あすのユニコーンたち

CANDDY技術で創薬の世界にゲームチェンジを起こす【株式会社FuturedMe(東京都中央区)】

2024年 10月 10日

チームで創薬プラットフォームを目指す
チームで創薬プラットフォームを目指す

創薬の世界に地殻変動を起こす可能性を秘めているスタートアップ企業として注目されているのが、株式会社FuturedMe(フューチャードミー)。一つの新薬を開発するだけではなく、新薬開発のプラットフォームになることを目指している。同社が開発したたんぱく質分解技術「CANDDY(キャンディー)」を用いて、患者一人ひとりの標的(病気の原因分子)に対する治療薬を届けることを目指すという。解決すべき課題は、現在の阻害型の治療薬では全体の25%の標的にしか対応できない問題で、残りの75%は創薬困難な標的と言われている。世界の患者に救いをもたらすには、創薬に詳しい投資家や事業パートナーとなる医薬品メーカーとの連携が欠かせない。

100%の標的に薬をつくれる技術

CANDDY技術は標的そのものを分解する
CANDDY技術は標的そのものを分解する

FuturedMeは宮本悦子代表が、東京理科大学教授として、自身の研究室の成果であるCANDDYをもとに2018年に設立した。CANDDYは、生体内のタンパク質分解現象を利用して、小分子を用いて病気の原因になるタンパク質(標的)を、「阻害」ではなく「分解」に誘導する「標的タンパク質分解創薬技術」。従来の薬はタンパク質を阻害する手法を採用しているのに対し、CANDDYは人間の体内に備わっているタンパク質の分解装置であるプロテアソームを利用することで、原理的に分解できない標的はなく、100%の標的に薬をつくれる可能性がある。また、原理的に、疾患特異的で副作用を軽減できる可能性がある。これが創薬の世界でゲームチェンジを起こす可能性があると期待されているゆえんだ。

ゲノム医療が最も進んでいるのが「がん」の領域だ。ゲノム解析技術が進んだことで、がんの発生に関係するがん関連遺伝子が複数発見されている。日本でもこのがん関連遺伝子を調べる検査「がん遺伝子パネル検査」が保険適用され、多くのがん患者が自分の標的を知ることができるようになった。しかし、治療薬がある標的はごく一部なのである。同社はCANDDY技術で100%の標的に薬をつくれる可能性に挑戦する。

同社は中小機構のインキュベーション施設「東大柏ベンチャープラザ」に研究拠点を置き、インキュベーションマネージャーなどから、資金/資本調達、技術提携など幅広い支援を受けながら事業化を目指している。2023年12月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ディープテック・スタートアップ支援事業 STSフェーズ(実用化研究開発<前期>)」に採択されるなど、国が期待するスタートアップ企業の1社である。

研究者から起業へ

特許を取得し、多数の機関から評価されている
特許を取得し、多数の機関から評価されている

宮本代表は民間企業からアカデミアの道に転じた。分子生物学者として、メッセンジャーRNAディスプレイ(IVV)の発明者の1人であり、それを応用した研究やゲノムプロジェクトに参画するなど、日本のバイオ研究者としてキャリアを築いてきた。メッセンジャーRNAディスプレイは、日本発の創薬プラットフォームビジネスを展開するペプチドリームの基盤技術ともなっている。転機となったのは、東京大学医科学研究所に自分の研究室を持ち、研究に取り組んでいた時のことだった。教授総会で臨床医から「宮本先生の研究はどのように臨床の役に立つのか」と聞かれ「メッセンジャーRNAディスプレイは、病気の原因因子の標的を同定できるので、同定した標的に薬を創れば役に立つのでは」と答えた。「じゃあ製薬会社に相談してみたら」とアドバイスをされた。そこでさっそく製薬会社の担当者に伝えたところ、返ってきたのは「そんなに簡単に薬は創れません」というつれないものだった。

そう言われるとがぜん実現させてみたいと思うようになった。生体内には、タンパク質をつくる装置と壊す装置がある。当時研究していたメッセンジャーRNAディスプレイは、生体のタンパク質をつくる装置を利用するものだった。「CANDDYは、生体内の仕組みで、タンパク質を壊す装置を使うというシンプルな発想で取り組んでみようと考えた」という。そこから、プロテアソームによるタンパク質の直接分解技術CANDDYが誕生した。CANDDY技術はさまざまな疾患の標的に適応できる。同社はまず、「がん」の領域で薬のつくれないことで有名な標的、RASのCANDDYをつくり、プロテアソームによる標的の直接分解を証明し、ヒトのすい臓がんや大腸がんの細胞を移植したマウスの実験でがん細胞が増えるのを抑えた結果を発表した。

創薬プラットフォーム型ビジネスモデル

さまざまな標的に対応するCANDDYタグを提供する
さまざまな標的に対応するCANDDYタグを提供する

同社の目標は、一つの新薬を開発することではなく、CANDDYによる分解創薬支援プラットフォームを構築することにある。ビジネスモデルは、さまざまな標的や疾患に対応するCANDDYタグ(プロテアソームに対して親和性を持ち分解を誘導する化合物)を多数用意して、薬をつくれない問題を抱えている製薬会社が持つ創薬困難な標的の阻害剤や結合化合物を利用して、同社のCANDDYタグを組み合わせることで、新薬を共同開発する。共同研究によるライセンス料、アップフロントやマイルストン、ロイヤリティによる収益を計画している。すでにCANDDYは「広くて強い基本特許」を日本、米国で登録済みで、EUや中国などで出願中(宮本代表)。最初から世界市場を視野に入れている。

宮本代表が考える事業化モデルは「ペプチドリーム型プラットフォーム」だという。ペプチドリームは大学発ベンチャーとして、メッセンジャーRNAディスプレイに基づく環状ペプチド技術による創薬プラットフォームビジネスで脚光を浴び、日本最大のバイオテック企業へと成長した会社。宮本代表は研究者時代にペプチドリームをはじめ、国内外で、メッセンジャーRNAディスプレイ技術を基盤とした多くのベンチャーが誕生するのを見てきた。しかし、成功と言える成果を上げたのはペプチドリームだけだった。「技術だけでなく、ビジネスモデルがしっかりしていないと事業として成功することは難しい」と思い知った。まさにスタートアップ企業が陥る“魔の川”をこの目で見てきた。

事業化に向けた体制づくり

原田東大柏ベンチャープラザチーフインキュベーションマネージャー(左)はよい相談相手
原田東大柏ベンチャープラザチーフインキュベーションマネージャー(左)はよい相談相手

こうした経験を踏まえ、経営体制も事業化を意識したものとした。宮本代表がCEO(最高経営責任者)になるとともに、COO(最高執行責任者)には協和キリン子会社の協和メデックス社長を務めた経験のある柳田誠取締役を迎え、研究開発と事業化を二人で担う体制とした。また、アドバイザリーボードには血液がん、固形がん、免疫学の専門家を招き、同時に国際特許を専門とする特許事務所所長も参加し、研究と知財戦略を固めた。NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業に採択されたことで、新たにアドバイザリーボードに、製薬会社が参加し、さらに、株式会社ケイエスピーによるハンズオン支援も受けることになった。ケイエスピーは、ペプチドリームの創業者である窪田規一氏が代表を務めるベンチャーファンド(VC)。同社が目指すプラットフォーム創薬開発を推し進めるには最適な支援者だ。

宮本代表は中小機構のスタートアップ育成支援事業「FASTAR」にも参加し、経営者としてのスキルを一から習得した。事業計画の作り方や貸借対照表などの財務データの読み方、資本政策など経営者として持つべき素養を学んだ。「会社経営をしながら参加することは大変だったが、とてもいい学びの機会になった。今では自分で資本政策を作れるようになった」と振り返る。また、入居する東大柏ベンチャープラザの原田憲一インキュベーションマネージャーには、経営や人事政策、投資先の選定などさまざまな相談に乗ってもらっている。「壁打ち相手というか、社内の人に相談できないようなことも聞いてもらっている」と信頼を置いている。

すべての人にマイメディシンを

宮本悦子FuturedMe代表
宮本悦子FuturedMe代表

同社はNEDOのSTSフェーズにおける研究開発が順調に進み、次のPCAフェーズでの事業化に向けて新たな資金調達を計画している。すでにさまざまなVCと資金調達の交渉を開始している段階だ。また、引き続き、製薬会社からは、事業化のための具体的なアドバイスを受けながらNEDOの研究開発を進める予定。分解創薬の全体の市場規模は20兆円以上であり、がん治療薬は10兆円市場と言われている。CANDDYプラットフォームはどこまで成長する可能性があるのか。分解創薬の世界で同社とは異なる技術で先行する米国のスタートアップ企業は大手製薬企業と契約し、2500億円もの企業価値があると評価されたことが参考になる。同社の技術はその米国企業より「まず、概念的な国際特許がある点、標的を直接分解できるため標的の制限がない点で優位性がある。また、疾患特異性が期待できる点はユニークだ。」(宮本代表)と言う。同社には大きな期待が寄せられるが、まずはプラットフォームビジネスで、具体的な成果を示すことが重要だ。宮本代表は「未来、自分のスマートフォンに自分のゲノム情報が入っていて、『前の検査からここが変わったから、将来こういう病気になる可能性があります。でも、あなたのためのマイメディシンがあります』と言える未来を作りたい」という。多くの支援と多くの企業努力を積み重ね、実現を果たしてもらいたい。

企業データ

企業名
株式会社FuturedMe
Webサイト
設立
2018年6⽉
資本金
8000万円
従業員数
8人
代表者
宮本悦⼦ 氏
所在地
東京都中央区⽇本橋本町2-3-11
事業内容
CANDDYプラットフォーム(タンパク質分解創薬プラットフォーム)を用いた既存の技術では創薬困難な標的(アンドラッガブル・ターゲット)の医薬品開発