経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集

「株式会社豆福」No.1贈答品ブランドへ挑む!事業承継で好循環

愛知県にある老舗の豆菓子製造小売店「豆福」は、2016年に事業承継を契機に従来の取引関係やブランド戦略を見直し、業績を大幅に伸ばした。事業承継は、後継者候補がいても経営者がいつまでもトップの座にとどまり承継が進まない例も少なくない。そのような中、豆福は後継者への引き継ぎを経営体質改善の好機とし、新たな視点と老舗の強みの双方を生かし、さらなる業績の向上を実現した。そのポイントに迫る。

この記事のポイント

  1. 承継がきっかけとなり、過去の慣習を刷新し経営体質が改善した
  2. ブランド強化のための社内のルールを整備した
  3. 新社長自ら経営方針を再策定し、会社の方向性を明確にした

異業種の一般企業で経営センスを磨く

豆福は、2019年に創業80周年を迎える老舗の豆菓子製造小売業である。社長の福谷勝史さんは2年前に父から事業を引き継いだ3代目。大学卒業後すぐには家業に関わらず、楽天株式会社へ入社。新規開拓営業から、マーケティング、ECコンサルタント、そして 楽天大学の講師と幅広い業務に携わり、経営知識やノウハウを学んだ。

豆福の3代目社長・福谷勝史さん

中小企業において承継が進まない背景には、現経営者が、後継者の能力や資質不足を懸念する点があげられる。 通常は同業他社で修行し、これらを培うことが多いが、福谷さんはまったく違う業種で一従業員として経験を積んだ。

「いま思えばそれがよかったと思います。楽天時代に多くの経営者と会うことで、成功する人の共通点を見つけることができましたし、目標達成に対する意識も培われました」と福谷さんは話す。

後継者の育成方法はさまざまだが、福谷さんのようにあえて家業と関わりのない企業で経験を積むことも、幅広い視野やノウハウを身に付けられる点において有効な手段である。

ゴールを定め、改善継続により業績向上

楽天の急成長期に在籍し、常に高い目標を達成するよう求められる仕事にはとてもやりがいを感じ、充実していたという。しかし、徐々に「自分にしかできないことに挑戦してみたい」という想いが強くなり、家業を継ぐ決意を固めた。

前職を退職後、菓子修行を経て豆福に入社した福谷さんは、2つのことに着手した。

1つは企業目標(ゴール)を設定したこと。創業100周年(2039年)までに「日本を代表する贈答品ブランド」を実現することを企業目標に定めた。目先の売上以上にブランド価値を重視し、常にブランド価値向上にプラスになるかどうかで物事を判断することとした。もう1つは、問題点を徹底的に洗い出したこと。過去の決算書を分析する一方で、全従業員との面談を重ねた。これにより、数字と現場の両面から問題点が明らかになった。

「ゴールを定めて問題点を洗い出せば、あとはやるだけ」と考え、商品構成、仕事のやり方、取引関係などを全面的に見直し、小さなことでも改善を積み重ねた。どこよりも良い素材を追い求めた結果、菓子の原価は上がる一方だったが、改善の効果は確実に数字に表れ、業績が大きく向上した。税理士や取引銀行にも驚かれるほどだったという。

企業も業歴を重ねると、なれ合いや慣習が挑戦や成長を妨げ、経営に悪影響を与えることも少なくない。福谷さんの事例は、後継者の新しい視点や取り組みが企業の活性化を促し、さらなる成長のきっかけとなり得ることを示す好例であろう。

先代の発案で30年以上続く、地域貢献イベント「鬼の出前」

企業目標の重要性

承継に際して福谷さんが大きく推し進めたことがもう1つある。自社ブランドの強化である。

一般に豆菓子はスーパーやコンビニを販路とした手頃な商品が多いが、豆福は先代が自社ブランドでの小売を始めて以来、贈答品を主とした高付加価値路線を選択してきた。このため、価格競争に陥ることなく、独自の商品開発を推し進めることができた。業界内で淘汰や統廃合が進む中、豆福が今日まで成長し続けることができた要因の一つは、早期に独自のポジショニングを確立できていたからである。

福谷さんはこのポジショニングをいっそう強化すべく、「豆福にしかできないものづくり」を目指している。菓子の素材や製法を絶えず見直しつつ、全社員参加型の商品開発にも意欲的に取り組んでいる。また、ブランドイメージに直結することから、販路は慎重に選んでいる。このため、新たな取引や出店の引き合いがあっても9割以上は断り、新規開拓営業もほとんどしない。すべては「日本を代表する贈答品ブランド」の実現のためである。

福谷さんが重視しているのが、「企業目標・経営理念・豆福の掟」の3つからなる経営方針である。毎年改定を重ねる経営方針は従業員に徹底されている。「企業目標は幹、経営理念は枝、豆福の掟は葉であり、ゴールである企業目標達成のために、これらに基づき行動してほしい」と伝えている。

豆福ブランドの礎になった代表銘菓「山海豆」
補助金の設備投資で実現した豆チョコ菓子「まめチョココレクション」

理念や目標を掲げる重要さは、どの経営者も理解しているだろう。しかし、どれだけの企業が従業員にまで浸透させ、生きた理念となっているだろうか。事業承継で重要なのは、資金や設備など有形資産の承継だけではない。企業姿勢、あり方など無形資産の承継も同時に重要である。承継時にこれらについて考えることは、事業の方向性の再確認や、従業員に対する意思表明になり、会社の一体感をつくる重要な取り組みと言える。

変化を楽しみ挑戦を恐れない

福谷さんは入社前から承継に至るまで、先代から何かを指示されたことはなかったという。「自分の意志で進められるように、任せて見守ってくれる先代には感謝している。先代までの良いところは引き継ぎつつも、新しい取り組みにも失敗を恐れずに取り組みたい。『日本を代表する贈答品ブランド』の実現は容易ではないが、全従業員とともにプロセスを楽しみながら挑戦したい」(福谷さん)

事業承継は企業が飛躍するチャンスである。中小企業白書によると、事業承継を行った会社の4割以上は業績が向上したと答えている。特に後継者が40歳未満で承継した場合には、6割近い企業が業績向上を実現している。後継者が新しい視点で取り組みを行うことで経営の新陳代謝を活性化させ、さらによい企業へと発展する。これこそが事業承継の効果である。

工房を併設する本店には、海外からも見学者が訪れる

企業データ

企業名
株式会社豆福
Webサイト
設立
1939年10月
資本金
3,000万円
従業員数
30名
代表者
福谷 勝史
所在地
名古屋市西区新道2-14-10

中小企業診断士からのコメント

豆福の事業承継は、残すべきことと捨てるべきものを取捨選択し、業績向上を実現した好例である。福谷さんが社長に就任したことで、ものづくり補助金もうまく活用して積極的な設備投資を続け、事業領域が広がっている。経営環境の変化が激しい昨今、企業も変わらなければ成長できない。事業承継はそのチャンスとなる。近年は親族外への承継も増加しており、補助金や事業引継ぎ支援センターなど国の支援も手厚い。ぜひ企業のさらなる発展のためにも、事業承継に前向きに取り組んでほしい。

二宮 佳代