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SDGsのなかに多様なビジネスチャンスが潜む【NPO法人環境文明21 顧問/環境文明研究所 所長・加藤三郎氏】<連載第2回>(全4回)

2019年 8月29日

2016年1月1日のSDGs発効から3年半あまり。その内容は各国政府の政策、さらに企業の対応にさまざまな影響を与えています。連載第2回は、加藤氏がその状況をどのように評価しているのか、またより深刻度が高い課題についても伺います。先に強調しておくと、「社会の課題=ニーズ」と「ビジネスの機会」は表裏一体であるため、SDGsには多くのビジネスチャンスが隠されていると言えます。その典型例の一つが気候変動と省エネ技術の関係。日本の省エネ技術は、気候変動というグローバルな課題の解決に貢献すると同時に、ビジネスでの強みとして高い評価を得ています。このように、SDGsへの対応は、新たなビジネスチャンスとの出会いにつながっていくのです。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

SDGsが掲げる持続可能な人類社会を実現するための17分野の目標

SDGs達成を促す各国の政策が企業を動かす

今、人類社会は、「SDGs」と「パリ協定」という二つの国際的合意のもとに、持続可能な社会づくりに向けた努力を重ねています。各国政府も政策などを通じてその動きを促進しており、例えば2017年には英仏両国が40年からのガソリン車、ディーゼル車の販売禁止を宣言。世界の自動車業界は、EV化に向けた取り組みを加速させています。

日本の場合は現在、政府が「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を立ち上げ、「SDGs実施指針」により「省エネ・再エネ、気候変動対策、循環型社会」「健康・長寿の達成」など八つの優先分野を設定。より具体化・拡大された政策を盛り込んだ「SDGsアクションプラン2019」のもと、補助金を含めた企業への支援も用意しています。こうした世界の動きを、加藤氏はどう見ているのでしょうか。

「各国、企業とも懸命に取り組んでいると思いますし、世界を見渡してもSDGsの17ゴールのうち、まったく手つかずのものは一つとしてありません。ただ、現状の対策で十分かというと、残念ながらそうは言い難いのが実状です」

特に努力が必要な項目として加藤氏があげたのが、ゴール13「気候変動」と、それに大きく影響するゴール7「エネルギー」です。

持続可能な開発目標(SDGs)推進本部「SDGsアクションプラン2019」より

「低炭素」から「脱炭素」へ。多彩なニーズが高まる

SDGsと同じく2015年に採択された「パリ協定」では、温室効果ガスの排出量を、今世紀後半までに植物などによる吸収量と同量まで下げ、実質ゼロにするという目標を掲げました。しかし、世界も日本もまだ十分な成果を挙げられていません。

「よく1990年当時の排出量が比較対象に用いられますが、日本では今日、当時よりも排出量がわずかながら増えています。省エネ法改正の積み重ねや、それに応えた省エネ技術の進歩、再生可能エネルギーの固定価格買取制度などもあって、約30年間における経済の伸びの割に排出量増加の幅が小さいことが救いですが、『パリ協定』の目標を実現するには、『低炭素社会』を超える『脱炭素社会』の構築が欠かせません」

では、どうしたら化石燃料に頼らない社会が構築できるのでしょうか。そこで大きな役割を果たすのが再生可能エネルギーです。

「日本では従来、太陽光、風力、バイオマスが中心でしたが、今後は波力・潮力を利用する海洋エネルギーや、地熱を活用する新たな技術開発も望まれます。また、電力を供給するには、新しい送配電網の充実も必要。さまざまな企業の技術で、ぜひサステナブルなエネルギー体系を実現してほしいですね」

加えて、加藤氏は脱炭素社会への有望な要素としてZEH(ゼッチ/net Zero Energy House)やEVを挙げました。

「ZEHでは、太陽光発電パネルや蓄電池、断熱技術といった対策を、無数にある既存住宅へ導入する必要があります。EVはバッテリーをはじめとする関連技術や充電スタンドなどのインフラ整備に大きな余地を残している。ものづくり企業には大きな市場が広がっているうえ、社会からの期待も膨らみます。また、温暖化対策では、冷媒として用いられるフロンの温室効果も問題。温室効果をもたない自然冷媒の技術にも期待が注がれています」

G20サミットでも海洋プラスチック問題を重視

気候変動やエネルギーに比べると、これまで注目度が低かったと加藤氏が指摘するゴール14「海の豊かさ」や、ゴール15「陸の豊かさ」と強いつながりを持つ生物多様性の保護も重要な問題。日本政府も海の生き物にかかわる海洋プラスチック問題に本腰を入れ始めており、今年6月に大阪で行われたG20サミットで、海への流出量を2050年までにゼロにするビジョンが合意されました。とはいえ流出を止める前に、社会で膨大な量が使用されているプラスチックという存在そのものへの対策の必要性を加藤氏は指摘します。

「すでに生分解性プラスチックの研究開発が進んでおり、その活用の早期拡大を願っています。ただし、プラスチック製品には紙などに置き換えられるものもある。技術系のものづくり企業には、プラスチックという素材レベルでの革新と、製品レベルでの素材の変更という2つの面からのアプローチが期待されます」

加藤氏の話からは、SDGsのうち環境に直結するゴールを見据えただけでも、実に多様なソリューションの創出が企業に求められていることが分かります。まさに、ビジネスチャンスも多様をきわめるということにほかならないのです。

<連載第2回・完>

連載「SDGsを羅針盤・共通言語として、理想の新価値創造を」

加藤三郎(かとう・さぶろう)
NPO法人環境文明21 顧問/環境文明研究所 所長

1939年生まれ。66年、東京大学工学系大学院修士課程を修了し、厚生省(現・厚生労働省)入省。71年に環境庁に出向し、90年に環境庁地球環境部初代部長に就任。地球温暖化防止行動計画の策定、環境基本法の作成、「地球サミット」の準備などに携わる。93年に退官し「環境文明研究所」を設立して所長となり、「21世紀の環境と文明を考える会」(現・NPO法人環境文明21)の代表理事にも就任。現在、毎日新聞「日韓国際環境省」審査委員、プレジデント社「環境フォト・コンテスト」審査委員長、日刊工業産業研究所「グリーンフォーラム21」学会委員なども務める。

<主な著書・共著>
『環境の思想 「足るを知る」生き方のススメ』(プレジデント社 / 共著)2010年刊
『環境の世紀 政財界リーダー22人が語る』(毎日新聞社)2001年刊
『「循環社会」創造の条件』(日刊工業新聞社)1998年刊など多数

取材日:2019年6月25日