2026年 5月 29日
アルミニウムは最も身近な金属の一つだ。缶やホイル、1円玉。日常生活で当たり前のように目にしている。軽くてさびにくく、加工がしやすい。幅広い産業分野で活用され、なくてはならない素材になっている。埼玉県羽生市にある株式会社TACは、産業用部品を中心にさまざまなアルミ鋳造品の製造を手掛けている。MMC(アルミ基複合材料)と呼ばれる非常に高い剛性(たわみにくさ)を持ったアルミ材料の鋳造法を確立するなどオンリーワンの高い技術開発力を誇っている。
さまざまな産業分野の基幹部品を鋳造

「われわれの仕事は縁の下の力持ち。アルミの鋳造技術を用いて、お客様が設計した図面に基づいて製品を鋳造し供給している。とくに自社の製品を持ってはいないが、これまで培ってきた鋳造技術を高く評価していただき、受注をいただいている」と代表取締役の田島正明氏は胸を張った。
TACが得意とするのは、細かい砂でかたどった鋳型にアルミニウム合金を流し込んで製品を製造する砂型鋳造だ。複雑な形状や大型の鋳造に適しており、建設機械や工作機械、CTスキャンなどの医療機器、半導体製造装置といった日本を代表する産業分野に基幹となる部品を供給。また、アート作品やモニュメントといった景観物も鋳造している。都内にある大手化粧品ブランドのビルの外装やアパレルブランド店の内装などにもTACの技術を生かした作品が採用されている。
2025年には、国内大手建機メーカーから鉱山などで使われる46トンクラスの巨大ダンプカーの部品の受注を獲得し、成長を後押ししている。「鉄で作られていた部品をアルミにすることで軽量化でき、積載量を増やすことができる。燃費も良くなる。建機メーカーのプロジェクトに参画し、5年半かけて開発した部品がようやく立ち上がった」と目を細めた。
取引先が相次ぎ倒産、先輩経営者たちが窮地を救う

TACの創業は1968年。埼玉県川口市で、田島氏の父が創業した。厚焼き玉子用のアルミ製フライパンを夫婦と社員2人で製造していた。その後、歯科医療器を製造する仕事を獲得。「これから事業が大きくなる」という矢先に父が他界してしまった。創業してわずか5年後のことだった。事業は母が経営を引き継ぎ、田島氏は高校を卒業すると、取引先の会社で数年経験を積んだのち家業に入った。
ところが、苦難の連続で、2年ほどの間に新規営業で開拓した会社が3社相次いで倒産。売掛金の回収もできず倒産の危機に陥った。「能力もない、運もない。もうやめようと思った」と田島氏は振り返る。1980年代のことだ。窮地を救ってくれたのは、先輩経営者たち。「金はなくても、お前には若さがある。やめずにがんばれ」と、失意の田島氏に仕事を紹介してくれた。借金を全額返済するため、工場と自宅を処分。仮工場に移転して再起を図った。「本当にみんなに助けてもらった」と今も感謝を忘れずにいる。
現在の本社がある羽生市に工場を建てたのは1994年。「思い切って年商以上の借金をした。どうせ作るなら同業者の追随を許さない工場にしようと思った」。工場が稼働すると、風向きも変わってきた。大手メーカーから公共工事関連の仕事が次々と入ってきた。
そして、会社の運命を大きく変えるオファーが舞い込んできた。
MMCの鋳造技術を確立 成長の礎に

「MMCの鋳造をやっていただけないか」
大手セメントメーカーの子会社からこんな相談を持ち掛けられた。MMCはアルミ合金に炭化ケイ素のセラミックス粒子を均等に混ぜ込んだ素材で、軽量でありながら剛性は鋳鉄と同等、熱による膨張も通常のアルミ合金の3分の2という優れた特性を持っている。この会社は、米国からMMCのライセンスを取得し、日本での市場展開を計画。MMCを使った素材で製品の鋳造を引き受けてくれる会社を探し、田島氏にたどり着いた。
海のものとも山のものともわからない素材。しかも公共事業の受注が増え、急に忙しくなったタイミングだっただけに田島氏はこの依頼を一度断ったそうだ。ところが、その1年後、その会社の社長が自ら田島氏のもとを訪れ、「やはり御社しかいない」と再度協力を依頼した。
「『この材料を世の中に広めたい。この材料は、アルミのステンレスになる』と言われた。『面白い』と思い、引き受けることにした」
MMCの鋳造は米国でも実績がなかった。実際に鋳造してみると、なかなかうまく仕上がらない。「アルミ合金にセラミックが入っているので、溶解してもドロドロで粘性が高い。型に入れると鋳物の中に空気が入ってしまい、欠陥が通常の何十倍も出てしまう。本当に苦労した」。田島氏は大学や業界団体からさまざまなアドバイスをもらいながら技術を磨き上げ、それでも2年で実用化にこぎつけることに成功した。セラミックスを30%複合したMMCの鋳造技術の実用化は国内で初めて。さらに40%の複合も可能にした。

開発中はTACに利益が出ない状態だったが、依頼した会社は営業先からの見積もりの段階でサンプルの製造を発注し、TACに代金を支払った。「これは本当にありがたかった」と田島氏。その後、依頼した会社は半導体製造装置メーカーからの受注を獲得し、TACが鋳造を担った。
実用化にあたってTACは、独自の鋳造方法を新たに開発した。通常、溶解した金属を型に流し込む場合、「上から下へ」と重力で注ぎ込むが、発想を転換し、空気の圧力を使って「下から上へ」と注入する砂型低圧鋳造法だ。注入時に波が立たず、気泡や溶融が流れやすくなり欠陥が発生しにくくなるため、高品質の鋳造ができるようになった。
一方、MMCは頑丈な分、加工が難しく、取引先から「もっと加工がしやすいものを」という要望があったことから、より加工がしやすい新たな高剛性アルミ合金の鋳造技術も新たに開発した。この合金はAI関連業界からのニーズが高く、製造が間に合わないほどの引き合いを受けているという。
高いアルミ鋳造技術は大手メーカーに一目置かれ、大手自動車メーカーとスポーツカーに搭載するトランスミッションの開発を共同で行った経験も持っている。「その時の経験は、現在の受注の柱となっている46トンダンプの部品開発にも役立った」と田島氏。たゆまぬ技術の研鑽が現在の成長を支えている。
1社だけでは厳しい目標…同業・異業種連携を突破口に

「100億宣言」は、中小企業が飛躍的成長を遂げるため、自ら「売上高100億円」という野心的な目標を目指し、実現に向けた取り組みを進めていくことを宣言する。当初、田島氏は「年商20億円ほどで100億宣言なんて、おこがましいと思った」という。しかし、多くの関係者から後押しを受け、宣言することを決心した。
TACが宣言した実現目標では、5年後の2030年に売上高35億円、さらにその5年後の2035年に100億円超にすることを目指している。医療機器(CTスキャン)メーカーをはじめとする既存顧客から求められている増産への対応を進めるほか、脱炭素化を背景とした機器・装置の軽量化需要を掘り起こして新たな市場を開拓。年率20%以上の売り上げ成長を目指す。
「人の数、生産するスペース、設備…。現状では、すべての経営資源が足りない。『すべて1社で』と考えると到底無理」と田島氏は分析している。その中で、取り組んでいるのが同業・異業種のアルミ関連企業との連携の強化だ。
TACでは、県内を中心とした中小アルミ鋳物・加工会社など約20社とパートナー関係を構築している。そのネットワークを生かし、それぞれの企業の得意分野に応じた製造の委託を行っている。また、同業の経営者5人と共同出資して販売会社を設立。年商5億円の規模に成長させるなど連携を強めている。1社1社規模の小さい中小企業でも多くの企業がタッグを組むことで、中堅企業並みの力を発揮できる。今後、生産管理システムを共有するなどネットワークをさらに進化・強化し、生産力や収益力の拡大につなげる考えだ。
「業界を見渡すと明らかにアルミ鋳物メーカーが減っている」と田島氏は業界の先行きを危惧する。最近は「息子が継がない」と家族経営の小さな工場が廃業するケースだけでなく、従業員30人規模の工場が突然廃業するようなことも起きているのだそうだ。加えて、取引先の中には鋳物の詳しい知識を持ったベテランの担当者が減少。メーカーとして、取引先向けの手厚いサポート体制を構築する必要性が出てきているという。
「鋳物メーカーが減って一番困るのはお客様。仲間同士が連携して技術を守り、お客様に安定して製品を供給できる体制を整える。そうすることで、100億円の達成は可能になる」と強調した。
社名を変更 個人色なくし、次世代にバトンタッチ

経営面では、娘婿である小椋友宏氏が副社長として経営に参画。後継者を固め、多くの中小企業が課題とするアトツギ問題に道筋をつけた。売上高100億円という野心的な目標の達成は、田島氏の次の世代が大きな役割を担う。
田島氏は、1990年から使用してきた「田島軽金属」という社名を2025年7月付で現在の「TAC(ティー・エー・シー)」に改めた。田島氏によると、TACは「Tajima Aluminum Corporation(タジマ・アルミニウム・コーポレーション)」の頭文字ではなく、『Total Aluminum Creativity(トータル・アルミニウム・クリエイティビティ)』という言葉から採用したという。「次の世代にバトンタッチするうえで、個人色をなくしたい」と、自身の名を冠した社名の変更に踏み切った。
約40年間にわたって社長を務めてきた田島氏。これまでの自身の経営を見つめ直し、組織そのものの改革にもチャレンジした。3年間の限定で従来からのピラミッド構造の組織をフラットな組織に変更した。社長、取締役、部長、課長の肩書をなくしたところ、上司が肩書きを振りかざして、一方的にものを言うようなことはなくなったそうだ。従業員も積極的に意見を言うようになり、社員の意識改革につなげている。
過去にこだわりを持たず、次世代が経営しやすい環境づくりにも余念がない。大きな目標に向けてチャレンジするTACの今後の事業展開が注目される。
企業データ
- 企業名
- 株式会社TAC
- 設立
- 1968年4月
- 資本金
- 6000万円
- 従業員数
- 86人(2025年6月現在)
- 代表者
- 田島正明 氏
- 所在地
- 埼玉県羽生市藤井上組字城沼1375
- 事業内容
- 砂型アルミ鋳物、アルミ複合材鋳物製造・加工、電動式鋳型反転機の製造販売



