コロナ禍で自動車関連の仕事がなくなったことを逆に好機ととらえ、前々から関心があった宇宙産業分野に進出することにした。自動車分野は生産拠点の海外移転が進んでいるうえ、今後は車体構造がシンプルなEV(電気自動車)の普及に伴い部品点数が削減されることから、コロナ後も中長期的に市場規模が縮小すると予想される。一方、宇宙分野は、経済安全保障の点などから、技術も生産拠点も国内にとどまるうえ、市場は国内だけでなく海外でも拡大することが期待されている。
また鳥取県は、月面に環境が似ている鳥取砂丘があることなどから、宇宙産業の誘致や創出に力を入れており、実際に宇宙関連企業の拠点が県内に数多く存在している。さらに、コロナ禍の企業支援のため各種の補助金が利用しやすくなった。コロナ禍の逆風が宇宙分野進出の追い風となった格好だ。
具体的には、2020年4月、鳥取県産業技術センターに対し、ニッケルなどの合金である「Ni基超合金インコネル」の精密加工技術の共同開発を提案した。Ni基超合金インコネルは耐熱性にすぐれ、ロケットエンジンなどに利用される材料だが、「超難削材」と呼ばれ、その精密加工は極めて難しい。同センターとは、その前からチタンなどの難削材の加工で共同開発を行っていたことから、インコネルでも一緒に開発を進めることになった。こうした努力が実を結んで当社は株式会社たすく(東京都中野区)と連携して宇宙航空研究開発機構(JAXA)に部品納入を行った。2022年には国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で使用される予定だ。
最初、私が「宇宙に進出する」と宣言したときには、社員はキョトンとしていたが、当社の製品がもうすぐ宇宙空間で活用されることから、今では社員も誇りをもって仕事をしている。宇宙分野のビジネスを手掛けていることを知って入社してきた若手社員もいる。宇宙分野への進出は、社員のモチベーションを向上させ、人材確保の面でも良い影響が出ている。
なお、宇宙関連の技術をめぐっては激しい国際競争が繰り広げられていることから、外部への流出を厳重に防ぐ必要がある。JAXAに納入することになったことから、外部からのハッキング防止策を講じるなどセキュリティーを強化している。また、短期労働者や外国人研修生を受け入れることもできないと規定されているため、パート従業員を正社員として雇用することにした。現在は、私のほか社員が4人となっている。