2026年 5月 22日
大手メーカーの再編・統合は、中小企業にとっては「リスク」にも「チャンス」にもなる。大阪府東大阪市を拠点とする金属加工製造業の株式会社ハタメタルワークスは主要取引先の電池大手の経営統合で発注が激減し、廃業寸前に追い込まれるというピンチに陥りながらも、それをチャンスに変えた企業だ。3代目の畑敬三社長が打ち出した「銅加工特化」「多品種・小ロット・短納期」「早上がり制度導入」という3つの改革を軸に右肩上がりの成長を続けている。
取引先の電池大手統合で受注激減し廃業危機
同社の創業は1935年6月。主に近畿日本鉄道(近鉄)の鉄道部品を調達して納入する仲介業者として畑社長の祖父が立ち上げた。父親の時代に湯浅電池との取引が増加したため、1988年に畑鉄工所を設立して本格的に製造業に参入。湯浅電池の下請けとして銅加工も取り扱っていたが、主力は鉄関係だったという。
畑社長は大学を卒業後、繊維や化学品、機械の専門商社「蝶理」に入社し、生地を扱う営業マンとして各地を飛び回っていた。そんな中、家業のほうは2004年に取引の大半を占めるユアサコーポレーション(旧湯浅電池)と日本電池が合併したことで、下請け整理のあおりを受けて取引が激減。翌年3月期の売上高は約1億5800万円まで落ち込んだ。実質的な赤字で、父親は廃業を考えていたという。畑社長は当時を振り返り、「父親は継がなくていい、もう辞めたいと言っていました」と打ち明ける。「でも、このままやめるのはもったいない。働いている人もいる。父親が病気になったのを機に、どん底だった2005年に畑鉄工所に入社しました」と家業を継いだ動機を語る。
「多品種・小ロット・短納期」戦略で成長軌道へ
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用途に応じた様々なプレス機を完備。小ロットの加工も得意だ -

板金を曲げたり丸めたりするプレス機。注文1個から対応可能
「入社してすぐにこのままではだめだと思いました。父親も好きにやっていいと言っていましたし、それなら好きにやらせてもらおうと」。「このままではだめだ」と思ったのは、取引先が数社しかなかったことだ。電池大手の下請けをメインとしていた同社は、大幅な値下げ要望に応じざるを得ないケースもあり、現状維持のままでは成長が望めない状況にあったのである。
こうした下請けビジネスモデルの打開に向け、畑社長がまず考えたのは他社との差別化だ。そこでまず打ち出したのが銅加工への特化。それと並行して「多品種・小ロット・短納期」を追求するという戦略を導入した。きっかけは取引先などから「短納期で小ロットの仕事をやってくれるところがあれば」という要望を聞く機会が多かったからだという。銅は柔らかく粘り気があり、熱を持ちやすいため、加工が難しい。だからこそ他社が敬遠しがちな銅に特化し、取引先のニーズに応じて、様々な品種の小ロット製品を短期間で納入できれば、取引先を増やすことができるのではないかと考えたのだ。この戦略は見事に当たり、2006年3月期の売上高は約3億1800万円と倍増。入社当時、数社しかなかった取引先は今では全国約350社に拡大している。
同社は配電盤、電池メーカーや鉄道の部品などに使用される銅加工を主に手掛けているが、薄板の小物から厚物の大きなサイズまで1個からの注文も受け付けており、最短で翌日の納品が可能だ。「多品種・小ロット・短納期」という戦略は、同社の銅加工製品の価値と価格面での交渉力を高め、競合の少ないニッチなポジションを確立する原動力となっている。
畑社長が同社の立て直しに成功したのは、蝶理の営業マン時代の経験も大きかった。「商社は自社製品を持たないので、誰がどういうものをほしがっているのか、どこでどういうものを作ったらうまくできるのか、そういったことを一生懸命勉強していました。そうした情報収集がすごく大事なんです。これは製造業も一緒だなと」と振り返る。商社時代に培った取引先のニーズを汲み取ろうという姿勢が、ものづくりの現場でも活きているわけだ。
働き方改革の先駆者、「早上がり制度」を導入
この戦略を導入した当初は、ベテラン職人の反発もあり退職者も出たが、この経営方針に理解を示した人材が残り、組織の一体感は強まった。現在の「多品種・小ロット・短納期」戦略を支えているのは、この職人たちだ。
だが、多品種・小ロットだけでも手間がかかるのに納期も短いため、仕事量は増えて残業が常態化。畑社長は「従業員は午前9時の始業から午後10時ごろまで仕事をしていました。土曜日も仕事です」と振り返る。そんな過酷な環境を変えたのは2008年9月に発生したリーマン・ショックだった。リーマン・ショック前の2008年3月期の売上高は約5億2000万円だったが、リーマン・ショックの影響を受けた2009年3月期は約4億1900万円に落ち込んだ。「だらだら仕事をするのが嫌い」という畑社長は、仕事が減っていることもあって、仕事が終われば午後6時の定時前でも帰宅してもいいことにしたという。
職人からは「本当に早く帰っていいのか」との声も出たが、2009年に正式にこの「早上がり」を制度として導入したところ、職人の意識も変化。「どうすれば効率的に仕事を早く終わらせることができるか」との意識が高まり、短納期案件への対応力も向上した。その結果、一人当たりの就業時間が約4割減少するとともに生産性も向上。この15年間で30%の賃上げを実現している。
畑社長がリーマン・ショックを機に取った“逆張り戦略”はもう一つある。企業のリストラが進む中、逆に採用を増やしたのだ。「今なら良い人材が採用できると考え、4人を中途採用しました。今も活躍しています」。働きやすい環境が職人の定着と競争力向上という好循環を生んでいるのだ。早上がり制度の導入以降、同社の売上高は右肩上がりで成長を続け、2026年3月期は当時の3倍近くとなる約13億円を見込んでいる。
ウェブサイト「銅加工.com」開設で問い合わせ増加

一連の改革に加えてウェブ戦略も成長を後押ししている。2006年に当時の中小企業では珍しかったホームページを立ち上げ、その10年後には銅の加工にまつわる情報を発信するウェブサイト「銅加工.com」も開設した。
「銅加工.com」では、金型を使って加工物に圧力をかけて変形させる「プレス加工」、溶かしたロウを金属の間に流し込んで、部品同士を接着させる「ロウ付け」、銅加工の過程で発生する出っ張りやトゲを取る「バリ取り」、穴を開けた加工物に工具を差し込んで、雌ネジ(部品の内側に刻まれたネジ山)が入る筋を作る「タップ加工」など様々な銅加工技術を詳しく解説。畑社長がブログで、具体的な銅加工技術や金属の材質の特徴、銅の最新事情を紹介している。
畑社長は「オリンピックの金メダルは主に銀でできています。銀に金メッキをしているんですね」と話す。ブログには金メダルは純金製ではなく、本体の約92・5%が銀であることなど、あまり知られていない貴重な情報が掲載されている。今ではウェブサイトは重要な顧客獲得チャネルとなっており、ホームページを通じて月に50件から60件程度の問い合わせがあるという。
さらに畑社長が取り組んだのが会社のイメージ刷新だ。2022年に新社屋を建設し本社を現在地に移転するとともに、社名も畑鉄工所からハタメタルワークスに変更した。銅加工が主力なのに「鉄工所」ではイメージが湧きにくい。社名変更に当たっては、「ハタ」は取引先などから「畑さん」と呼ばれていたので残すことにし、カタカナにしたのは若者に関心を持ってもらうためだったという。ウェブ戦略もイメージ刷新も成長には欠かせないツールなのだ。
M&A視野、中小企業同士の協力関係構築が成長のカギ

畑社長が次の一手として検討しているのが、金属を高速・高精度で切断するファイバーレーザー加工機の導入や自動化ロボットのさらなる採用だ。畑社長は「100個、200個という大量生産の製品は自動化ロボットに任せ、職人技が必要な小ロット生産との棲み分けを図りたい」と話す。将来的には異なる強みを持ち、補完関係にある同業者とのM&Aも視野に入れている。
畑社長が最近、痛感しているのは中小企業同士の連携強化の必要性だ。銅などの金属の価格が高騰する一方で、下請け的な立場にある中小企業は大手企業からの価格引き下げ要求をのんできた経緯がある。銅建値を見ると、2015年12月に1トン当たり61万円だったのが、今年4月には220万円を超える水準になっており、今後も銅価格が上昇していく可能性がある。
「プレス加工が得意な社、バリ取りが得意な社、ロウ付けが得意な社と各社にも得意と不得意がある。また、うちみたいに1個、2個と少量生産が得意な社もあれば、1000個と大量生産が得意な社もある」(畑社長)。大手企業に対抗するためには、各社が得意分野に特化して連携することで、より付加価値の高いものづくりが実現し、価格交渉力を高めることが可能になるというわけだ。
畑社長は「中小企業は、あの会社はこれぐらいの価格でやっているというようなことばかり気にしがちです。お互いの技術でもっと良いものを作っていくようになれば、業界全体がもっと強くなります」と強調する。自社の強みを磨きながら、中小企業同士の協力関係を築くことが持続的な成長のカギとなると考えているのだ。同社のV字回復の原動力となったのは、従来の枠組みにとらわれない斬新な発想である。同社の改革の軌跡は中小企業が競争力を高めるためのヒントとなりそうだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ハタメタルワークス
- 設立
- (創業)1935年6月
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 21人(2026年5月1日現在)
- 代表者
- 畑敬三 氏
- 所在地
- 大阪府東大阪市高井田16番8号
- 事業内容
- 銅加工・金属加工



