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ピアノが大好きになれる教室「I Love Piano」を展開「株式会社ワタナベミュージックラボ」
2025年 6月 16日

30分個人レッスンのピアノ教室「I Love Piano」。ブランド名に「ピアノが大好き!」との思いをストレートに表現した事業は、株式会社ワタナベミュージックラボ(広島県三原市)の渡邊朋子社長が第二創業として立ち上げたものだ。「ピアノをもっと気軽に」「ピアノをもっと楽しく」「ピアノをもっとどなたにでも」との特徴を前面に打ち出し、「講師の指導が厳しい」「習うのは子ども」といったイメージを払拭。フランチャイズも加え、教室数・生徒数ともに順調な伸びを示している。
ピアニストとして活動、郷里へ戻って3代目社長に就任

JR三原駅からほど近い本社ビル。店舗や音楽教室などが入る同ビル2階の社長室には、ひときわ目立つ白いグランドピアノが置かれている。「単なるインテリアではなく、私自身がよく弾いている」と、会社経営の傍ら、今も演奏活動を続ける渡邊氏は話す。
祖父(渡邊安二氏)の代から楽器販売やヤマハ音楽教室の運営などを手掛ける家庭に生まれた渡邊氏は4歳からピアニスト、宮沢明子(めいこ)氏に師事した。1986年にベルギー・ブリュッセルで行われた「ベーゼンドルファーインペリアル国際ピアノコンクール」では最年少優秀賞を獲得。アメリカ留学を経て日本大学芸術学部に入学し、卒業後も東京を拠点に演奏活動を行ってきた。
郷里へUターンしたのは2008年。元々は会社を継ぐ気がなかったが、「その数年前の正月に帰省して初詣でをした際、『もし私が戻らなかったら会社はどうなるのだろう』と考えるようになった」と渡邊氏は振り返る。当時、経営状態は少子化の影響で厳しさを増していたが、娘の事業承継を喜んだ父・朋唯氏は、同じヤマハ特約店で後継者不在だった呉市内の楽器店を買収し、事業エリアを広げて渡邊氏を迎えた。副社長だった母・勝子氏も会社経営の経験が全くなかった渡邊氏を指導。創業60周年となる2014年、朋唯氏に代わって3代目社長が誕生した。その前年には社名をワタナベ楽器から現社名へと変更していた。
6坪の空きスペースにひらめき、岡山県の商業施設に第1号

社長就任から間もなく渡邊氏は独自のピアノ教室立ち上げに乗り出した。従来から運営しているヤマハ音楽教室のようなグループレッスンでは十分な広さの教室と一定の生徒数が必要だが、少子化で生徒数は減少傾向。その一方で、個人レッスンの教室では講師が生徒を厳しく指導する徒弟制度のような関係が多く、「先生(講師)が怖くてピアノを辞めた」という話をよく耳にしていた。「小規模で、しかも、楽しくピアノを習って笑顔になれる教室を作りたい」との構想を抱いたのだ。
そんな折、渡邊氏は2014年秋に従来の音楽教室の移転先として岡山県井原市内の大型商業施設を訪れた。すると、1階正面入り口の真横に広さ6坪ほどの空き物件があった。「ここなら多くの人の目に触れ、気軽に立ち寄れる。狭いスペースなので投資も少なくて済む」とひらめいた渡邊氏は、予定を急遽変更して、その物件を借りることに。そして翌年2月、独自のピアノ教室第1号がオープンした。ブランド名は「I Love Piano」。「私はピアノが大好き、と心の底から言いたい。そんな思いを込めた」として渡邊氏が命名した。
教室の看板には「vol.001」とのシリアルナンバーが付けられた。「教室が100カ所になっても困らないように」(渡邊氏)と最初から3桁に設定。その後も広島、岡山両県で5坪ほどの空きスペースを見つけては「I Love Piano」を開設。今年6月には岡山市内に17カ所目がオープン。教室のほとんどは生鮮食品売り場がある商業施設内に開設されている。「日常の延長線上にピアノがある」と考える渡邊氏のこだわりだ。
女性起業家ビジコンで優秀賞、男性の間で知名度向上

2018年には、知人の勧めで、中国地域の女性起業家を対象にしたビジネスプランコンテスト「第2回SOERU(ソエル)」にエントリー。ワタナベミュージックラボにとって第二創業となる「I Love Piano」のビジネスプランを披露することになった。その際にブラッシュアップの指導を受けたことで、「それまで漠然としていた考えが整理されていき、『I Love Piano』の強みやアピールポイントがはっきりと形になって見えてきた」と渡邊氏。そして、ファイナリストに選ばれた渡邊氏は同年12月の発表会でプレゼンテーションを行い、優秀賞(中国経済連合会長賞)を獲得した。
SOERUを通じて他の女性起業家らとの繋がりができ、刺激を受けたという渡邊氏だが、受賞後には意外な反響もあった。渡邊氏ら受賞者がビジネス誌に取り上げられたことで、それまで接点がなかった男性経営者の間で知名度が向上したのだ。「自分もピアノが習いたかった、と話す男性も多く、受賞後は男性からの問い合わせが増えた」(渡邊氏)という。
思いに共感して奈良・大阪でフランチャイズ展開

渡邊氏の思いに共感して、音楽教室の運営や楽器の販売などを手掛けるコウキ商事(奈良県天理市)がフランチャイズを展開している。小規模なピアノ教室を検討していた同社の西田裕亮代表取締役が同じヤマハ特約店として以前から面識があった渡邊氏に相談したのが始まりだ。その後、広島県廿日市市内の「I Love Piano」を見学した西田氏は「生徒も先生も笑顔がキラキラして楽しい」との印象を強く受けた。そして、自社独自の教室運営よりもフランチャイズになって渡邊氏と一緒に「I Love Piano」を広げていった方がいいと判断したのだ。
折からのコロナ禍で商業施設からのテナント撤退が相次ぐなか、西田氏は2021年4月、奈良市内の商業施設の5坪ほどの空き店舗にコウキ商事として第1号となる教室をオープンした。現在は奈良県と大阪府で5カ所の「I Love Piano」を展開している。ワタナベミュージックラボとは、フランチャイザー(本部)とフランチャイジー(加盟店)という関係になるが、渡邊氏は「関西エリア代表である西田氏は対等なパートナー」と強調する。
フランチャイズを合わせると「I Love Piano」は現在22カ所。渡邊氏はさらなる広がりを目指す。「中国地域5県をループ状につなげたい」との目標に加え、九州など西日本、さらには関東にも開設したいと考える。ただ、自力でのエリア拡大には限界があるうえ、「私たちが進出しようとすると地元のピアノ教室が警戒感を示す」(渡邊氏)ことから、各地の音楽教室と連携した新たなフランチャイズ展開を模索している。
生徒の半数は大人、ピアノ初挑戦の70代男性も

「I Love Piano」に通う生徒数はワタナベミュージックラボだけで900人を超える。「昔習っていたピアノをまた始めたい」「コロナ禍に楽器に興味を抱いた」など、半数ほどは大人で、90代の生徒が在籍していた時期もあった。高齢になってピアノに初挑戦した生徒も。70代半ばの男性は7年前、「ピアノが習いたい」と思いつつ広島県福山市内の教室の前を何度となくうろつき、ついに入会。ピアノを含め楽器とは無縁だったが、2年かけて1曲をマスターした。その後、脳梗塞を起こして入院・手術。無事退院したものの後遺症の影響でピアノが弾けなくなったが、講師のサポートを受けて復活した。「ピアノがリハビリと脳トレにもなった」と男性は話しているという。
子どもだけでなく、その親、さらには祖父母と、家族そろって生徒になったケースもある。「先生と生徒は、師弟関係ではなく、時間と音楽を共有する仲間」(渡邊氏)という「I Love Piano」の楽しい雰囲気が年齢・性別を問わずに幅広い支持を得ているのだ。
ピアノを通じて人と人がつながる「サードプレイス」に

渡邊氏は「I Love Piano」が生徒たちにとって自宅でも学校や職場でもない「サードプレイス」(第三の居場所)になればと考えている。講師には育児や介護の経験者もいて、「体力が弱ってきたシニア層には、週1回教室に来た際に『お元気ですか?』と声をかける。子どもたちにはピアノだけでなく子育てのお手伝いもする。ピアノを通じて多くの人たちがゆるくつながる。そんな地域のコミュニティのような場所にしていきたい」と渡邊氏は話す。
「ピアノをもっと気軽に」「ピアノをもっと楽しく」「ピアノをもっとどなたにでも」-。渡邊氏の思いを具現化した「I Love Piano」は、ピアノの美しい響きのように、さらなる広がりを見せていくことになりそうだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ワタナベミュージックラボ
- Webサイト
- 設立
- 1954年4月
- 資本金
- 2000万円
- 従業員数
- 41人(正社員・パート)
- 代表者
- 渡邊朋子 氏
- 所在地
- 広島県三原市城町2-2-3
- Tel
- 0848-63-2180
- 事業内容
- 楽器の販売、音楽教室・英語教室、コンサートなど音楽企画、楽器調律修理運搬