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空き家問題や更生保護など社会課題の解決に特化したビジネスモデル「LCC株式会社」

2023年 11月 6日

様々な社会課題の解決に取り組むLCC代表取締役の坂本裕太氏
様々な社会課題の解決に取り組むLCC代表取締役の坂本裕太氏

“縁結びのまち”として知られる島根県出雲市へ結婚を機に移住した男性が地域の社会課題の解決に取り組んでいる。「地元密着」を意味するLCC株式会社を設立し、人手不足や空き家問題、刑務所出所者らの自立支援といった課題の解決に特化したビジネスモデルを構築している。創業者の坂本裕太代表取締役は「人と人、ビジネスとビジネスとをつなげていき、みんながハッピーになる。そんな活動を進めていきたい」と話す。出雲にふさわしい縁結びで地域の幸せを広げていく考えだ。

結婚を機に“縁結びのまち”へ移住、そして起業

経験豊富なプロフェッショナルが解体工事を行う
経験豊富なプロフェッショナルが解体工事を行う

坂本氏は千葉県茂原市の出身。不動産会社勤務時代に出雲市へ出張した際に、妻となる百合子さん(現在は同社取締役)と出会い、その後、2012年に結婚して出雲市へ移住した。縁結びの神様・出雲大社のご利益が坂本氏のその後の人生を大きく変えた格好だ。住宅メーカーに勤務しながら副業として建築業を手掛ける一方で、夜は飲食店で働き、客として訪れる経営者らとの人脈作りに努めた。

副業が順調に伸びたことから住宅メーカーを退社し、2014年4月に起業した。社名は「Local」「Coherence」「Company」の頭文字から付けた。このうち「Coherence」は密着という意味で、地元に密着した事業を展開したいとの思いを表している。当初は、人手不足に悩む地元の建築業者に対して若手社員の派遣や請負などの形で事業を展開。「自分は新参者。古くからある業者と競合することはいけない。あくまでも自分たちはお手伝いという一歩下がった立ち位置で仕事を行った」と坂本氏。依頼元の業者の中には坂本氏が飲食店で知り合った人も多かったようで、人脈作りが奏功したという。

遺品整理依頼主からの感謝の言葉に「立ち上げてよかった」

遺品整理や不用品の片付けも手掛ける
遺品整理や不用品の片付けも手掛ける

建築業の人手不足の次に着目した地域の社会課題は遺品整理だった。悪質な遺品整理業者から法外な料金を請求されるというニュースをたまたまテレビで見た坂本氏は「善良な業者がいれば、こんな被害は出ないはず」と考え、2015年に遺品整理業に着手。自身が遺品整理士という資格を取得するとともに、葬儀会社などと協力して認知度の向上を図った。

遺品整理を始めて間もない頃のことだった。両親を亡くしてから5年ほどの間、遺品が整理できずにいた60代の女性から依頼を受けた。松江市内に住む女性は、空き家となった出雲市内の実家に足を運び、整理に取り掛かるのだが、思い出の品々が出てきては当時のことを懐かしみながらしみじみと眺めてしまい、作業は遅々として進まなかったという。依頼を受けたLCCは4日間で整理作業を終えたが、その際、女性から「ありがとうございます。これで少し前に進めそうです」と感謝の言葉を受けた。「そのときは、『ああ、この仕事を立ち上げてよかった』と心の底から思った」と坂本氏。現在はJAしまねの葬祭センターと連携して県内全域で事業を展開している。また、遺品整理に付随して空き家の処分について相談を受けることが多く、同社はその後、空き家の解体や不動産の売却にも事業を広げていった。

不用品の片付けも手掛けている。亡くなってから行う遺品整理ではなく、生前に家の中を片付けようというものだ。「高齢になると家の中を片付けるのが億劫になる。やがてゴミ屋敷のような状況になり、その中で亡くなるというケースもある。それは本人にとっても家族にとってもかわいそうなこと」と坂本氏。遺品整理を含めた生活支援事業について知ってもらおうと、今年7月からは高齢者が訪れることが多い郵便局や温泉施設などで「暮らしのお困り事相談会」を開催している。

再犯防止推進法施行で出所者雇用に対する風向き変わる

7年ほど前には更生保護を始めた。刑務所を出所した人を雇用するというものだ。「仕事に就けないでいる出所者の集団があり、再び犯罪に手を染める人もいて治安が悪かった」(坂本氏)。彼らも仕事に就いて収入を得られれば再犯を防げると考えたのがきっかけだった。同社は現在、更生保護の協力雇用主として登録しているほか、坂本氏は保護司としての活動を行っている。さらに、雇用した出所者の家賃や生活費の一部を坂本氏が個人的に援助することもあるという。

この更生保護の取り組みは少なからず波紋を広げた。「あそこは“ムショ帰り”を雇っている」と噂されたことも。また、雇用した出所者が行方をくらまし、その後、逮捕されていたということもあった。そんななか2016年12月に出所者らの円滑な社会復帰を目的とした再犯防止推進法が施行され、翌年12月には国が再犯防止推進計画を決定。これを機に、国と自治体、民間企業などが協力して出所者らの就職や住居の確保などを支援していこうという流れが加速した。「それまでとは風向きが変わった」と坂本氏が言うように、更生保護の取り組みに対する見方は大きく変化した。坂本氏は現在、法務省の依頼を受け、島根県や広島県など中国地方で協力雇用を検討している経営者向けに講義を行っている。雇用主に交付される助成金といったメリットだけでなく、実体験に基づく悩み事やトラブルについても正直に話しているという。

つい最近のこと、出所後に雇用されて現在も働き続けている社員から「自分がこんなに長く仕事を続けているのは初めてだよ」と言われたという。雇用した出所者は年代も性格も様々。そうした人たちが長く働き続けられるよう坂本氏は各自に適した業務を行う別事業を立ち上げ、“居場所づくり”を進めている。会社数は現在、LCCを含めてグループ全体で4社あり社員数は45人。うち5人が出所者である。現在は出雲市と連携し、生活保護受給者になりうる人たちの就労支援、自立支援も行っている。

人と人、ビジネスとビジネスとをつなげて地域の幸せを広げる

グループ4社合計で45人が働く
グループ4社合計で45人が働く

同社が今後取り組んでいく社会課題として坂本氏は(1)自立支援(2)人手不足(3)環境問題(4)空き家問題(5)高齢者支援—の5項目を挙げた。このうち環境問題は、既存事業の空き家や車庫、倉庫などの解体工事に関連し、廃材などの分別処理をきめ細かく行うことで新たに取り組みたいとしている。また、すでに手掛けている課題については一段とレベルを上げていく。たとえば自立支援では、出所者らだけではなく、ひきこもりや貧困といった様々な問題を抱える人たちも支援したいという。「企業の人手不足と自立支援をマッチングさせることで両方の課題解決に少しでも役立てれば」と話す。

坂本氏はまた、地元の出雲商工会議所や松江青年会議所、島根県中小企業家同友会の出雲支部に加わり、同業者や異業種の経営者らとの交流を深めている。「出雲に移住してからの10年余の間に多くの人脈を築くことができた。これからは人と人、ビジネスとビジネスとをつなげていき、みんながハッピーになる。そんな活動も進めていきたい」。出雲にふさわしい縁結びで地域の幸せを広げていくこととなりそうだ。

オフィスに掛けられた1枚の古い賞状、「自分はまだまだ」との思い

社名「LCC」は「地元密着」を意味する
社名「LCC」は「地元密着」を意味する

国道9号線沿いに建つ同社のオフィスでは、法務大臣からの感謝状をはじめ、多くの賞状が壁に掛けられている。社会課題の解決に取り組む同社に対する高い評価を如実に表すものだ。その中でひときわ目を引くのが「名誉総裁賞」と記された1枚の古い賞状である。坂本氏の母方の祖父が1969年(昭和44年)に授与されたもので、贈呈者として当時の佐藤栄作首相らが名を連ねている。「祖父がどういったことで表彰されたのか詳しくは知らないが、この賞状を見ることで、自分はまだまだだ、との思いを持つようにしている」と坂本氏。「これからも現状に満足することなく、活動の幅を広げ、レベルも高めていきたい」と意欲を燃やしている。

企業データ

企業名
LCC株式会社
Webサイト
設立
2014年4月
資本金
500万円
従業員数
45人(グループ合計)
代表者
坂本裕太 氏
所在地
島根県出雲市知井宮町137-2
Tel
0853-27-9320
事業内容
解体業、建設業、生活支援事業、不動産管理、更生保護