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SDGs時代の社会的課題の解決に求められる技術とは【国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー・曽根純一氏】<連載第2回>(全4回)

2019年10月24日

SDGsやパリ協定といった国際合意と、AIやIoTなどが牽引する第4次産業革命が社会のあり方を変えるなか、ものづくり企業には新たなビジネスの機会が生まれています。そのような状況下における材料・デバイス分野への中小企業の関わり方について、専門家の曽根純一氏にお話を伺う本連載。第2回では、初回で言及した“社会の変化”を受け、“具体的にどのような技術が求められるか”について語っていただきました。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

製品のあり方が変われば必要な技術・素材も変わる

「自動車は今、『CASE(Connected・Autonomous・Shared / Service・Electricの頭文字)』をキーワードに、大きく変化しようとしています。自動車は先端デバイス・材料の塊。EVはガソリン車とは異なりモーターやバッテリーで動きますし、自動運転を完成させるにはものを検知するセンシング機能やコンピューティングによるAIの能力の向上が求められる。自動車のあり方が変わることで、さまざまな新技術・新素材が必要になってきます」

このように近年の自動車業界では、多数の新たなニーズが誕生しています。そうした部分に、ものづくり企業にとっての大きなチャンスが潜んでいると曽根氏は言います。例えば今のEVバッテリーの主流となっているリチウム電池や次世代電池として開発が進む全固体電池の素材、さらに電力用半導体やモーターに用いる高性能磁石などは需要の高まる分野でしょう。

「特にモーターはEVに限らず、現代社会のありとあらゆるところで駆動力として使われています。新素材の活用によって、電力変換器に欠かせない電力用デバイスや磁石の性能を高められれば、ハードディスクドライブ、エレベーター、風力発電など、あらゆる機器の効率化が実現できるわけです」

「センサー」の高性能化を実現する素材への期待

新技術を必要としているのは、当然自動車業界にとどまりません。例えばセンサーが進化すれば、ものづくり、医療、農業など多くの分野が恩恵を受け、それがSDGsで掲げられた「産業と技術革新の基盤」「健康と福祉」「飢餓」といった課題の解決につながっていきます。

「産業用、医療用、家庭用など幅広い分野で活用が期待されているロボット、また無人自動工場やスマートホームなどをより適切に動かすには、センサーの性能向上が欠かせません。そうした分野に使用されているのは、光、温度、磁場、角速度、圧力などを検知する物理センサー。例えば、手術支援ロボットのダヴィンチ※にも、高性能の触覚センサーが使われています」

こうした物理センサー以外にも、特定の化学物質をキャッチするケミカルセンサーや、その一種で体液・組織内の特定物質を検知し、疾病可能性の判断に活用するバイオセンサーなどがあります。これらも今後の医学や農業といった分野の発展に欠かせないものでしょう。

※アメリカで開発された最先端の手術支援ロボット。医師が患部の立体画像を見ながら、人間の手を超えた可動域をもつアームを操作し、自ら直接患者に触れることなく遠隔操作で手術を行うことができる。

環境負荷を低減する素材に注目が集まる

エネルギーの有効活用と気候変動対策、また有害物質を発生しないものづくりなどの面でも、新たな素材やデバイスの開発に期待が集まっています。そうした分野で近年大きな注目を集めているのがカーボン複合材料です。

「自動車や飛行機などのボディーを軽くすれば、それだけ燃費が向上します。すると、使う燃料も排出される温室効果ガスも少なくてすむ。高い堅牢性と軽さを併せ持つ炭素繊維強化複合材料はその素材としてうってつけで、ボーイング社の最新航空機のボディーにも、日本企業製のこの素材が50%以上使われています」

植物を原料としたバイオエタノールやバイオプラスチック、そして有害物質などに作用して性質を変える触媒技術なども注目の分野です。

「ガソリン車の排気ガスに含まれるNOxを無効化する触媒には、ロジウム、パラジウムなどの稀少金属が使われています。無効化が起きているのは金属の表面だけですから、ナノテク加工で表面積を増やせれば使用量を抑えられる。すると結果として低コストになるわけです」

技術を活用して社会課題の解決に貢献するには、製品開発だけでなく、デバイスや素材の開発、物質加工などさまざまな方法があることが分かりました。独自の技術を持っていれば、中小企業でもこれらの分野にアプローチすることは可能だと曽根氏は語ります。次回は、その具体的な方法について掘り下げていきます。

連載「SDGsと第4次産業革命が変える社会で自社技術を活かす」

曽根純一(そね・じゅんいち)
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー

1975年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程を修了し、日本電気株式会社中央研究所に配属。83年、東京大学より理学博士取得。日本電気の基礎研究所所長、基礎・環境研究所所長、中央研究所支配人を歴任した後、2010年より国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)理事。15年より現職。JST-CREST「ナノシステム創製」研究総括、ナノ学会会長も務める。応用物理学会フェロー、物質・材料研究機構(NIMS)名誉理事を授与される。専門領域はナノテクノロジー、量子情報テクノロジー、環境エネルギーテクノロジー、先端材料。

◇主な編著書
・『表面・界面の物理(シリーズ物性物理の新展開)』(丸善/編著)1996年
・『ナノ構造作製技術の基礎(シリーズ物性物理の新展開)』(丸善/編著)1996年

取材日:2019年9月2日