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独自技術で半導体業界のグローバルニッチトップ企業に「アイエルテクノロジー株式会社」

2023年 9月 19日

松本順社長
松本順社長

創業者である松本順社長が、長年の研究を重ねて開発した「レーザーボンドテスター(LBT)」は、非破壊・非接触で半導体製造の後工程の接合状態を瞬時に検査するという業界初の検査装置。半導体メーカーから多数の引き合いや受注を獲得し、急成長している。同時に働き方改革にも力を注ぎ、残業ゼロなど働きやすい職場環境を整備している。こうした取り組みが評価され、第35回中小企業優秀新技術・新製品賞の中小企業庁長官賞を受賞した。

熱伝導性と電気伝導性の特性に着目したオンリーワン技術

本社外観
本社外観

LBTは半導体製造の後工程にあたるワイヤボンディング(半導体素子と端子間を金線やアルミ線で接合する工程)の接合状況を瞬時に検査する装置。熱伝導性の良い金属接合は電気伝導性も良いという物理原理に基づいて開発した。金属接合部の片方に熱エネルギーを加え、その熱エネルギーの拡散速度は接合面積の大きさに相関するという物理現象から、加熱をレーザーで、その加熱点の温度変化を放射赤外線センサーで同時に計測し、専用コンピューターで瞬時に良否判定する。それまでの半導体検査は、抜き取りによる破壊検査か画像処理による外観検査が主流で、良品を破壊するムダや、接合状態を直接検査できないことによる不良品の発生といった課題があった。LBTは非破壊で瞬時に全数検査ができることから、それまでの課題を解決する画期的なものとして世の中に登場した。

大手部品メーカーから独立

同社の主力商品レーザーボンドテスター
同社の主力商品レーザーボンドテスター

LBTの開発から実用化には約20数余年の歳月を要した。同社の松本順社長が大手自動車部品メーカーの技術者時代に開発に取り組み、特許の出願・登録も行っていた。松本社長が大手自動車部品メーカーを定年退職した後に、この特許の実施権を得て事業化させることになり、2018年にアイエルテクノロジーを創立した。松本社長は「60歳からの起業だったが、好きな仕事だからやろうと決意した」と当時を振り返る。開業資金は日本政策金融公庫の創業融資を受けて事業をスタートさせた。

ワイヤボンディングは、パワー半導体や機能半導体製造の後工程で行うもので、検査装置は製造ラインごとに1台程度必要になる。事業開始時から、大手半導体メーカーから引き合いが相次ぐなど、順調な出だしだったが、課題は自社の生産体制が需要に追い付かないことだった。当初はLBT1台を生産するのに、6か月が必要だった。半導体はメーカーごとに実装方法などの作り方が異なる。検査装置もそれにあわせてカスタマイズするため、どうしても時間がかかってしまうのだ。松本社長は「無理な受注をして、お客様に迷惑をかけたくない」と、取引をあえて絞っており、当面は国内半導体メーカー向けの仕事に専念する考え。ただ、今後は人材を確保して事業を拡大させる計画も立案しており、将来的には海外の半導体メーカー向けに供給できる規模にまで拡大させていく。

創業間もない企業ながら、こうした強気の戦略が立てられるのは、他にないオンリーワンの技術を持ち、それを特許で守ることができているからだ。装置価格は最も安価なものでも1台2000万円以上するが、それでも採用したい客は多数いるという。

製品を仕上げるには細かな調整が必要
製品を仕上げるには細かな調整が必要

働き方改革で優秀な人材を確保

残業ゼロ経営を実践
残業ゼロ経営を実践

急成長を続ける同社にとっての課題は優秀な人材の確保。特に若手、女性の採用に力を入れており、働き方改革にも率先して取り組んでいる。松本社長は「努力は惜しまぬが、無理はせず」を信念とし、良い技術、良い製品、良いサービスによる顧客満足は、良い就業環境から生まれると考えている。優良企業と言われる先輩企業の成功事例も徹底して学び、自社に採り入れている。例えば残業ゼロや在宅勤務の導入を創業当初から実行していた。シミュレーション・設計ソフトの導入で生産性も向上させた。また、近隣企業と連携して企業内保育所を誘致することも視野に入れている。

給与体系についても、毎年社員一人ひとりと松本社長が面談して「これだけのことをやれれば、ここまで出す」と取り決め、達成できれば給与に反映させている。松本社長によると「私より高給の社員も登場している」と言う。優秀な人材を獲得するためには、投資も惜しまないとの考えだ。旺盛な需要に対応するためにも、社員を50人規模まで増員させる目標を掲げている。

光計測制御技術で新たな価値を創造

グローバルニッチトップ企業を目指す
グローバルニッチトップ企業を目指す

同社は経済産業省中小企業庁の「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)」に採択され、産業技術総合研究所と共同開発に取り組んだ。産総研から様々な半導体素子構成物質の熱物性データを提供してもらうことで、装置の短期開発を実現させた。その成果をもとに開発した試作装置を展示会に出展したところ、多数の引き合いがきているという。今後はワイヤボンド測定ノウハウの強化と、レーザー溶接の検査や接合評価、はんだ付け検査など、新たな検査領域となるアプリケーションを開発する計画を進めていく。松本社長は「当社の社是である『光計測制御技術で新たな価値を創造し、ステークホルダーの豊かな明日を実現する』を体現するため、グローバルニッチトップ企業を目指していく」とし、年商20億円以上、従業員50人以上、社員の平均年間所得700万円以上と具体的な数値目標も掲げている。

企業データ

企業名
アイエルテクノロジー株式会社
Webサイト
設立
2018年9月
資本金
1000万円
従業員数
16人
代表者
松本順 氏
所在地
愛知県岡崎市針崎1丁目1番地13
Tel
0564-73-2005
事業内容
赤外線計測機器・レーザー制御機器・電子計測機器・光学機器・熱物性計測装置 開発・製造・販売及び前記関連付帯事業