Be a Great Small
外部の新鮮な目で新ブランド「逸品もん」を発掘「中津市役所 商業・ブランド推進課」
2025年 6月 9日

山と海の大自然に囲まれた大分県中津市で、地元の人たちがこだわりを持って生産した農林水産品の新ブランドが誕生した。同市のことをほとんど知らなかった広告マンが新鮮な目で見出した中津の魅力が詰まった逸品ばかりだ。第1弾に続いて今夏には第2弾を認証する予定で、市では「認証商品を通じて中津のことを知ってもらい、ファンになってほしい」(商業・ブランド推進課)と話している。
耶馬渓、中津干潟…豊かな大自然の恵み

大分県の最北西部に位置する中津市は戦国武将の黒田官兵衛(孝高、如水)ゆかりの地として知られる。中津城周辺には、官兵衛入封の際に姫路の商人が移り住んだ姫路町など、往時を偲ぶ地名が今も残っている。明治以降は繊維や鉄鋼、半導体関連など、その時々の主要産業が立地し、2004年にダイハツ九州が移転してきてからは自動車産業の集積が進んでいる。
その一方で農林水産業も盛んだ。市の南部には景勝地・耶馬渓(やばけい)が控え、北部は周防灘に面し、福岡との県境を流れる山国川の河口近くには中津干潟が広がる。こうした大自然の恵みである農林水産品も同市の魅力の一つだ。
高齢化や人口減少によって従事者数が減少するなか、一次産業を盛り上げようと2015年に誕生したのが6次産業商品のブランド認証制度「なかつファイブスターストーリー」だった。耶馬渓の天然素材を自社蒸留して生産されたアロマオイルなど、これまでに40品が認証されている。
「当たり前」に気づいた価値 コンセプトは「大地」「人」

しかし、生産者が加工・販売までを手掛ける6次産業商品は市内には種類が少なく、生産量も限定的。野菜や果物、魚介類といった農林水産品は対象外だったことで「6次産業商品以外にもいいものがたくさんある」との声が各方面から聞かれるようになった。これを受けて市では2022年に若手職員によるプロジェクトチームを組織し、一次産品も対象にした新たなブランド事業に乗り出すことになった。
翌年には商工・雇用政策課の商業部門と農政振興課のブランド推進部門を統合して商業・ブランド推進課を設置。さらに中小機構の地域経済振興支援事業として専門家の派遣を受けることになった。同事業は、地域の支援機関や市町村などと連携して、産地企業・地場産業企業などの中小企業グループ(地域中小企業群)を面的に支援するもの。派遣された大手広告代理店出身の吉田透氏は、化粧品や自動車など国内外300以上の商品開発やブランディングなどに携わってきた。
「中津市にはせいぜい唐揚げのイメージしかなかった」という吉田氏は2023年8月に初めて現地を訪れ、各地に足を運んだ。すると耶馬渓や中津干潟など豊かで変化に富む自然に圧倒され、「日本列島が持つ大自然が中津市には凝縮されている」との感想を抱いた。もう一つ印象的だったのは「げってん」と呼ばれる地元の人たちの気質。「頑固でこだわりを持った人」という意味の方言だ。豊かな自然も「げってん」という気質も地元にとっては昔からある当たり前のものだが、外部から見れば魅力的なもの。プロジェクトチームの一員で商業・ブランド推進課の磯邊裕樹氏は「初めて価値あるものだと気づかされた」と振り返る。
こうして2024年8月、「大地(=恵まれた自然の力)」と「人(=そこで暮らす生産者のこだわり)」をコンセプトにした新しい認証制度「九州・中津 逸品もん」が誕生した。
第1弾の5品を博多でPR、「中津のイメージ変わった」

市は認証商品を公募し、同年11月に第1弾として▽中津干潟で育てたカキ「ひがた美人」(県漁業協同組合中津支部)▽新品種柑橘「マコポン」(おはら果樹園ファーム)▽標高500mの山頂で育てた「吾一の黒豚、吾一豚」(梶原畜産)▽完熟堆肥で生産された米「やまくに誉」(農業公社やまくに)▽餌に米を使った「錦雲豚」(福田農園)-の5品が選ばれた。商業・ブランド推進課の大森矩子氏は「従来の制度では紹介できなかった一次産品を認証できた。いずれも厳しい自然の中で生産者の強いこだわりによって生まれたものばかり」と話す。なお、従来の認証制度の商品も新制度に移行された。

続いて今年2月19日からの2週間、新ブランド制度と初認証の5品をPRしようと、博多マルイ(福岡市博多区)でポップアップストア「なかついっぴんもんマルシェ」を展開した。比較的近い福岡でも中津市の知名度は低かったが、立ち寄った人たちは豊富な海の幸、山の幸に驚き、「中津市のイメージが変わった」との声も聞かれた。なかには試しに買って食べたところ、あまりのおいしさに後日改めて買いに来た人もいたという。
一方で課題も見えてきた。物産展への出展経験はあったが、通常の売り場で一般の店舗と並んで商品を販売するのは初めてだった。「物産展の来場者は最初から各地の名産品を買う目的でやって来る。マルシェでは、店の前を通りかかった人たちにどうアピールすれば足を止めて商品を手に取ってもらえるのかがポイントだった。そうしたノウハウもさらに学ぶ必要があると痛感した」(磯邊氏)という。
第2弾、第3弾と「伝統もん」 商品通じ「ファンになって」

市では今夏に「逸品もん」第2弾を、年度末に第3弾を認証する予定だ。さらに「逸品もん」とは別に、和菓子やソウルフード、伝統工芸品を対象にした「九州・中津 伝統もん」も年度内に送り出す。
商業・ブランド推進課の澁谷正芳課長は「認証商品を通じて中津のことを知ってもらい、さらには、中津を訪れてみたいというファンになってほしい。そのために今後も情報発信などを継続していきたい」と意気込みを語った。また専門家としてアドバイスしてきた吉田氏は「これまでブランディングの仕事を経験してきたなかで予備知識がほとんどない地域を手掛けたのは初めて。それゆえ新鮮な驚きがあり、結果としていいものが発掘・発見できた。ほかにもいいものはまだまだ出てくるだろう」と話し、今後も中津市の魅力向上に協力していく考えを示している。
官庁データ
官庁名:中津市役所 商業・ブランド推進課
Webサイト:https://www.city-nakatsu.jp/
設置:2023年4月
所在地:大分県中津市豊田町14-3
Tel:0979-62-9044(直通)
事業内容:商工業の育成・振興に関すること、商工業団体に関すること、商店街の活性化に関すること、ふるさと納税に関すること、なかつブランドの推進に係る企画・調整に関すること ほか