同社のDXは2017年12月、秋田県産業技術センターからの提案で始まった。当時のセンター長と同社の役員がかつての同級生だったことから、「IoT技術を使って酒造りをしてみないか」と話を持ち掛けられたという。この話を生産本部長兼製造部長の古木吉孝専務に伝えたところ、以前からAIによる酒造りなど作業の自動化・省力化に興味があった古木専務は快諾。その実務を製造部勤務の倍賞弘平さんに担当させた。倍賞さんは東北大学大学院を修了後、地元・秋田に戻り同社に入社した当時3年目の若手。「この2人(古木専務と倍賞さん)のコンビだったからこそ実現できたこと」と平川順一代表取締役社長は振り返る。
実際には、同社の取り組みは、ほぼゼロからのスタートだった。倍賞さんの専門は化学で、情報通信に関する知識は乏しかった。そこで秋田県産業技術センターのサポートを受けながら、「まずは試しに」(倍賞さん)との感覚で、試験用の発酵タンクを2018年に導入。センサーと送信機器を取り付け、温度のデータを収集するという小さな一歩から始めてみた。「試験期間を設けたおかげでデジタルについて勉強する時間ができた」と倍賞さん。このスモールスタートがその後の成功の秘訣ともいえる。
同社は秋田県産業技術センターとの二人三脚で試験運用を継続。2019年には自動分析発酵タンクの開発に着手した。ロードセル(荷重を検出するセンサー)などのセンサーを利用し、もろみ(米や麹、酒母などをタンクの中で発酵させた、どろどろの液体)の成分を推算する技術開発と遠隔監視のスキルアップに取り組んだ。また2020年には、各種の補助金を活用して工場内にネットワークを整備するとともに、データサーバーを導入。社内にデータ管理体制を構築することとなった。さらに、温度データを同社事務室だけでなく個人所有のパソコンやスマートフォンでも閲覧可能に。続く2021年には、タンク内の温度に加え、室温や湿度もデータ収集できるようになった。また、もろみ中のアルコール分と甘辛を示す日本酒度を推算する技術を確立し、特許の取得につながった。