2026年 5月 15日

大希企画株式会社の宮川大輝社長
大希企画株式会社の宮川大輝社長

少子高齢化の進展で全国の空き家問題が深刻さを増している。総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は約900万戸に上り、総住宅数に占める割合は約14%と最高水準となっている。空き家を放置すれば、老朽化による倒壊や火災、治安の悪化など地域社会に大きな影響を与えることになりかねない。そんな社会課題の解決に挑んでいるのが、東京・神奈川を拠点に不動産・リフォーム事業を中心に展開している大希企画株式会社だ。同社の宮川大輝社長は、創業者の父親に幼少期から叩き込まれた経営理念を胸に不動産ビジネスと社会貢献の両立への挑戦を続けている。

売上高100億円は空き家問題解決への布石

空き家となったマンションのLDKルームのリフォームの様子
空き家となったマンションのLDKルームのリフォームの様子

「事業規模としては、さらに大きくしたいと考えています。ただ、単に大きくするだけでは意味がありません。不動産業を通じて、社会課題にも向き合っていきたいと考えています」。宮川社長は2029年に売上高100億円の実現を目指すと宣言している。ただ、それはあくまでも空き家問題解決へ向けた取り組みの延長線上にあるとの認識だという。

父親の邦博氏が同社を創業したのは1988年。住宅リフォーム・不動産業としてスタートし、現在も中核をなすのは不動産事業部とリフォーム事業部だ。社会課題をビジネス機会へと転換する循環型のビジネスモデルで、二代目である宮川社長になってから本格的に空き家問題に取り組んでおり、これまでに累計1000件以上の空き家をリフォーム・再販している。同社は国土交通省の「空き家・空き地の利活用モデル事業者」に複数回採択されている。そのエンジンとなっているのが、2019年に宮川社長が立ち上げた士業ネットワーク「士希の会」だ。弁護士や司法書士、税理士、不動産鑑定士などと連携し、空き家問題の解決に取り組んでいる。同会には現在、600以上の士業事務所が加盟し、相続関連事業を行う200以上の葬儀社や遺品整理会社などが協力店として登録している。宮川社長は空き家問題に取り組むなかで、空き家問題が相続や認知症といった課題と密接に関連していることを知り、各分野の専門家と連携し支援することが重要だと考え、同会を設立したという。

約900万戸の空き家のうち特に深刻なのが「放置型空き家」だ。賃貸・売却用や別荘などの利用予定がある空き家を除く「使用目的のない空き家」は約385万戸、総住宅数の約6%を占めている。放置型空き家になる理由は様々だが、別居している地方に住む親が亡くなったり、自宅を所有する親が老人ホームに転居してしまったりするケースが多いようだ。士希の会には「相続した古い実家を売りたいが、地元の不動産屋に相談したところ、建物が古いうえに、立地が崖地のため取り壊すのが難しいと断られた」「夫が亡くなり、繁華街にある古い賃貸ビルを相続したが、旧耐震基準で建物の状態が悪く、賃貸管理も難しい」といった難しい相談が寄せられる。いずれもリフォームして売却あるいはリフォームして引き続き保有という形で解決し、放置型空き家になるのを防いだ事例だ。

社会課題解決型不動産モデルの原点は父親の経営理念

父親の故・宮川邦博氏から経営理念を学んだ
父親の故・宮川邦博氏から経営理念を学んだ

宮川社長がこうした社会課題解決型の不動産モデルに取り組む原点は、創業者である父親の姿勢だ。「幼いころから、父の影響は大きかったですね。社員が自宅に来て一緒に食事をする機会も多かったし、外食の場を設けて社員の誕生日を祝ったりもしました。家族と社員が同じテーブルを囲むのが当たり前の環境でした。そうしたなかで父からよく言われていたのは、『お前たちが今、生活できているのはこの人たちが頑張ってくれているからだ』という言葉です」

父親から学んだのは「従業員を大切にする」という思いだけではない。チームワーク、顧客志向、協力業者との共存共栄といった考え方も、父親の後ろ姿から学んだという。宮川社長はこうした父親の経営理念を今も引き継いでいるが、「経営理念というより生活の一部でした」と話す。

宮川社長は大学卒業後、総合不動産会社や不動産投資会社に勤務。実は宮川社長は当初、家業を継ぐのではなく独立を考えていた。しかし、父親にいろいろと教えを乞うなかで、「ここ(家業)で頑張るのも一つの選択肢だ」と思うようになった。大希企画に入社したのは2014年。最初はこれまで勤めてきた不動産会社とのギャップに驚いたという。宮川社長が勤務していた不動産会社は、家賃が数百万円といった高級物件を扱う不動産会社。しかし、家業では空き家ばかりでなく、家賃が1万円~2万円という低価格帯のアパートも取り扱う。宮川社長は「最初は戸惑いもありましたが、高い安いではなく、それぞれの物件に役割があるという考え方に変わっていきました」と話す。

社長に就任したのは2024年。父親が病に倒れたのがきっかけだった。闘病期間は約5年に及び、徐々に実務を引き継いでいくことになる。「準備していたとはいえ、やはり実際に任される重みは違いました。父が亡くなったことで、完全に自分が責任を負う立場になったという実感がありました」という。

中期経営計画作成と人事評価制度見直しで成長軌道へ

宮川社長が社長に就任して最初に取り組んだのは組織改革だった。当時は古参社員を中心に離職が相次ぎ、50人規模の社員数を目指していたにもかかわらず、25人前後を行き来するばかり。理由は「自分の未来が見えない」。社名である「大希」には邦博氏が大切にしてきた「希望」の意味が込められているだけに、ショックを受けたという。

そこで宮川社長が取り組んだのが、5年先を見据えた中期経営計画の作成とそれに伴う人事評価制度の見直しだ。それまでは単年度ごとの経営計画で、売り上げや利益といった数字目標だけを追いかける形だったが、新たな評価制度に経営理念を落とし込み、チームワークや素直さ、主体性といった数字以外の項目も評価対象に加えた。例えば、チームリーダーであれば、宅建を所持していない新入社員向けに勉強会を開催して合格率を上げるといった取り組みも高く評価するという。営業が苦手でも、人に業務を教えることに適性がある社員もいれば、事務よりも営業に向いている社員もいる。新評価制度を通じてそれぞれの社員の適性をみて人事異動を行うようにしたところ、これが業績アップにもつながっている。実際に売上高は新評価制度を導入した2023年3月期の26億円から年々増加し、2026年3月期には40億円超を見込む。

今年4月からは、若手発案の勤続表彰制度「サンクス・ジャーニー」を従来のカタログギフト贈呈から、旅行券と特別休暇をセットで付与する「人生支援型」に刷新した。「お客様に理想の暮らしを提案する私たちが、まず自分自身の人生を豊かに企画すべきではないか」との提案から実現した。「社員あってこその会社」という宮川社長が掲げる経営理念はますます進化している。

遺贈寄付事業で「負動産」問題の解決目指す

宮川社長(右)が理事長を務めるNPO法人相続・不動産サポートセンターは昨年9月、横浜市社会福祉協議会と遺贈寄付に関する協定を結んだ
宮川社長(右)が理事長を務めるNPO法人相続・不動産サポートセンターは昨年9月、横浜市社会福祉協議会と遺贈寄付に関する協定を結んだ

宮川社長が現在、力を入れているのが「遺贈寄付(包括遺贈)」事業だ。遺贈寄付は社会貢献活動に役立てることなどを目的に、遺言によって、遺産の一部または全部をNPO法人や公益法人、学校法人などの団体に無償で譲渡することを指す。日本承継寄付協会によると、遺贈寄付の認知度はこの2年間で10.5%上昇し、全体で60%を超え、70代では84.5%に達している。

だが、遺贈寄付を巡っては不動産がネックとなり、受け取りを拒否されるケースは多い。固定資産税や解体費用など所有しているだけで現金が流出していくリスクのほか、土地の境界確定や共有持分など他者の同意が必要といった権利関係のリスクがあるためだ。いわゆる「負動産」である。大希企画では毎週土日に相談会を行っているが、「おひとり様」の相続対策や、地方の空き家・空き地といった不動産処分に関する相談が増えているという。「遺贈寄付を手掛けている団体の方と話すと、社会貢献したいという熱い思いを持ってやっている。何かお手伝いができれば」と思い立ち、2024年8月に立ち上げたのが、士希の会による遺贈への取り組みをサポートする「相続・不動産サポートセンター」だ。士希の会、サポートセンター、大希企画が連携し、不動産が含まれることで遺贈寄付ができない寄付者の財産をサポートセンターが受遺者として一旦すべて受け取って換金し、寄付者の意向に沿った非営利団体などに助成する仕組みだ。遺贈寄付の推進に向け、川崎市・横浜市社会福祉協議会・豊島区民社会福祉協議会と遺贈寄付に関する協定を締結するなど、遺贈寄付を通じた社会貢献活動を強化している。

実は宮川社長のこの取り組みにも父親の姿勢が反映されている。邦博氏は生前、様々な団体に寄付を続けていた。宮川社長自身も父親の遺志を継いで相続財産の一部を寄付している。宮川社長は「父は日本のためにとか、若者にもチャンスを与えたいというのをよく言っていたので、(父の財産を寄付することで)父の思いが生き続けているような気がします。この活動をさらに広げたいと思っています」と話す。

空き家再生年間500件目標に全国展開へ

千葉県館山市で長年放置されていた空き家(左)をフルリノベーション。一棟貸しの宿泊施設として2026年5月1日にオープン
千葉県館山市で長年放置されていた空き家(左)をフルリノベーション。一棟貸しの宿泊施設として2026年5月1日にオープン

宮川社長は2029年に売上高100億円を実現するとともに、社員数100人も達成したいと考えている。この4月に新入社員5人が入社し、社員数は60人になり、徐々に目標に近づいてきている。「会社が大きくなればなるほど、それだけ社会貢献できる規模も大きくなると思います」と語り、父親の夢である「100年企業」を実現するという目標も掲げている。

「今は年間150件の空き家を購入し、リフォームして再販しています。売上高100億円を達成するには、年間500件を達成する必要があります」と宮川社長は意気込む。現在は一都三県を中心に事業を展開しているが、将来的には全国に拡大したいという。特に地方の空き家問題は深刻で、「士希の会」との連携を強化し、全国規模での空き家問題解決に向けた取り組みを進めたい考えだ。

宮川社長の好きな言葉は「貢献を先に、理を後に」。「相手に感謝の気持ちを持ったり、相手のことを慮って自分がどう行動するかということを考えたりしているときが、一番事業が伸びた時期だった」と振り返る。「不動産ビジネス」と「社会貢献」の両立を目指す宮川社長の取り組みは、空き家問題という日本社会が抱える社会課題の解決とビジネスが並び立つものであることを示唆している。

企業データ

企業名
大希企画株式会社
設立
1988年5月
資本金
3000万円
従業員数
60人(2026年4月現在)
代表者
宮川大輝 氏
所在地
神奈川県横浜市市ケ尾町1055-21
事業内容
リフォーム事業と不動産事業