人手不足を乗り越える
フルリモートワークでの正規雇用を導入 全国から専門人材を採用【株式会社鈴木ハーブ研究所(茨城県東海村)】
2025年 2月 25日

全国的に人手不足が深刻化し、地方では専門的なスキルを持った人材を確保することが難しくなっている。茨城県東海村で化粧品やスキンケア商品の製造販売を手掛ける株式会社鈴木ハーブ研究所は、ウェブマーケティング人材の確保に向けて、オフィスに出社せず自宅などで就業するフルリモートワークの正規採用に踏み切った。全国から5人の人材を採用。地元で募集しても応募がなかった人材の確保につなげている。
地元では人材が集まらない…「それならば」とチャレンジ

「今はネットに広告を出し、スマートフォンで注文してもらう時代。SNSをはじめインターネットでのマーケティングや広告宣伝をディレクションしたり、管理したりする人材が不足していた。スタッフを募集しても東海村ではなかなか集まらなかった」と、鈴木ハーブ研究所代表取締役社長の鈴木さちよ氏は語る。
鈴木ハーブ研究所は、茨城県の特産である納豆の成分を活用した保湿ケアローションや、豆乳エキスとパイナップルエキスを成分とするムダ毛ケアクリーム・ローションなどのスキンケア商品を販売。2024年に創業20周年を迎えた。通信販売を主力に茨城県内の道の駅や茨城空港などにも出品。顧客は全国に広がる一方、茨城県の“ご当地コスメ”としても人気を集めている。
「コロナ禍にはうちの会社も在宅勤務を実施していて、世の中も在宅勤務が当たり前のようになっている。リモートワークにあまり違和感はなかった。夫が行動的な性格の人で『まずは、やってみよう!』と背中を押された」と、導入の経緯を打ち明けた。
創業のきっかけは「アトピーに悩まされる娘のため」

会社を創業したのは夫の伸幸氏。当時サラリーマンで、鈴木氏は専業主婦だったという。2002年に生まれた次女がアトピー性皮膚炎に悩まされ、夫婦で娘の症状を緩和させようと、いろいろなことを試したことがきっかけとなった。医師から「肌の保湿が大事」とアドバイスを受け、娘のために保湿効果のあるローションなどを探し回った。その中で、着目したのが納豆のねばねば成分に含まれる「ポリグルタミン酸」だった。
しかし、この成分を主に使用した化粧品は、そのころ世の中になかった。原料メーカーに直接依頼して成分を調達し、伸幸氏は濃度の調整など研究を重ねた末に娘の肌に合う手作りのローションを自ら作り上げた。もともと娘の肌ケアのために作ったものだったが、やがて鈴木氏のママ友から「私も使ってみたい」といわれるように。すると、ママ友の友達、そのまた友達と口コミで評判が広がった。手作りで作れる量ではなくなったため、メーカーでOEMでの製造を依頼。製造量も多くなり、「余らせるのも大変」と広告を出して、一般向けに販売した。
鈴木氏の言う通りの伸幸氏の行動力。鈴木氏は子育ての傍ら夫の仕事を手伝った。「当時は紙媒体が主力で、新聞に折り込まれているタウン紙やフリーペーパーなどに広告を出していた」と鈴木氏。広告を見た顧客からの注文は電話かファクスで受ける。全国に広告を出していたため、電話は鳴りやまないこともしばしば。それを鈴木氏一人で対応していたそうだ。「子供を幼稚園に送るときやお風呂に入ろうとしているときにも電話が鳴る。さすがに参ってしまい。ママ友にパートで手伝ってもらった」。売り上げは順調に伸び、伸幸氏はサラリーマンをやめ、創業して化粧品ビジネスをスタートした。「あれよ、あれよ、という感じだった」と鈴木氏は話す。
「何も分からずにスタートしたので最初はいろいろ失敗した。化粧品の製造販売に必要な薬機法や景表法、税法などの知識も乏しく、勉強の日々だった。そういう時期もありながら10年くらいたってやっと会社として落ち着いてきた」と鈴木氏。夫婦2人で始めた事業は、今では社員45人を率いる所帯となった。現在は夫婦で経営の役割を分担し、鈴木氏が社長となり、伸幸氏は相談役として研究開発と営業に専念している。
石川、長野、東京…全国から人材を採用

フルリモートでの正規採用に向けては、茨城県プロフェッショナル人材戦略拠点のサポートを受けた。専門のアドバイザーが県内中小企業の経営課題や人材ニーズなどの課題解決のために、人材紹介事業者を通じたマッチングなどを支援する組織で各都道府県に1機関設置されている。
相談すると、「県内には販促人材が多くない。東海村に出社するとなるとなお厳しい。リモート勤務を含めると、間口が広がるのでは」とアドバイスを受けた。紹介を受けた人材紹介会社を通じ、2021年に募集を開始。翌年に最初の採用にこぎつけた。副業兼業人材の活用ではなく、フルリモートの正規採用による人材確保は、茨城県のプロ人材戦略拠点で初めてのケースとなった。
採用した人材は石川、長野、東京、香川、福岡と全国にまたがる。ウェブ会議システムなどを利用してネットで3回の面談を実施し採用を決定した。採用後、3カ月間は東海村の本社に来てもらい研修を行った。研修期間中はウィークリーマンションを用意。そこに泊まってもらい、研修を受けてもらったという。
残念ながら5人のうち1人は退社してしまったが、4人とも販売促進の部署で活躍している。代理店管理や広報など担当はさまざまで本社に勤務するメンバーとチームを組み、ウェブ会議システムなどでコミュニケーションをとりながら業務にあたっている。これまで社内の広報を経験しているスタッフが不在になっていたが、経験者をフルリモートで採用。そのスタッフの知識や経験を活かし、これまで以上に活発に外部への情報発信ができるようになったそうだ。
専門的なノウハウを持った人材の視点を取り入れたことで社内の雰囲気も変化。商品の新たな可能性に気付いたり、商品の魅力を再発見したりすることができ、販促戦略の幅が大きく広がってきたという。フルリモートの社員は、会社から離れたところに生活拠点があるため、これまでにはなかった、違う文化や価値観、視点を持ち込んでくれた。「非常に刺激になっている」と鈴木氏は評価している。

また、思わぬ効果も生まれた。採用の間口を広げたことで、多くの求職者の注目を集めるようになった。結果的に出社を前提に長く働きたいという20~30代の若手人材の採用にもつながった。
今後の取り組みについて、鈴木氏は「フルリモートの社員が昇格や管理職になるための筋道をつけていきたい」と語る。採用を先行させたため、フルリモートの実態に対応した社内の規約の見直しはこれからだという。会社勤務とは異なる雇用形態の中で、人事評価にどういった配慮が必要なのか、遠方からのマネジメントにはどんな課題があるのか研究中だ。
一方、フルリモート雇用の課題については、「遠方にいる分、会社への帰属意識を持ってもらえるかが課題。会社の理念や精神を理解して仕事を続けてほしい。難しい部分ではあるが、コミュニケーションを深くとることで乗り越えられるのではないかと思っている」と強調していた。
働きやすい職場環境づくりに尽力 「親子出勤」も検討中

鈴木ハーブ研究所では、フルリモート採用以外にも働きやすい職場づくりに力を入れている。部門を横断したプロジェクトや委員会を立ち上げて、従業員の意見を受け取りやすい職場づくりを進めるなどさまざまな働き方改革にチャレンジ。2023年には茨城県の働き方改革優良企業にも選定された。
従業員の9割は女性が占めている。鈴木氏自身が子育てで苦労した経験があり、時短勤務や産休・育休の取得を推進するなど女性が働きやすい職場づくりにも取り組んでいる。その中で、新たに導入を検討しているのが「親子出勤」だ。
子育て中の社員が子供を連れて出社し、子供をそばに置いて仕事をする。仕事と子育ての両立する職場環境の一つとして関心が高まっている。すでに親子出勤の実績がある県内の企業や東海村とも連携し、村のモデル事業として2024年7、8月、本社と配送センターの2カ所で計4回実施。計9人の子供が“出社”した。

当日は子供たちも朝礼に一緒に参加。休憩時のカフェスペースとして利用している場所にキッズスペースやワーキングスペースを設け、子供のすぐそばで仕事ができるようにした。また、配送センターでは、社会勉強を兼ねて仕事を体験する時間も設けたという。実施後の社員の意見の中には、「もう1シーズン続けてほしい」という声もあった。
鈴木氏も導入に前向きで、「いろいろなトライアルをしている。例えば、子供の夏休みなどの期間のみに実施するか、通年実施するかによっても取り組みが変わる。これからいろいろと決めていきたい」としている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社鈴木ハーブ研究所
- Webサイト
- 設立
- 2004年9月
- 従業員数
- 45人
- 代表者
- 鈴木さちよ 氏
- 所在地
- 茨城県東海村村松2461
- 事業内容
- 化粧品の研究開発・販売、ハーブの品種改良・栽培・販売など