コロナ禍でがんばる中小企業

学生とのプロジェクトをきっかけに新規事業開拓【株式会社アーティストリー】(愛知県春日井市)

2022年 11月28日

アーティストリー代表取締役の水戸勤夢氏
アーティストリー代表取締役の水戸勤夢氏

1.コロナでどのような影響を受けましたか

アーティストリーが手掛けためがねの展示什器
アーティストリーが手掛けためがねの展示什器

商業施設や住宅向けにオーダー家具や店舗什器などの木製品を製造している。家具職人の仲間が集まり、1994年に創業した。家具職人の多くは腕がよく、技術はしっかりしているが、話下手でコミュニケーションが苦手という人が少なくない。技術だけでなく、コミュニケーション力を高めることで、新たな価値を提案できると考え、モノづくりを通じた「思いやりのある人づくり」と「個性と独創性の尊重」を柱に事業を展開してきている。

通常、内装業界のオーダー家具や店舗什器を製作する職人集団は4、5人のグループでまとまっていることが多いが、当社には20人以上の職人が所属し、東海地区でも最大規模となっている。職人たちの卓越した知識や技術、経験に加え、3DCAD(三次元設計)システムや5軸CNCという複雑な制御が可能なデジタル切削加工機を駆使し、曲線を生かした造形を創り出すこともできる。「5軸×3D×職人」が融合し、顧客の要望に最大限対応できる力を大きな強みとしている。

もともと当社のビジネスは、施主から発注を受けた建設会社や設計会社、内装会社などから受注するケースが多い。元請け会社からのイメージや設計図をもとに家具や什器を製作する。いわゆる、二次下請け、三次下請けのような立場にあるため、自信を持って送り出した製品を「われわれが作った」とアピールできないジレンマを抱えていた。

最先端の5軸CNCを駆使して顧客のニーズを最大限活かしたオーダー家具や店舗什器を製作している
最先端の5軸CNCを駆使して顧客のニーズを最大限活かしたオーダー家具や店舗什器を製作している

「もっと多くの自分たちの技術を知ってもらいたい。多くの人たちに当社を活用してもらいたい」。そんな思いから、2019年ごろから、販路開拓・新規顧客の獲得に向けた営業活動を強化してきた。当社の技術を評価した企業から新たな発注が徐々に増え始め、「これから」というところで、新型コロナウイルスの感染が国内に広がってしまった。

2020年4月以降、感染拡大の懸念が広がり、本格的な外出自粛要請が始まると、新規店舗の出店の動きが急減速してしまった。これまで業界にあった活気は一気に消沈し、当初動いていた計画の中止・延期が相次いだ。それでも海外のロックダウンで、もともと海外で製作する予定だった案件も舞い込んできたが、施主となる企業側は予算を絞り込み、価格競争が激化した。その影響で、コロナ前に比べると、受注数は崖が崩れるように落ち込み、既存売り上げは25~30%減少してしまった。

2.どのような対策を講じましたか

学生たちの製作した「わの休憩所」。前に座る営業開発部長の大西功起氏が先頭に立ってプロジェクトや新規事業を展開している
学生たちの製作した「わの休憩所」。前に座る営業開発部長の大西功起氏が先頭に立ってプロジェクトや新規事業を展開している

まず取り組んだのが、社内でのリブランディング活動だった。2020年4月ごろから、これからを担う若手職人らを中心に3~4カ月かけて議論を重ね、新たな企業ミッションを検討した。そこで打ち出したのが、「Art is Try ~皆の心の中のアートを具現化する担い手であれ」。アーティストリーという社名に重ね合わせたブランド展開だ。そして、「『5軸×3D×職人』という3つの技術を高い水準でコラボレーションさせた製品作りがコアコンピタンス(競合他社を圧倒的に上まわるレベルの能力)である」ということを社内で再認識した。

そんな社内のリブラディング活動と並行して、全国7都市の学生と連携して、「NARAプロジェクト」をスタートさせた。

NARAは「New Artistry Rest Aria」の略称。自社の休憩所を製作するのにあたって、コロナ禍で通常の学生生活を送れない建築家の卵である学生たちと出会い、オンライン産学連携による自社技術を活かした開発を始めた。

全国7都市の学生が参加し、アイデアを議論しながら設計・デザインをやりとりしながら「わの休憩所」を完成させた。曲線美が美しい休憩所はアーティストリーの職人らの手加工と、5軸CNCによって作り上げた。クラウドファンディングを活用して資金を集め、プロジェクトに賛同してくれた取引先から資材の提供を受けるなどして、半年以上をかけて完成にこぎつけることができた。

NARAプロジェクトは当社の新しいビジネスモデルとなった。

このプロジェクトは、当社の強みである3D曲面の製造技術を生かして、日本にはないものを作り、コロナに打ち勝つような広告塔にする目的で取り組んだ。完成した休憩所は2021年のウッドデザイン賞を受賞するなど幅広い分野から高い評価を受けた。これまでわれわれの取引ルートではつかめなかった人たちから「休憩所を見たい」「工場を見学したい」といった問い合わせが相次いだ。同じようにコロナで苦しんでいた経営者や学生たちからの問い合わせも増えた。「わの休憩所」は、「わ(輪・和)が広がってほしい」との思いで名付けたが、本当にいろいろな「わ」が広がった。

北海道・知床のリゾートホテルで手掛けた3D木造サウナ
北海道・知床のリゾートホテルで手掛けた3D木造サウナ

その後、北海道・知床にあるリゾートホテルのサウナ室改装の仕事を受注することになった。曲線を生かした斬新なデザインのサウナなのだが、引き受ける会社がみつからず、当社に声がかかった。もともとは家具屋。サウナ製造は初めてのチャレンジだった。当社がある愛知県春日井市、北海道知床、東京をオンライン会議でつなぎ、同様に3D図面の作成、実物の製作にあたった。完成したサウナは、日本のサウナ施設としては初の木造3Dサウナ。さまざまなメディアに取り上げられ、こちらも大きな話題を呼んだ。ここ数年のブームも相まって、付加価値の高いサウナの製作相談やサウナ愛好家からの交流依頼が増えた。

これまで手掛けていた仕事とは、まったく異なる新しい仕事づくりにつながり、同じくコロナで減っていたホテル、地域への旅行客の呼び水として大きな役割を果たしている。「家具屋だからサウナは作れない」ではなく、当社のミッションである「Art is Try」の精神をもって挑戦したことが結果につながった。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

「CNC LAB」の竣工式。「Art is Try」の新たなチャレンジが始まった
「CNC LAB」の竣工式。「Art is Try」の新たなチャレンジが始まった

一つは建築領域への挑戦だ。2022年に建築家・隈研吾氏の設計案件を手掛ける機会があった。建築建設業の領域では困難な、繊細な3D加工が求められた案件で、当社が製作協力して実現させた。家具職人の繊細な経験・技術と3Dのデジタル技術が業界を越えて活かされた。さらに2021年の事業再構築補助金を活用して、日本にほとんどないサイズの3D加工機を22年秋に導入するが、工場の準備と同時に多方面の設計士に可能性をPRしている。

また、2022年11月12日、春日井市にある本社工場の敷地内に「CNC LAB(ラボ)」を開設した。ここでは単なる生産場所だけではなく、デザイナーや設計者が滞在してもらい、工場で実験したり、新しいものづくりをセッションしたりする場をつくろうと考えている。5軸CNCは当社だけでなく、同業他社も持っているが、まだまだ活用できていないケースが多いのが実情だ。当社がオープンソースとして、業界に技術を教える取り組みを考えている。うちの工場に来れば、機械の選定から使い方、戦略も習得できる。うちだけが高度な加工技術を抱え込むのではなく、業界全体で共有することで、業界全体の対応力がついてくる。

「こんな木質空間を作りたい」という設計者や施主が普通に業者に相談して、豊かな木の空間が増えると、国が推奨する木材活用にもつながり、カーボンニュートラルにもつながる。「競争」ではなく「協奏」することで、業界全体の活性化に貢献していきたい。

企業データ

企業名
株式会社アーティストリー
Webサイト
設立
1997年2月
資本金
1000万円
従業員数
35人
代表者
水戸勤夢 氏
所在地
愛知県春日井市西本町3丁目260
Tel
0568-33-3719

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