を希望した1人を除く全員の雇用を維持し、社会保険加入も実現した。

山田氏は、樋口夫妻の「顧客に夢と満足を与えるマサヤイズムを引き継いでいく」と決意している。「夫人には人間としての器量を学んだ。事業から身を引いた今でも事実上の相談役だ」と頼りにしている。今では本社となっている三条店(三条市東三条)の経営も軌道に乗せ、イオン白根店(新潟市南区)とあわせて、両市域の学生服市場の約8割を占める好業績を上げている。

店舗以外の事業も進行中。学生服と違って細かい採寸の必要がないことから体操着の売り上げを直販サイトで伸ばす一方、休店している創業店舗を改装して学生服のリサイクルやレンタルビジネスを準備している。

「リサイクル服なら学校の指定店でなくても販売できるから、近隣市域へも商圏を拡大しやすい」と戦略を明かす。今年7月に採択された小規模事業者持続化補助金などを資金に充てるという。将来は大手ネット通販にも出店する構想だ。

山田氏は、学生服販売の延長線上で展開できそうな新規事業にも意欲を見せている。「少子化は進むが、当社が学生服を販売してきた中高生が減るわけではない」として、社会人になった彼らを対象とするエステビジネスの立ち上げも念頭に置いている。

承継は気力、体力、知力あるうちに

先代の樋口代志枝氏
先代:樋口代志枝氏

代志枝氏は事業承継のあり方について、自身のケースは「病身起因なので特殊」としたうえで、代表者に気力、体力、知力がまだある60歳代前半での事業承継準備を勧めている。

「いつまでも健康でいられるとは限らない。自分の引き際の10年前から、後継者に譲る準備に着手すべき。商才に恵まれない子供に継がせるより、自ら選んで育てた人材に任せられる従業員承継は有効だと思う」と持論を語った。

企業データ

企業名
株式会社MASAYA
Webサイト
設立
2016年7月29日
資本金
300万円
年商
1億3000万円
従業員数
7人
代表者
山田拓也氏
所在地
新潟県三条市東三条1-6-28
Tel / FAX
0256-35-8214
Mail
info@masaya-1218.com

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