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インテリジェントセンサーテクノロジー

新たな特産物を生み出す人工の“ベロ”

インテリジェントセンサーテクノロジーは世界で初めて味認識装置の実用化に成功した。最新機種の味認識装置「TS-5000Z」は、人間が感じる基本味「苦味」「甘味」「うま味」「塩味」「酸味」の5つに加え、「渋味」を加えた6つの人工脂質膜を駆使し、味を見える化できる。国や大手食品企業の研究期間のほか、プライベートブランド(PB)の食品を製造する中小企業でも使用されている。2015年12月期の売上高が約4億円、利益は約8000万円。従来は製品の販売に主眼を置いていたが「社会的課題の解決」を目指した事業展開で、成長を加速させている。

  • 世界で唯一の味認識装置の開発
  • 製品を利用するメリットの見える化
  • 食に関わるすべての産業で利用できる汎用性

池崎社長はもともとアンリツの研究員だった。新しい研究テーマを探していたとき、九州大学の都甲潔教授が手がける『味覚センサー』に興味を持ち、1989年に共同研究を開始した。「当時としては、バイオと電気機器の組み合わせで面白い内容だった」と述懐する。

味認識装置の発想は「人工のベロ」を造ること。キモはセンサーの先端に取り付けられた「人工脂質膜」だ。構造は、膜に味物質が付くことで電圧の変化をとらえる。6つの基本味それぞれに反応する膜を開発した。キレやコクなども分析でき、水に付けたとき膜から物質が剥がれやすいか否かで判断する。検査時間は、1サンプル10分。1サンプルごとに4回計測しブレを平準化する。

大震災を機に考えた「役割」

崎社長は2002年に会社を立ち上げた。世界初の味認識装置の商品化で経営は順調に行くかと思われたが、「真っ赤だった」と苦笑する。独立2年目で黒字化し、3年目に約3000万円の利益を上げた。だがその後、開発のために年間で6000万円を、人材や装置の開発に投入した。「甘みセンサーや医薬品用の苦みセンサーのほか、センサー自体の安定性など作り直す部分が多かった」と話す。

転機は2011年の東日本大震災だった。東北には多くの食品メーカーが工場を持っていたため影響を受けたほか、原料の供給にも支障をきたした。同社にも影響はおよび、売上高は一時独立2年目の水準にまで減った。ただ、池崎社長にとっては貴重な時となった。「なぜ売れないのか見つめ直した。何のための味認識装置か初心に戻って考えた」と語る。

そもそも味認識装置の価格は約1000万円。従来の顧客は大企業の研究所で、大手しか購入できないだろうとの先入観があった。「実は本当に必要としていたのは、PBを扱う中小のメーカーだったことが分かった」と池崎社長は振り返る。スーパーやコンビニ向け商品を製造するため、コストの削減や膨大な商品数に対応する必要があったからだ。味センサーの営業ターゲットを、PBを開発する中小企業に集中した。その結果、2013年には2億7000万円、2014年には3億5000万円の売上高を計上した。

基本味に加え、キレやコクまで識別できる味認識装置

顧客のニーズをとらえ「見える化する」

味認識装置を使用することで、(1)ニーズの見える化(2)コストダウンを考えた設計(3)バイヤーや消費者への説得力のあるPR—の大きく3つの利点がある。

例えば、コーヒー。日本国内のコーヒーは酸味型と苦み型に分けることができる。若い人ほど苦いコーヒーを選び、熟年者ほど酸味タイプを選ぶ傾向がある。味センサーを活用することでニーズやターゲットが一目瞭然だ。

また、コーヒー豆「ブルーマウンテン」に近づけたコーヒーを作るとする。コーヒー豆が100種類あると組み合わせは天文学的数字になるが、味センサーでは近づけたいコーヒーを数値化し、再現するために計算でたたき出す。原料の数を減らせば20~30%のコスト削減も可能となる。

さらに、テーマを「讃岐風」とするうどんを開発すると、第一に何が讃岐風なのかを証明しなくてはならない。口頭ではなくグラフ化することで、「本場」と「開発品」の差異をバイヤーや消費者に伝えることができる。

島根県は、同社の味センサーを使用し、名産ごとにデータを示してPRに活用している。池崎社長が見据えるのは、味センサーを使った「地方創生」や「高齢化への対応」、「海外への売り込みだ」。日本は少子高齢化が進む。味センサーを使い地域のブランディングを進め、農業や漁業を活性化する。海外にも打って出る必要があり、現地の市場調査に同機が必要となってくる。「海外では人口増・食品市場は全世界で、10年後には現状の2倍の600兆円になる」と見る。

今後の戦略の中心は、社会的課題を解決する「ソリューション」。同社ではアプリケーションソフトウエアに力を入れ、ビッグデータを使ったデータ管理やコンサルティングにより顧客の課題に頂点を当てた同機の運用を目指す。

One Point

顧客ニーズを客観的に把握

例えば、市販されているコーヒーを同社の味認識装置で計測すると、メーカーの戦略が見えてくる。「苦み」を中心に提供するのか、または「酸味」を際立たせているのか。「奇をてらうのにしても、理解したうえで製品を投入するかどうかが重要」と池崎社長は話す。自社の立ち位置だけでなく、消費者の動向や消費者へのPRに利用できる。多様化するニーズを客観的に把握できるところがこの装置の強みだ。

企業データ

池崎秀和社長
企業名
株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー
Webサイト
法人番号
2021001021452
代表者
池崎秀和社長
所在地
神奈川県厚木市恩名5-1-1
事業内容
分析機器メーカー