顧客と商圏を絞って、手厚いサービスを実現
「留守中の水やり頼みたい!
家に一晩泊まってもらえないかな
ちょっと買い物してもらえないかな?
少しタンスを動かしたい
お店に行きたいけど…
ヤマグチはとんで行きます!
いろいろお手伝いさせていただきます」
名刺の裏にこんな文言を載せているのが、株式会社ヤマグチ(東京都町田市)が運営するパナソニック系列の電器店「でんかのヤマグチ」だ。一見すると、家電販売店の業務とは思えないものばかりだが、同社の営業担当者が“裏サービス”として実際におこなっていることの例である。
安売りをアピールする大手量販店6店舗に囲まれているにもかかわらず、ヤマグチは適正価格での販売を続けている。粗利も、業界が25%ほどといわれる中で、ヤマグチはこの数年40%を超えている。それは、独自のビジネスモデルによる徹底した市場開拓の結果だ。
もともと、最初からヤマグチは現在の販売スタイルだったわけではない。ヤマグチが町田市に店舗を構えたのは54年前の1965年。創業当時は、いわゆる「街の家電店」として営業をしていた。
その風向きが変わったのは、1995年頃のこと。量販店が相次いで進出、その影響でじわじわと売り上げが落ち始めた。社長の山口勉氏は「価格競争をしても量販店にはかなわないと悩んだ。そこで、量販店の土俵で戦っても仕方ない、我々の土俵で戦おうと決めた」と話す。
「昔は味噌やしょう油が切れると、近所の家にもらいに行ったものです。ヤマグチはそんな日本的な信頼関係を築けばいい。今の時代なら、娘や息子の代わりにもなろうと考えた」と山口社長の山口勉氏(写真:菊池一郎)
我々の土俵とはどこか。商圏と顧客を見直した。以前は商圏を区切らずに対応していたが、町田市と旧相模原市に限った。そのうえで、直近5年間で家電購入履歴のない顧客は顧客リストから外した。それまでは、「一度でも買ってくれた人や過去に高額な買い物をしてくれた人に対して、営業担当者は『いつか買ってくれるだろう』と思って定期的に訪問したり、DM(ダイレクトメール)を送付したりしていた。しかし、それはこちらの片思いにすぎない」(山口氏)。
この結果、顧客リストに掲載している顧客は3分の1に減った。山口氏の考えは、こうだ。「残ったお客様に今までの3倍、サービスをするために、定期的に訪問する。それにより、値引き営業をやめて当時は25%だった粗利を35%に引き上げる。そうすれば、もし売り上げが3割減っても粗利はほぼ変わらないので生き残れる」。
この3倍のサービスが先に挙げた、顧客の困り事を手伝うことである。定期的に顧客を訪問し、留守番、植木の水やり、お使い、送り迎えなど、どんな要望にも対応している。名刺にある「一晩泊まる」という依頼も、実際に過去2回あった。
訪問時には家電を点検するほか、テレビとエアコンのリモコンの無料電池交換サービスを実施している。“家族”のような人間関係を顧客と築くと、テレビや冷蔵庫、洗濯機などの高額家電もヤマグチの設定する価格で購入してくれるようになった。顧客にしても値切らずに購入しているという堂々とした気持ちがあるため、遠慮なくお手伝いを依頼できる。
これほど手厚いサービスが可能になった背景として、1人の営業担当者が定期的に訪問する顧客数は以前の500人から350~400人と少なくなり、商圏も狭くしたので移動距離も短くなったという点が挙げられる。結局、8年で粗利35%という目標を達成することができた。
現在も顧客リストは半年ごとに見直し、ルール通りに過去5年間で購入のなかった顧客は外している。しかし外れる人数に対して、新しく顧客リストに載る人数もほぼ同数だという。結果的に顧客リストの顧客数は毎年6,400人ほどで安定している。「顧客数を増やすことではなく、上得意客を増やすことが大事」と、山口氏は考えている。
お客の来店を促すために、食料品や日用品の特売デーを設けたり、コーヒーを無料で提供したりしている(写真:菊池一郎)
2017年、山口社長は町田市を中心とした近郊のパナソニックショップをグループ化する組織ショップ「ライフテクト」を立ち上げた。現在は、ヤマグチの経営ノウハウを伝授しながらグループ全体で粗利率40%を目指している。