あの人気商品はこうして開発された「飲料編」

「ヘルシア緑茶」体脂肪を減らす飲料づくりをめざす

「あの人気商品はこうして開発された!」 「ヘルシア緑茶」-体脂肪を減らす飲料づくりをめざす 体脂肪を減らす効果のあるお茶をつくる。この発想からヘルシア緑茶づくりは始まった。そして2003年、米国も日本も国民の肥満に関心が集まる中、ヘルシア緑茶は発売と同時に大ヒットとなる。 お茶の飲料市場は激戦区にもかかわらず、後発メーカーがその市場に打って出た真意はなんだったのか。

『デブの帝国』-

この本が米国でベストセラーになったのが2003年だった(グラッグ・クライツァー著、副題は「いかにしてアメリカは肥満大国となったのか」)。日本でも翻訳本が出版されて大きな話題を呼んだ。

奇しくも同じ03年、花王から「ヘルシア緑茶」が発売され爆発的ヒットを飛ばす。「体脂肪が気になる方へ」のキャッチコピーとその効能が消費者から絶大なる支持を得たのだ。それだけ肥満を気にする人が日本にも増えていたことが、ヒット商品につながる遠因にもなった。

その遠因を裏付ける1つの調査結果が01年に公表されていた。厚生労働省の国民栄養調査の結果だ。

「男性は30代以降、女性は50代以降の3人に1人が“肥満”」

この衝撃的な調査結果は、日本人の体格も米国のように“肥満大国”に傾き始めている警告のようだった。

カテキンへの注目から始まった

そんな世の傾向を事前に察知してか、花王は00年にヘルシア緑茶の開発に着手していた。トイレタリー・化粧品最大手の花王が飲料部門に進出した第1号商品の開発スタートだった。

当時の状況について、フード&ビバレッジ事業グループのブランドマネジャー、川北昭人さんは説明する。

「当社はヘルシア緑茶以前から栄養代謝や肥満の研究に取り組み、いわゆる健康市場に向けた商品開発に熱心にチャレンジしていました。その結果として、体に脂肪がつきにくい食用油の開発など成果を挙げることもできました。

その商品開発の一貫として、さらに体脂肪を減らす効果のある素材を探していたところ、ポリフェノールの1つである茶カテキンにその作用があることがわかり、それに注目しました」

体脂肪を減らす。その研究課題を追究するため100種以上の植物系素材を候補として調べ、最も脂肪低減効果の大きい茶カテキンに絞り込んでいった。

また、日本人の緑茶飲用頻度を調査した結果、夏でも週に1回以上お茶を飲用する人が7割に達していた。

「茶カテキンを活用して体脂肪を減らす食品を考える上で、緑茶飲料の市場調査を参考にしながらヘルシア緑茶にたどり着きました。お茶の市場がおもしろそうという単純な発想から新規参入を決めたのではなく、あくまで生活習慣病対策の観点から、現代人の健康不安に役立つという考えが基盤でした」(川北さん)

その結果、日本人に馴染みのある緑茶葉由来のカテキンを用いた健康市場向け食品として、緑茶飲料を開発するという結論に達した。00年のことだった。

飲むにはあまりにも苦すぎる!

「茶カテキンを活用して体脂肪を減らす。そのテーマを追求した結果、ヘルシア緑茶が開発されました」
フード&ビバレッジ事業グループ・ブランドマネジャーの川北昭人さん

新商品のコンセプト(体脂肪を減らす効果のある茶飲料)と素材(茶カテキン)が決まった。が、ここからが苦難の始まりだった。いや、苦難ではなく“苦痛”という表現のほうが正しいかもしれない。

「最初の試作品はとても飲めたものではありませんでした」(川北さん)

苦かった、いや、苦すぎたからだ。それもそのはず、普通に飲むお茶の数倍の苦みがあったのだ。ではなぜ、そんなに苦い試作品になったのか?

それは350 mlの容量のお茶に540 mgもの茶カテキンが含まれていたからだ。茶カテキンは苦みの主成分であり、540 mgという量は普通のお茶の3-4倍にも上る。花王の研究所で繰り返し研究した結果、540 mgは体脂肪を低減する効果として最も望ましい値だった。が、それはあまりにも苦すぎた。飲むことに“苦痛”を覚えるほど苦いお茶になっていた。

この茶カテキン特有の苦み・渋みをどう飲みやすく変えるか。苦痛のつぎには苦難が始まる。茶カテキンの苦みを抑えるための苦難だった。

「最初に飲んだ試作品はあまりにも苦く、渋く、とても飲めたものではありませんでした。しかし、これを商品化するために茶カテキンの配合量を減らしたのでは元も子もありません。この茶カテキンの配合量でも消費者に飲んでいただけるようにするにはどうすればよいか。これには四苦八苦しました」

緑茶の苦み・渋みの主成分であるカテキンは、それに含まれる成分によって人が舌に感じる苦み・渋みが変化する。ということは、茶カテキンと相性の良い成分だけを残せば苦み・渋みを軽減できることになる。そこで研究チームはそのための抽出技術に磨きをかけた。

そして約2年をかけて、風味を損なわず苦み・渋みを大幅に軽減した緑茶づくりにこぎつけた。消費者テストも何回も繰り返し、これならおいしく飲めるという「深みのある味わい」(川北さん)を導き出した。

コンビニがコンビニへ買いにいく

03年5月、ヘルシア緑茶は特定保健用食品(トクホ)として発売された。350mlのお茶で540mgという高濃度茶カテキンを摂取する。それによる体脂肪低減効果については、臨床実験によりその有効性と安全性などの綿密なデータを取得。それをもって厚生労働省にトクホの申請を提出し、「茶カテキンを豊富に含んでいるので、体脂肪が気になる方に適しています」という表示の許可を得た。

ちなみにトクホとは、商品のラベルに健康への効能効果を表示できる国の制度だ。

「お茶としては初めて体脂肪低減機能をうたったトクホ飲料です。厚労省から認可を得るまでには、研究チームは相当の苦労をしました」(川北さん)

ブランド名の「ヘルシア」は、ヘルシー・アシストの造語。「健康に役立ちたいという願いをこめた」(川北さん)ネーミングだった。価格は350ml入りペットボトル1本が180円。発売当時の他の清涼飲料がおおむね120円だった中で、思い切った価格を設定した。また、発売地域も関東甲信越1都9県のコンビニに限定した。

2003年に発売された「ヘルシア緑茶」。茶飲料では初めて体脂肪低減機能をうたったトクホ飲料だった

清涼飲料の市場では、1年間に発売される新商品は約800アイテムにも上る。しかし、ほとんどが瞬時にして姿を消していく。俗に「千三つ」(1000の新商品のうち生き残れるのが3つ)といわれる超激戦市場なのである。

しかし、ヘルシア緑茶はその激戦市場で爆発的ヒットを飛ばす。発売当初、薬事法規制により効能効果をストレートにうたえないため、「ガツン・ガツン・ガツン」というオノマトペ(擬声語・擬態語)を用いたテレビCMで体脂肪低減機能を印象づけた。その効果も重なり、ヘルシア緑茶はまさに飛ぶように売れ、出荷に生産を間に合わせるのに苦心するほどだった。

そのヒットを象徴する1つの逸話がある。地域限定で発売されたヘルシア緑茶のうわさを聞きつけ、九州など他のエリアのコンビニが、新商品を仕入れるために首都圏のコンビニへ買いに来たという。発売間もないヘルシア緑茶はそれほど注目を集めたのだった。

ヘルシア緑茶に含まれる茶カテキンの原料はケニア産の茶葉。世界各地の茶葉を検討した結果、最も良質な茶葉を安定して確保できるからである。実は初年度に発売エリアを限定したのも、新商品の需要に対して原料を確保できる予測が立てにくかったこともあった。

ただし、03年末までには大量の茶葉の安定確保の見通しがつき、04年からは全国へと販路を拡大した。この時点の販売チャネルはコンビニだけだったが、年間売上げ300億円を超えるビッグセールスを記録した。さらにその後、販路を拡大するため販売チャネルをスーパーマーケットにも拡充していった。

飲みやすさを追求し続ける

メタボリックシンドローム検診が始まった08年、ヘルシア緑茶もリニューアルを敢行した。従来のヘルスクレームである「体脂肪が気になる方に」だけでは訴求力が弱い。そう判断して表示に体脂肪の低減のメカニズムである「脂肪を消費しやすくする」を追加しトクホに再申請し、表示の許可を得た。体脂肪の低減効果をわかりやすく伝えるためのキャッチコピーの変更だった。その効果も相まって、08年には購買層の拡大もあり売上が伸張した。

「脂肪を消費しやすくする」をパッケージに追加してリニューアルしたヘルシア緑茶。体脂肪の低減効果をさらにわかりやすく訴求した

体脂肪を低減する効果のある茶飲料。この商品コンセプトはわかりやすく、かつ強烈なインパクトがある。さらに「トクホ」という冠も戴している。そこで同社では、「トクホ」という強みを活かした販売戦略を展開している。例えば、スーパーに対しては売り場にトクホのコーナーを提案し、全国1200店舗でそれが実施されている。来年度には2000-3000店舗への拡大を目標にしている。さらには、トクホ飲料で競合するメーカーとの共同の売り場づくりもスーパーに提案している。

このような販売戦略の一方で、飲みやすさへの追求も怠らない。高濃度茶カテキンの茶飲料をいかに飲みやすくするか。そのためにヘルシア緑茶の抽出技術の検討はいまも継続的に進められているのである。

企業データ

企業名
花王株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役社長執行役員 尾崎元規
所在地
東京都中央区茅場町1-14-10
Tel
03-3660-7111

掲載日:2010年12月 8日