これからの訪日外国人旅行者ビジネス

「Jバウンド」 富士山を楽しんでもらうために登山用品でサポート

富士急行・河口湖線「富士急ハイランド駅」の前に富士登山用品レンタルショップ「La Mont」がある。オープンは2013年。そのきっかけは2009年、同ショップを運営するJバウンドの清水栄一社長が富士山に登った時のことだった。

清水社長と同じく登山していた人たちに外国人観光客がいたのだが、彼らは半袖に短パンという軽装だった。頂上に近くなるほど気温も下がり、空気も薄くなる。寒そうにしている彼らを見て、「これではいけない」と清水社長は思ったという。大変危険な状態に陥る可能性もあるのに、日本からの情報発信不足がこのような状態を招いているのだと考えた。

それがこの事業を手掛けるきっかけとなった。当時、登山用品のレンタルショップは見当たらず、メーカーや卸売業者との2年にわたる交渉の末、La Montはオープンした。

La Montの店舗外観

一流メーカーの登山用品を仕入れで選んでレンタルする

La Montの店内は広く、ウェア上下、バッグ、靴、スティック、ヘッドライトなど登山の必需品はすべて揃っており、来店客はここでほとんどすべての登山用品をレンタルできる。また、フィッティングルームやロッカーも完備されているため、ここまで手ぶらで来ても着替えて登山することもできる。

外国人観光客は全来店客の約1割だ。日本人と比べて体型の大きな人も多いため、どのような体型にも対応できるよう、サイズが30cm以上もある登山靴やXXL以上の特注のビッグウェアも用意している。

商品は外国人の体型やサイズに合わせたものも多く揃えている

La Montは1000セット以上のレンタルセットを揃え、性能とアフターメンテナンスの良さからあえて一流メーカーの商品を選んでいる。

また、外国人観光客にもわかりやすいよう、英語や中国語のPOPも掲示している。特に登山用品は体に合ったものでなければならず、きちんと説明して理解を得る必要があるため、1回の接客に30分以上かかるという。語学が堪能なスタッフもいるが、接客には親会社が開発したタブレットによるビデオ電話通話を活用している。タブレットから電話をかけるとそれぞれの言語(英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語)を話すオペレータが通訳をしてくれる仕組みになっている。

電子端末機器を介した通訳スタッフの応対場面

積極的な外国人観光客の誘致・支援活動

情報発信の手段として有効なのはWebである。La Montのサイトは英語での対応も可能となっている。また、富士山に近い駅の観光案内所には同社のリーフレットを置き、旅行会社のホームページでもPRしている。

旅行関係の展示会にも多数出展し、海外の旅行会社にも積極的にアピールしている。それがきっかけで、富士登山のバスツアーが組まれることもあるという。

また、Jバウンドでは、山梨県が発行する登頂証明書の発行代行も行っている。この事業は、La Montのオープン1年前からスタートした。この証明書はWebから申請できるため、利用する外国人観光客は多い。登頂時に撮影した写真をWebサイトに送って証明書発行を申請すれば、写真入りの登頂証明書が発行されるため、外国人観光客が喜んでくれるという。

今後は多言語ガイドも展開したい

La Montでは、スタッフ自身がシーズン中に何度も富士山に登ったり、登山している外国人観光客に話しかけるなどして富士山登山の状況や外国人登山者の現状把握に努めている。

La Mont店長の芦澤氏は、事前の情報発信だけでなく、外国人登山者の意識を変える必要性もあると痛感しているという。「せっかく富士山に登っても何か事故があってからでは遅い。時間帯によっては登山客の7割が外国人という日もある。特に欧米からの観光客には軽装で登山しようとする人も多いため、登山に必要な服装や危険性について情報を発信し、理解してもらうことが必要」と芦澤氏は語る。

La Montでは、外国人登山者のために「多言語ガイド」もスタートさせたいと考えている。通訳ガイドの育成だけでなく、専用の電子端末を利用した音声ガイドも開発して普及させたいという。La Montは今後もさらに外国人登山者の強い味方になっていくだろう。

企業データ

企業名
株式会社Jバウンド
Webサイト
代表者
代表取締役社長 清水 栄一
所在地
山梨県甲府市下石田2-10-6
事業内容
富士山登山用品レンタル事業、多言語通訳システム販売、富士山登頂証明書・記念状発行提携事業、ほか

掲載日:2015年3月 3日