次に取り組んだのが、人材の確保だった。プリント業は3K(きつい・きたない・危険)のイメージがあり、なかなか人が定着しない。しかし、会社の周囲を見渡してみると、働きたいのに働けない人がたくさんいることが分かってきた。子育て中のシングルマザー、家族の介護で時間が自由にならない人、体力に自信のない高齢者など。そこで、パートの従業員は出退勤時間を自分の都合で自由に決められるフレックスタイム制を導入した。同時に工場を新設してエアコンを導入し、トイレもきれいにするなど職場環境の改善にも取り組んだ。4年間で5億円以上の設備投資を実施した。最初はフルタイム勤務の社員から「なんでそんなにパートを厚遇するのか」と批判の声が上がった。それに対し坂口社長は、「当社は働く人の大半がパート従業員。パートに支えてもらっている会社。そのパート従業員が働きやすい環境を作ることが、会社にとってどれだけ重要なのかを理解してほしい。そして、上に立つあなた方社員にはそれに見合う固定給を支払っている。上にいくほど責任が増えるのは当然」とじゅんじゅんと諭し、納得させていった。次第に、「坂口捺染は働きやすい職場」という評判が広まり、さまざまな人が同社に応募するようになった。また、6番目の工場を建設するのに合わせて、直接雇用ではなく委託契約という形で仕事をしてもらう形態の拠点も設けた。ダブルワークをするためにより自由な時間帯で働きたい人や障がい者にも自分のペースで働ける場を提供している。
出退勤時間を自由にするということは、その日の朝にならないと何人出勤するのか分からないということだ。それでどうやって仕事をこなしていくのだろう。同社が取り組んでいるのは、徹底した多能工化だ。パート従業員にも複数の仕事を覚えてもらい、その日の仕事に応じて人員を再配置できるようにした。「臨機応変の対応力を持つことで、100人の人が夏休みをとっても仕事を通常通りに回せるようにした」(同)。パート従業員の賃金は最初の段階は最低賃金レベルからスタートするが、仕事を覚えることで毎年賃金を引き上げていく賃金体系とした。長く働き続けるインセンティブともなっている。